キムサンヒョクは、しばらく前から得体の知れない不安を感じていた。ユジンと自分がみんなの噂になった時の一週間は幸せなひとときだった。本当に自分が彼氏になったような気分だったのだ。
しかし、謎の転校生のカンジュンサンが来てからすべてが変わった。
あれはチュンサンとユジンが学校をサボることになった日の朝だった。登校したユジンの首筋に湿布が貼ってあったのに気が付いたサンヒョク。。ユジンに理由を聞いても
「ちょっと運動して首筋を痛めただけよ」と誤魔化されてしまった。
すると、やはり登校したチュンサンの口元にも絆創膏が貼ってあったのだ。チェリンは二人がおそろいのけがをしているということは、昨夜何かあったに違いないと疑っていたが、二人は決して教えてはくれなかったので、結局理由は分からないままだった。
極めつけは、何かと自分に嫌な態度をとるカンジュンサンとユジンが学校をサボるという事件があってから、クラスだけでなく学年の間で、2人は付き合っているに違いないという噂で持ちきりになった。
しかも、ゴリラがみんなの前で叱ったとき、ユジンがきっぱりと
「わたしが一緒に行きたかったんです」なんて言うものだから、それがサンヒョクの心をもっとも不安にさせた。ユジンはチュンサンが好きなのだろうか。
そして昨日、ヨングクたちと一緒にユジンをクリスマス恒例の放送部合宿に誘ったとき、ユジンは家族の用事があるから行けないと言っていた。チュンサンも誘ったのに、用事があって行けないと言う。ヨングクの「あの2人怪しいなぁ」と言う声が心の中でこだましている。
転校初日からユジンとなんとなく見知っている様子だったカンジュンサン。
初めからサンヒョクに敵対心を抱いていて、いつも冷たく当たられている。
そして、ユジンと二人の放送当番では放送事故が起こるほど、何か二人の間にあったようだった。
ある朝、そろってけがをしてそろって怪我をして登校した二人。
その午後授業をさぼって出かけて行った二人。
さぼった罰になぜか落ち葉焚き当番を1か月二人きりでやることになって、、、。
時々こそこそと話したり、放送当番の時もそそくさと行って、二人きりで放送室にこもっている。
クリスマスにはそろって用事があるというチュンサンとユジン。
2人ともそれからは素知らぬふりをしているけれど、時々絡み合うような視線を送っていることも、気になって仕方がなかった。
サンヒョクとユジンは生まれた時から一緒だった。同じ幼稚園、小学校、中学校、そして高校に進んだ。サンヒョクはいつの間にか、ユジン隣にいるのが当たり前になっていて、これからもずっとふたりは一緒なのだと思うようになっていた。それなのに、サンヒョクにやたらと敵対心をもつカンジュンサンがよりによってユジンと急接近している。しかも、ゴリラの落ち葉焚き当番のせいで、毎日一緒に帰るという役割まで譲ることになってしまった。まだ、転校して数週間なのに、自分のユジンをさらっていったチュンサンがサンヒョクは嫌で仕方なかった。
それだけではないのだ。今日は体育のバレーボールでチュンサンに挑発されて、危うく殴りそうにまでなった。なぜかチュンサンは自分のことをひどく嫌っている。いや憎んでいる素振りすら見せている。それは彼もユジンが好きだからなのだろうか。サンヒョクはどうにも腑に落ちなかった。今や、チュンサンの出現で、ユジンと自分の間だけでなく、自分自身も変わってしまいそうな怖さを感じるようになった。今まで優等生で誰にでも親切にしていた自分。常にそうあるべきだと思っていた。しかし、その考えが少しずつ揺らぎはじめている、、、。
その日の昼休みは、またまたチュンサンとユジンの放送当番だった。ひと足先に当番のために教室を抜け出すチュンサンを見つけると、サンヒョクは後を追った。
そしてチュンサンに
「ユジンをもて遊ぶのはやめろ。俺への当て付けなんだろ」と思わず言ってしまった。
チュンサンは自分の挑発にのり、実はユジンのことは本気でないとうなずいて、そこに現れたユジンを激怒させた。
その時のユジンの怒った顔と傷ついた瞳が忘れられない。しかも、2人が土曜日にデートの約束までしていたなんて。やっぱり。毎年恒例の放送部の合宿だったのに、ユジンがそれよりもチュンサンとの約束を優先させたことがまたショックだった。
サンヒョクの脳裏に、チュンサンがユジンを抱きしめて、キスをしている映像が繰り返し浮かんできた。許せない、嫌だ、と言う感情が心の底から湧きあがってくる。
サンヒョクはパンドラの箱を開いてしまったような気持ちになり、怖くなって身震いをした。
これから僕たちはどうなるのだろう。