こんにちわ、
さあて、アンデルセン童話親指姫、いよいよ最終章になりましたよ。
ツバメに再開する時がやって来ました。
夏が来て、麦が黄金色になってきました。
お隣の黒ビロードのモグラと親指姫の結婚が決まりました。
「さあ、夏の間にお嫁入をいなくちゃ、毛とリンネルの洋服と布団と
何しろお金持ちのモグラさんの所へ行くんだからね。」
野ネズミのおばあさんは、忙しくてクモを4匹雇い夜も昼も機を織らせ
ました。
親指姫も糸車をまわし糸を紡ぎレースを編んだりしなくては行けなくて、
遊んでいる暇はありませんでした。
日が暮れると毎日モグラが会いに来ました。
「秋になったら結婚式をあげよう。今は私の大嫌いなお日様が暑すぎる
からね。」
親指姫はモグラがいやでたまりません。
「ツバメさんと行けばよかった・・・・。」
どんなに後悔をしたことでしょう。
夜明けに、そっと戸口へ出ると、風が吹いて麦の穂をサッと鳴らすと、麦は
きれいに二つに割れ、そこから青い夜明けの空が見えてくるのでした。
「地面の上はなんて明るいのでしょう、ツバメさんに会いたい、飛んできて!」
あれから一度もツバメには会うことができません。親指姫はいつも地面の下に
居させられたからです。
「どこにいるのかしら? もう遠い遠い森へ行ってしまったのかしら。
会いたい。」
そして、力なく、また暗くて湿気のある土の中へ戻るのでした。
秋になり、お嫁入の準備は整い、いよいよ結婚式が目の前にきました。
「直お嫁入だよ。」
「お願いです。モグラのお嫁にはなりたくありません。どうしても嫌です。」
「なんてこと言うの、私の白い歯でかみついてやるよ。モグラさんほどお金持ちで
学問があり、立派なお婿さんはいないよ。黒いビロードの毛皮は素晴らしいんだよ。
二度とこんなこと言うでないよ。」
野ネズミのおばあさんは白い歯をむき出してうなりました。
もうどうすることもできない親指姫でした。
モグラがおめかしをして迎えに来ました、結婚式の日が来たのです。
これからは、深い地面の底にあるモグラの屋敷で生活するのです。
もう2度とお日様を見る事もできないでしょう。
モグラ程お日様を嫌いな人はいませんから。
「お日様さようなら。」
親指姫は家の入口へ駆けあがり、もうたまらなくなって外へ出ました。
畑一面にあった麦の穂はすっかり刈り取られていました。
その後に、小さな小さな赤い花が一本風に揺られていました。
親指姫と同じ背の高さでした。
「あなたともお別れね。」
そう言いながら、赤い花を抱きしめた親指姫でした。
「もしツバメさんが来たら、よろしくと言ってたと伝えてね。」
その時突然風が動きました。
ピュージュクジュク、ルーリックルーリック,ピュージュクジュク
鳥の澄んださえずりが頭の上から聴こえてきたのです。
「アッ、ツバメさん!」
「何回もここへ来ていたのですよ。でもあなたを見つけることはできなかった。」
ツバメの名を叫ぶ親指姫に、再会の喜びの声でさえずるツバメでした。
「ツバメさん、わたし・・・今日嫌なモグラのお嫁になるの。そうしたらもう2度と
お日様を見られなくなる?」
涙声でせいいっぱい言う親指姫でした。
「そんなバカなことあるもんですか? さあ、僕の背中へお乗りなさい。
綺麗な花が一年中咲いている暖かい南に行きましょう。」
!
「行くわ、今度こそ行くわ!」
腰に結んでいたリボンでツバメの体と自分の体をしっかりと結びつけました。
大きな夢と希望が湧いてきましたね、そして土の中にいた親指姫が大空を冒険
します。
親指姫は小さな美しい花の種から生れたのです。
アンデルセンは貧しくて基礎的な勉強をしていなかったので、ラテン語学校の給費生
になり、自分より年下の学生達に交じり一生懸命勉強を続けた。
その間にも、詩を書いたり、旅行記の本を出したりしましたが様々な辛酸な経験も
した。
そして30歳の時、小説「即興詩人」を出版すると、彼の名はヨーロッパ中に知られた。
その2,3か月後に第1集の童話を出版したのでした。
与田準一氏
童心社の本「おはなしアンデルセン」の中から
おやゆびひめ 松谷みよ子訳を改編しました。