早いもので、あれからもう二年が経とうとしている。
運良くマリーンズは生き残ったものの、大阪近鉄バファローズとオリックスブルーウェーブが消えてなくなり、東北楽天ゴールデンイーグルスが新たに発足した。
球場は、あの日のことがまるで嘘のように賑わいかえり、あの日のことを知らない新規ファンもまた、球場を席巻している。
まるであの日が、この球場にまるで存在していなかったかのように、
あの日。
七夕の夜に、何人ものマリーンズファンが、いつ明けるとも分からぬ夜空に向かって「白いボールのファンタジー」を、吠えながら歌い上げたことか。
七夕の夜に、何人ものマリーンズファンが、「合併反対」の短冊を笹の葉に下げたことか。
七夕の夜に、何人ものマリーンズファンが、画用紙にありったけの力を込めた肉筆で「合併反対」の文字を書き殴ったことか。
七夕の夜に、何人ものマリーンズファンが、周りの「大丈夫だから! 絶対にマリーンズは大丈夫だから!!」との励ましに、やけっぱちになって襟首を掴みながら「なにが大丈夫なものか! なんの保証があってそんな安っぽいセリフが言えるんだ!?」と、静止を聞かずにやさぐれたことか。
七夕の夜に、何人ものマリーンズファンが、「俺が大金持ちだったら、球団の一つや二つ買収してやるのに」と、いつも財布の中身を覗きながら、ビールの売り子のお姉タンの顔を見るたびに財布のひもなんぞいつもゆるゆる、帰る頃には酔っぱらって身もボロボロ、財布もボロボロという酔っ払いオヤジがとぐろをまいていたことか。
七夕の夜に、何人ものマリーンズファンが、全国に散らばるマリーンズファンは、この事態をどんな思いで夜空を見上げているのかと思うと、幕張の浜で、寄せては返す波の間に叫ばなければやっていられなかったか。
その日は夜勤明けだった。
眠さをむさぼりながら帰りの電車の乗換駅で、ふとキオスクに目をやった。
「もう一つの合併 ロッテか」
その見出しを見た瞬間、言うにいわれず、やむにやまれず、津波とも大津波ともとれぬ、とてつもない不安感に襲われた。俺だってだてに8年マリーンズファンをやってきているわけではない。もう眠気などどうでもよかった。いつもは見出しだけは見てもまったく手にさえ取らないサンスポを、獣のような形相で睨み付けたことだった。
そんなバカな。
とにかく今日試合があるのだから出掛けよう。うまいことにその日は休みだから助かった。
球場に行って、いつもは外野席で渋チンぶりを発揮していないで、たまにはバンと指定席で見よう、いくらずつ球団に回るかはわからないけれど、ビールも余分に多く飲もう。もう何が何やら、頭がこんがらがったまま、寝ぼけ眼で家を出た。
その日の試合展開がどうだったとか、対戦相手はどこだったとか、スコアはどうだったとかは、あいにくとまるっきり覚えていない。
試合後に外野席にお邪魔していつもの仲間と合流したら、応援団が観客を集めてレクチャーが始まった。
「報道でみんな知っていると思うけど、球団は今大変な危機にある。俺たちは悔しいけれど、『合併反対』を叫び続けるしかないんだ。これしかないんだ。」
おおよそこんなレクチャーだったろう。
そして、みんなで夜空に歌った「白いボールのファンタジー」
その瞬間、訳の分からないいろんな諸々が一気に吹き出して、どうにも抑えられなくなった。そりゃそうだ。本当に合併の話が本当だとしたら、大好きなマリーンズも、マリンスタジアムも、各地で出会った大切な仲間も、全部失うかもしれない。
もうこの夜空に雄叫びを上げることが出来なくなってしまうのかと思うと、もう大好きなマリーンズと千葉マリンが消えてなくなるのかと思うと、自分の遊び場すら満足に守れない己の無力さに、自分の中で崩れてはいけない何かが、一気にせきを立てて土石流のごとく、心という三角州を覆い尽くした。
今となっては、仕事の都合上もあって、合併反対のデモ行進に一回でも参加できなかったのが、なぜかしら心残りである。
俺が、合併騒動で、一体何が出来たというのか。
今思うと、それが心残りでならない。
せっかくこうしたネタまで仕込んだのに。
表はどこからどう見ても長州力Tシャツ。
裏を返せば…。
こんなシャツのためだけに4000円も払ったおいらをバカと呼ぶなら呼びたまい。
忘れ形見は、まだ残っている。
