ヨングクとチンスクは、チュンサンの記憶が戻ったと聞いて、不思議な気分がしていた。チュンサンと過ごしていたのはほんのちょっとの間だったが、彼はまるで嵐のように強烈な存在だったのだ。
ヨングクにとって、チュンサンは自分とは真逆の存在だった。端正な顔立ちと、筋肉質なスタイル、成績優秀で影のある不良っぽい性格、自分とは真逆すぎて、嫉妬もしなければ、羨ましいとも思わない存在だった。ヨングクは元の性格が単純かつ善良で、まっとうな両親に愛情深く、でも大雑把に育てられたので、卑屈なところが全くない少年だったのだ。だから、ヨングクはチュンサンを転校生として素直に受け入れることが出来た。一方でチンスクにとって、チュンサンは都会から来た得体の知れない男子生徒だった。ユジンの話ではタバコは好むし、遅刻もサボりも平気、不良だから近づかないのが一番、と思っていた。何よりチンスクにとってはヨングクが一番かっこよく見えていた。一度それをチェリンたちに言ったら、鼻で笑われてしまったけれども、チンスクは心の中ではヨングクが一番だった。チンスクもまた、ヨングクに負けず劣らずシンプルかつ善良なタイプで、人を疑わない『純粋』を絵に描いたような女の子だったのだ。
ある日の昼休みに、チンスクが学校のベンチに座っていると、ヨングクがやってきて、チンスクの膝に寝転んだ。チンスクはびっくりして悲鳴を上げてしまった。するとヨングクは、大発見というように、占い🔮結果を話し出した。ヨングクは占いが好きで、それが結構当たるのだ。
「カンジュンサンはみずのとの生まれだろ。で、チョンユジンはつちのえの生まれなんだ。だから、一見相性が悪いようで、実は惹かれあうことになるんだよ、、、これはサンヒョクに言わないと!」
ヨングクはブツブツと言っている。チンスクはよく分からなかったが、ヨングクいわく、みずのとの人は内向的であまり意欲的ではないけれど、得意なことで信じられない才能を見せるらしく、反対につちのえは、明るくて社交的だが、内面はナイーブで意外に決断に迷うそうで。当たらずも遠からずかなぁとチンスクは思っていた。ヨングクは、昔からの親友のサンヒョクとユジンがくっつけば良いと思ってるけど、チンスクはサンヒョクはユジンに夢中だけど、ユジンは友達としか思っていないと感じていた。すると、ヨングクは「あのな、友達が恋人になって、恋人が奥さんになるもんなんだよ。」と言った。チンスクは、もしかしたらわたしも友達からいつかはヨングクの恋人になるのかなぁと少しワクワクするのだった。
その日の午後の音楽の授業はピアノのノクターンのテストだった。チンスクのうちにはピアノがないし、第一両方の手を別々に動かすなんて、もっとも苦手なことだった。チンスクは案の定失敗してしまい、この世の終わりのように落ち込んでいた。昼休みにヨングクに
「両手両足合わせて20本だから20点だろうな。」と大笑いされたのが本当になってしまった。すると、チンスクの後にチュンサンが指名された。ところがチュンサンはピアノの前に座ったきり、まるで弾く気がない様子なのだった。先生はチュンサンに再テストを言い渡したが、チュンサンは全く動じる様子はなかった。そんなチュンサンを心配して、ユジンが「先生、チュンサンは転校生だからノクターンは弾けないんです。」と口添えしていた。おかげでチンスクと彼だけが再テストになってしまった。チンスクは、チュンサンはやっぱりふてぶてしいし、ヨングクの占い通り意欲がないタイプだわ、と思っていた。そして、ユジンはチュンサンの世話ばかり焼いている。
その次の日の午後だった。ユジンとチュンサンは自習をサボって消えてしまったのだ。教室中が大騒ぎになって、みんな口々に2人は付き合っているに違いないと囃し立てていたけれど、チンスクはそうではないと思っていた。きっとチュンサンに脅されてユジンが無理矢理授業をサボらされたのだと信じていた。チンスクはユジンと一緒にトイレに行ったときに、思い切って聞いてみた。
「ねぇ、ユジン。本当はチュンサンに脅されてサボったんでしょう?わたし、クラスのみんなに話してあげるから。」
するとユジンは笑い出した。
「チュンサンは全然怖くないわ。」
そこに突然チェリンとその取り巻き女子たちがやってきた。
「ちょっと、チョンユジン!あんたカンジュンサンはわたしのものだって言ったでしょう!」
すると、ユジンもしっかりとチェリンを見つめて言った。しかも、勢いをつけて髪の毛を跳ねさせたせいで、ユジンの髪の毛が後ろでチェリンを睨みつけていたチンスクの目に当たってしまった。痛い、、、。
「だから、何よ?」
「何ですって?分かってるのに尻尾を振るなんて。あんた、友達のフリしてチュンサンを誘惑したわね。ブサイクな女の典型的なやり方じゃない。」
「尻尾?なんでも知ってるあんたはいくつ尻尾があるのよ?」
そう言うと、ユジンはチェリンのスカートを思いっきりめくり上げて笑いながら逃げたした。チンスクも慌てて一緒に逃げたのだった。あのとき、後ろでチェリンが「ちょっと!チョンユジン!」と叫んでいた声を覚えている。あの頃のユジンは、チェリンと渡り合えるほど勝気だったし、底抜けに明るかった。しかし、チュンサンが死んだ後、ユジンは暗くなり、少し遠くなってしまったのだ。
結局、チュンサンは死んでいないことが分かった今、これからサンヒョクとユジン、そしてチュンサンはどうなって行くのだろうか。再び現れたチュンサンが、これからどんなに大きな嵐を巻き起こすのか、チンスクは不安で仕方なかった。わたしたちは、あの嵐の数ヶ月で多かれ少なかれ、傷を負ってしまったのだから。
そして、チンスクは一緒に飲んでいるヨングクの横顔をそっと見つめた。ヨングクとは高校生の時からもう10年も一緒にいる。わたしたちもいつかは友達から家族になれるのだろうか。すると、ヨングクがおどけたように言った。
「おっ、チンスク!さてはこのイケメンヨングクさまに惚れたな?お前には100年早いぞ。」
チンスクはYESというかわりにチャミスルをグイッと飲み干してみせた。こうして2人の賑やかな夜はふけてゆくのだった。