優しいお母さんの家から心なくもヒキガエルに連れ去られてしまった親指姫。
川の蓮の葉の上に乗せられている親指姫を事情を知り怒ったお魚さんたちが助ける。
ドンブリコ、ドンブリコと親指姫は流れていく。
果たして親指姫の運命やいかに?
ジャジャジャジャーン!
睡蓮の葉は白雪姫を乗せて川を流れ、色々な町や森を通り過ぎていきました。
それはそれは楽しい川の旅でした。
親指姫を好きになった真っ白い蝶々がどこまでも付いてきます。
親指姫は自分の細い飾り紐を解いて、蝶に結びつけました。そしてもう一方は葉に結
びつけました。
グングンと走り始めた睡蓮の葉を「すてき、すてき!」と親指姫は小さな手で拍手を
し喜んでいました。
突然、ブーンと音がし、黄金虫が飛んできて、あっという間に親指姫を捕まえて飛び
去り、川を跳び越すと親指姫を森の樫の木の上におろしました。
「蝶々さあ~~ん!」
「ああ、蝶々さん、睡蓮の葉に紐で結びつけてしまって、誰があなたをほどいてくれ
るでしょう?」
蝶々の事を思うと胸が締め付けられる親指姫でした。
黄金虫は花の蜜を集めてきて親指姫に食べさせると、沢山の仲間がやってきました。
黄金虫達は「気持ちが悪い外観だ」と言いだし、親指姫をひな菊の上に置くと飛び去る
始末です。
「そんなに私はみっともないのかしら?黄金虫の仲間に入れてもらえない程に」
ワッと泣き出した親指姫の目から噴き出る涙はふいてもふいても止まりませんでした。
でも、泣くだけ泣くとしゃっくりをしながら立ち上がりました。ひな菊の茎をつたっ
て下へ降りると森はもうすっかり暗くなっていました。
「たった一人ぼっちで、この森で暮らすのね。」
小さな親指姫にはこの大きな森は怖くて心も体も震えました。
手で細い草を折りとるとテントを編み、そのテントをクローバーの下にかけて雨除
けにし、ベッドも編みました。
(がんばって親指姫さん!)
食べ物はミツバチや蝶と同じように花の甘い蜜で、朝は毎日花の上にたまった露を
すくって飲みました。
夏が過ぎて秋がやって来た時、夏中楽しい歌を唄ってくれた小鳥たちも、どこかへ
飛んで去ってしまい寂しくなりました。
黄色の枯れ葉がバサッバサッと落ちるたびに、親指姫は怖かった。
クローバーも枯れてしまい、もう花も咲かなくなり食べるものがなく、親指姫は
寒さと空腹とで今にも倒れそうでした。
そして、お母さんが作ってくれた洋服は、もうボロボロになっていたので、洋服
代わりの枯れ葉に包まりながらトボトボと歩いていました。
花びらのような大きな雪がポタポタと降り出すと、小さな親指姫には雪がとても怖
くて、まるでシャベルで雪を投げつけられているようでした。
長い道のりを歩くと森の外にでました。
そこは一面が広い麦畑でしたが、麦はとっくに刈り取られて、凍り付いた大地になって
いました。
親指姫は何回も転びながら切り株の間を歩いたので足からは血が流れていました。
「とても寒いわ、凍えそうだわ。」
親指姫が倒れそうになった時、切り株の下にある野ネズミの家の前にいました。
「お願いです、どうか食べ物をお恵み下さい。」
「まあまあ、可哀そうに、温かい家に入りなさい、沢山の麦がしまってあるよ。」
野ネズミのおばあさんは憐れんで言いました。
「寒い冬中ここにいていいよ。その代わり私の部屋を掃除してね。私は一人暮
らしで寂しいからお話を聞かせておくれよ。お話が大好きだよ。」
親指姫はどんなに嬉しかったか言葉になりませんでした。
暖かな部屋にひもじい思いもせずに、寒い冬を越すことができるのです。
野ネズミのおばあさんとの楽しい日が続いたある日の事でした。
「明日ね、隣に住んでいるお金持ちのモグラさんが来るよ。大きなお屋敷に高価な物
を着ているよ。おまえがモグラさんの嫁になったら贅沢な暮らしができるよ。」
次の日訪問してきたもぐらは、自分が偉い学者だと吹聴しました。
「おもてなしに、歌を唄ってね。」
親指姫が美しい声を出すとモグラはすっかり感心してしまいました。
「ついこの間、私の屋敷からお宅まで長い廊下を掘りました。これからご案内しま
しょう。しかし、廊下の途中に死んだ鳥がいるのですが気にしないでください。」
そういうと、もぐらはロウソクのように光る腐った木を加えて、廊下に出た。
しばらく歩き、もぐらが天井を鼻でぐっと押し上げたら、穴がポッカリあいて、外の
光が差し込んできた時、何かが見えました。
それは身体を固くして動かない一羽のツバメでした。「ピーピー鳴くより芸がない。」
モグラもおばあさんもツバメの悪口を言い立ち去りました。
夏中どんなにかツバメさんは、美しい声で歌を唄ってくれたでしょうか!
胸がいっぱいになった親指姫は、二人が向こうを向いたすきに、ツバメさんにキスを
しました。
夜になっても心配で眠ることのできない親指姫は枯草でお布団を編みました。
お布団をツバメの上にかけてやり、胸の周りにはには綿を敷いてやりました。
「さようなら、ツバメさん」と言いながらツバメを抱きしめると、なんとドッキン
ドッキンと心臓の鼓動が聞こえてくるではありませんか。
「生きていたのね!」
親指姫の体はブルブル震えましたが、もっと沢山の綿をツバメの周りにおき、体を
温めてあげました。
アンデルセンはとても貧しくたった一間しかない家で育てられました。
貧しい靴職人の父親は、本が好きだったのでアンデルセンがまだ赤ん坊の頃から
童話や詩、劇、逸話などを話して聞かせました。
母親は字が読めませんでしたが綺麗好きで働き者でした。
アンデルセン9歳の時、父親は兵隊に徴用され病気になり、帰国後亡くなりました。
母親は再婚をしアンデルセンはみなし子(孤児)のようになり、苦しい青年期を
送ったといいます。