「生きているのね、生きているのね。」
ツバメからドッキンという心臓の音を聞くと親指姫は自分の体より大きなツバメが
怖くて震えていましたが、勇気を出して体をもっと綿で暖めてやりました。
次の晩もこっそりとツバメに会いに行くと、なんとツバメは目を開けていたので、
親指姫はバラの花びらに汲んできたお水をそっとツバメの口の中に入れてあげました。
「さあ、美味しい水を飲んでごらんなさい。元気がでるわよ。」
「ああ美味しいお水だ、ここはどこですか、可愛らしいお嬢さん。」
ツバメは言いました。
「土の中よ。」
「どうして僕はここにいるんだろう? 南の方へ仲間と飛んでいるとき、いばらの藪
に羽をひっかけて痛めてしまったんだ。仲間とはぐれて落ちてしまったんだ。」
「温かくなったらまた飛べるようになるわ、それまで私がお世話するから大丈夫よ。
元気を出してね、ツバメさん。」
寒い冬の間中、親指姫はツバメに水や食べ物を運んでやりました。
モグラも野ネズミのおばあさんもツバメの事は忘れていたので助かりました。
外はだんだんに暖かくなり春が来て、お日様の明かりは土の中に沁みとおり、
凍り付いた大地は暖かくなりました。
「もうお外に出ても大丈夫よ。」
親指姫は天井の穴を開けると、眩しいお日様の光が、サッと廊下に差し込みました。
「ああ、お日様、私の大好きなお日様。」
親指姫は両手をお日様の方へ伸ばすと、眩しさのあまり、あまりにも懐かしくて、
涙が目からぽろぽろこぼれ落ちました。
「いっしょに行きましょう。僕の背中に乗って緑の森へ行きましょう。」
「いいえ、行けません。私がいなくなったら野ネズミのおばあさんがどんなに
寂しがることでしょう。」
「でも・・・・。」
「さようなら、ツバメさん。」
「さようなら、親指姫さん。」
ツバメは涙ぐんでお日様の光の方へ飛び立っていきました。
親指姫は手を振っていつまでも見送っていましたが、大好きだったツバメの
姿が見えなくなると、ワッと声をあげて泣き出しました。
また暗い穴の中で暮らすのかと思うと、たまらなく嫌だったのです。
ツバメが去った後は、親指姫は本当に悲しい日を送りました。
また春になりお日様の光が輝いていても、親指姫は外へ出る事を許してもらえま
せんでした。
やがて、野ネズミの家のある畑にも麦がどんどん伸びて金色に色づいてきました。
春が過ぎ去り、夏が来たのでした。
アンデルセンは父親と同じように本を読むことが好きで,人に貸してもらって熱心
に読みました。
劇に使われる人形の衣装を女の子のように繕うのを好んだので、母は仕立て屋見習い
に出しましたが、アンデルセンは綺麗な声で詩を読み劇ごっこに夢中になっていたの
で続きはしませんでした。
15歳の時、オペラ歌手になろうと首都コペンハーゲンへ行きましたが、歌手になるの
を断られ、わずかな残り金は直ぐに無くなり、困っていました。
アンデルセンと言えば、この親指姫同様、人魚姫、みにくいアヒルの子、そしてマッチ売
りの少女など世界的に愛されてきた童話があります。
何か明るい解放感がありますね。
忘れている人もきっと幼児の頃、見ているわ!
大好きだったはずだわ!