運良くマリーンズは生き残ったものの、大阪近鉄バファローズとオリックスブルーウェーブが消えてなくなり、東北楽天ゴールデンイーグルスが新たに発足した。
球場は、あの日のことがまるで嘘のように賑わいかえり、あの日のことを知らない新規ファンもまた、球場を席巻している。
まるであの日が、この球場にまるで存在していなかったかのように、
あの日。
七夕の夜に、何人ものマリーンズファンが、いつ明けるとも分からぬ夜空に向かって「白いボールのファンタジー」を、吠えながら歌い上げたことか。
七夕の夜に、何人ものマリーンズファンが、「合併反対」の短冊を笹の葉に下げたことか。
七夕の夜に、何人ものマリーンズファンが、画用紙にありったけの力を込めた肉筆で「合併反対」の文字を書き殴ったことか。
七夕の夜に、何人ものマリーンズファンが、周りの「大丈夫だから! 絶対にマリーンズは大丈夫だから!!」との励ましに、やけっぱちになって襟首を掴みながら「なにが大丈夫なものか! なんの保証があってそんな安っぽいセリフが言えるんだ!?」と、静止を聞かずにやさぐれたことか。
七夕の夜に、何人ものマリーンズファンが、「俺が大金持ちだったら、球団の一つや二つ買収してやるのに」と、いつも財布の中身を覗きながら、ビールの売り子のお姉タンの顔を見るたびに財布のひもなんぞいつもゆるゆる、帰る頃には酔っぱらって身もボロボロ、財布もボロボロという酔っ払いオヤジがとぐろをまいていたことか。
七夕の夜に、何人ものマリーンズファンが、全国に散らばるマリーンズファンは、この事態をどんな思いで夜空を見上げているのかと思うと、幕張の浜で、寄せては返す波の間に叫ばなければやっていられなかったか。
その日は夜勤明けだった。
眠さをむさぼりながら帰りの電車の乗換駅で、ふとキオスクに目をやった。
「もう一つの合併 ロッテか」
その見出しを見た瞬間、言うにいわれず、やむにやまれず、津波とも大津波ともとれぬ、とてつもない不安感に襲われた。俺だってだてに8年マリーンズファンをやってきているわけではない。もう眠気などどうでもよかった。いつもは見出しだけは見てもまったく手にさえ取らないサンスポを、獣のような形相で睨み付けたことだった。
そんなバカな。
とにかく今日試合があるのだから出掛けよう。うまいことにその日は休みだから助かった。
球場に行って、いつもは外野席で渋チンぶりを発揮していないで、たまにはバンと指定席で見よう、いくらずつ球団に回るかはわからないけれど、ビールも余分に多く飲もう。もう何が何やら、頭がこんがらがったまま、寝ぼけ眼で家を出た。
その日の試合展開がどうだったとか、対戦相手はどこだったとか、スコアはどうだったとかは、あいにくとまるっきり覚えていない。
試合後に外野席にお邪魔していつもの仲間と合流したら、応援団が観客を集めてレクチャーが始まった。
「報道でみんな知っていると思うけど、球団は今大変な危機にある。俺たちは悔しいけれど、『合併反対』を叫び続けるしかないんだ。これしかないんだ。」
おおよそこんなレクチャーだったろう。
そして、みんなで夜空に歌った「白いボールのファンタジー」
その瞬間、訳の分からないいろんな諸々が一気に吹き出して、どうにも抑えられなくなった。そりゃそうだ。本当に合併の話が本当だとしたら、大好きなマリーンズも、マリンスタジアムも、各地で出会った大切な仲間も、全部失うかもしれない。
もうこの夜空に雄叫びを上げることが出来なくなってしまうのかと思うと、もう大好きなマリーンズと千葉マリンが消えてなくなるのかと思うと、自分の遊び場すら満足に守れない己の無力さに、自分の中で崩れてはいけない何かが、一気にせきを立てて土石流のごとく、心という三角州を覆い尽くした。
今となっては、仕事の都合上もあって、合併反対のデモ行進に一回でも参加できなかったのが、なぜかしら心残りである。
俺が、合併騒動で、一体何が出来たというのか。
今思うと、それが心残りでならない。
せっかくこうしたネタまで仕込んだのに。
表はどこからどう見ても長州力Tシャツ。
裏を返せば…。
こんなシャツのためだけに4000円も払ったおいらをバカと呼ぶなら呼びたまい。
忘れ形見は、まだ残っている。
後の世へ語り継がねばならないこと。
記録にとどめておくこととします。