父母のこと
母はいつもハワイに一度でも行ってみたいと言っていた。父とハワイに行きたいね、とよく話していた。結局生前は日本の地を出ることも飛行機にのることもなかった。今思えば、ハワイくらいに行かせてあげたらよかったと思う。可哀そうなことをした。その代わり、父母と私は伊豆の温泉によく出かけた。私が車の運転手を務めた。車中での会話や旅館で豪勢な食事をしたことは良い思い出だ。人間、父母が生きている間が花だ。死んでしまうとなんとも寂しい。父母とは掛けがえのない存在だ。今でも両親のことはよく思い出す。しかし、もういないというのが現実だ。父母と話したくてもどうしようもない。遺影を見つめて話しかけてみるだけだ。しかし、父母は死んだあとも、天国で私のことを思ってくれていると信じている。そう思うことだけがかすかな救いだ。父母は今もなお私の心のなかでは生きている。夢に出てくる父母は生きている。そうだ、私の心のなかでは、父母はまだ生きているのだ。
荒井公康