今日はミヒがアメリカの自宅に戻る日だった。ミヒはピアノのスタジオで昨夜チュンサンに父親について問い詰められて、涙ながらにジヌが本当の父親だということを告白していた。自分がかつて愛していたヒョンスの子供だと思い込まなければ生きていけなかったこと、チュンサンをヒョンスの子だと思うことで育てられたことを打ち明けた。泣き崩れて許しを請う母親を前に、怒り涙を流していたチュンサンはスタジオを出て行た。
しかしホテルに帰り落ち着きを取り戻しミヒは、朝一番にチュンサンのマンションを訪ねて、今までのことを再度詫びたのだった。チュンサンはミヒの泣きはらした顔を見ながら、やはり今まで女手一つで育ててくれた母親を憎むことはできないと思った。そして明日の命もわからない現状では、やはり母親の望む通り、ユジンに兄妹でないと打ち明けるのはやめて、結婚しない方がよいだろうと思っていた。チュンサンはミヒを見送るため、表まで出てきて言った。
「早く戻らないと飛行機の時間に遅れるよ」
しかしミヒは不安そうな顔で見つめていた。彼女は本当にチュンサンがアメリカに戻るのか、またもや韓国にとどまる決断をするのではないかと不安がっていた。そんなミヒを安心させるように、
「母さん、必ず行くから大丈夫だよ」とチュンサンは話し、落ち着かせるのだった。
「チュンサン、本当に私が悪かったわ。許してちょうだい。」としおらしく言う母親を無言でだきしめてタクシーに乗せるチュンサンだったが、やはりまだどこか浮かない顔でマンションに入っていった。そんな彼を遠くからじっと見つめる人物がいた。それはサンヒョクだった。
サンヒョクはチュンサンがアメリカに行く話を母親としているのを確認した後、朝一番でユジンの家に向かった。ユジンは朝早くサンヒョクが玄関に立っていたので怪訝な顔をしたが、家に入るよ
「やっぱり君を一人ではいかせたくない。僕も会社を辞めて一緒に留学しようと思うんだ」
「サンヒョク!!」
「僕は君と一緒に行くって決めたんだ」
「私はそんなこと望んでないわ、やめてサンヒョク」
「いや、僕は君と離れないと決めたんだ、分かってくれ。また今度話そう」
そういうと、サンヒョクは唖然とするユジンを残して、さっさと帰ってしまった。後に残されたユジンは、いったいサンヒョクはどうしてしまったのか、こんなの彼らしくない、まるで気が違ってしまったようだ、と考えるのだった。
サンヒョクの想いは、今度はチュンサンへと向かった。サンヒョクはその足でチュンサンの会社であるマルシアンに向かった。しかし、まだ彼は出社しておらず、サンヒョクはオフィスで待っていた。すると、驚いた様子のチュンサンが部屋に入ってきた。
チュンサンは挑発的な目でこちらを見つめるサンヒョクに驚いたものの、柔和な笑みを浮かべてサンヒョクを見つめた。そして複雑な顔をして
「君のお父さんは元気か?」と聞いた。サンヒョクはチュンサンをひたと見据えて「ああ」と答えた。彼はなおも挑発的な目でチュンサンを見ている。
「そうか、、、。でも会社にまでくるなんてどうしたんだ?」
「君に力を貸してほしいんだ。僕はユジンとやり直したいと思ってる。どうせ君たちは一緒になれないだろ?だから君が僕と彼女が一緒に留学するように説得してほしいんだよ。」
チュンサンはそれを聞いてとても苦しそうな顔をした。サンヒョクは何で怖い顔をして無理なお願いをしてくるのかわからなかったのだ。そもそも彼女が留学することすら知らないのだから。
「ユジンは、ユジンは留学するの?」
「ああ、フランスに行くんだよ。なあ言ってくれるよな?僕と一緒に留学しろって?」
「サンヒョク、、、そんなことを僕が、、、」
「言えないというのか?まだユジンに未練があるのか?」
チュンサンはサンヒョクの攻撃的な口調にため息をついた。
「申し訳ないけど、、、僕からユジンにそんな話はできないよ、、、」
「なんだって?さんざん僕たちを振り回しておきながらよくそんなことが言えるよな。君たちが兄妹でなくても関係ない。こんなに僕を傷つけて、うちの家族をめちゃくちゃにしたくせに!!」
チュンサンはサンヒョクの憤りに驚き、そして悟った。
「君は、、、真実を知ったんだな。それで僕にこんなことを言うんだろ、、、?申し訳ない。サンヒョク。どうすれば君の気が済むんだ、、、?分かったよ、、、、君の言うとおりにするよ。すべて君の望み通りにするから。」
「君が現れてからすべてがおかしくなったんだ!僕の大事なものを全部元通りにしてくれよ!」
サンヒョクは涙をいっぱい浮かべた憎々しげな眼でチュンサンを見つめていた。チュンサンはそんな彼に、返す言葉がなかった。自分さえ生まれてこなければ、自分さえ出生の秘密を知るために春川に行かなければ、ユジンに会わなければ、そして10年後に再び韓国に帰ってこなければ、、、、。皆を傷つけたのはすべて自分のせいなのだ。弟はユジンと結婚しただろうし、父も母も苦しまなかった、そして何より大切なユジンを傷つけて、フランスに旅立たせることにもならなかった、、、そう考えるといてもたってもいられず、頭を抱えるしかなかったのだった。
一方サンヒョクもまた、チュンサンを怒鳴りつけてマルシアンを飛び出したものの、気持ちは晴れなかった。チュンサンが悪いのではないとわかっていても、チュンサンに当たらずにはいられなかった。それぐらい、チュンサンはサンヒョクの人生の中心にいて、そして何もかもを狂わせて奪っていった。これからどうしていいのかサンヒョクにも皆目わからないまま時間だけが過ぎていった。