パーティーの日、ユジンはひとりクローゼットと睨めっこしていた。本当にフォーマルな服も持っていなければ、ハイヒールすら持っていない。どうしようかと、困り果てていると、一緒に住んでいるチンスクが得意そうな顔でやってきた。
チンスクの話によると、チェリンがブティックの中からユジンに似合いそうなエレガントなドレスをプレゼントしてくれたと言うのだ。
本当は、チンスクは先日酔っ払ってしまって、ユジンにくだをまいたことを反省して、自分の給料から出そうとしたけれど、チェリンは受け取らなかった。もっとも
「ユジンのことだから大した服も持っていないだろうから、わたしが適当なのを選んでおいたわ。ミニョンさんと一緒に働くなら、わたしの友達として、恥ずかしい格好はしてほしくないの。言ってる意味わかるよね?」
とチェリンらしい言い方をしたのは黙っていたが。
袋から出してみると、かなり胸元と背中がパックリ開いた黒のドレスだった。しかも見るからにブランド物で高価そうだ、、、。ユジンは恥ずかしそうに見ていたが、チンスクの気持ちが嬉しくて、恐る恐る着替えてみた。チンスクは
「ぴったりだわ」と、とても嬉しそうだった。しかも、スニーカーやぺたんこ靴しか持っていないユジンに、新品のヒールまで貸してくれた。チンスクには感謝しかなかった。
しかし、チェリンがただでドレスをくれたのにはワケがあった。ミニョンにプレゼントされたドレスと同じものを渡したのだ。事前にミニョンには、ユジンはミニョンに色目を使うつもりでいること、また昔からチェリンが着る服をマネすること、チェリンにはあのドレスは似合わないから着るなとユジンが言ったと吹き込んでおいたのだ。そんなこととも知らず、ユジンはミニョンに会えると思うと密かにワクワクしていた。ミニョンの一言でこんなにも胸が高鳴ることの不自然さには気がついていなかった。
そして玄関を出ようとすると、サンヒョクから電話がかかってきた。サンヒョクは何故か分からないけれど、とても嬉しそうだった。
「ユジン、今日はオシャレしていくんだよ」
と意味ありげに言って電話を切った。サンヒョクはたまたまパーティー会場のホテルで大規模な会議があったのだ。あとでユジンを驚かせようと楽しみにしていた。
ミニョンとチェリンはひと足先に一緒に会場についていた。ミニョンはユジンを探していたが、まだ姿が、見えないため、来ないのかとガッカリしていた。
その頃ユジンは、トイレで格闘していた。真新しい靴のサイズが合わなくて、靴擦れがひどかった。ティッシュを挟んでみたものの、痛くてたまらない。しかも、いつもはつけていないリップまでつけてみたが、鏡で見ると自分でないようで、恥ずかしくてたまらず、ティッシュで拭き取ってしまった。
ミニョンとチェリンが話し込んでいると、入り口にユジンの姿が見えた。ミニョンはユジンの姿に驚いた。チェリンのドレスと同じものを着ているのだ。チェリンはショックを受けた様子で、涙ぐみながらよろけて見せた。ミニョンはチェリンを支えて言った。
「大丈夫?」
「はぁ。やっぱりユジンは私に着てくるなと言って、マネして同じドレスを着てきたのね。なんとなくそんな予感がしたの。ねぇ、ミニョンさん、ユジンには知らないフリをしてあげて。わたしは用事があるから、コートを着てくるわ」
チェリンが立ち去ると、ミニョンはユジンを冷たい目で見つめた。チェリンの言ったことは本当だったのだ。何もかも、恋人までもチェリンのマネをして、奪おうとするという話。ドレスまで本人に着てくるな、と言ってマネするなんて。最低な女性だ、、、。チェリンは気遣ってユジンに言わないように言っていた。なんて優しい心遣いが出来るんだろう。
やがてユジンはミニョンの冷たい視線を感じて、挨拶のために近づいて行った。
ミニョンは冷ややかな顔で
「よく似合ってますよ。どこかでみたドレスだけど」と言った。
コートを羽織って戻ったチェリンは、
「ユジン、とてもキレイよ。あっ、わたしはファッションショーに行くから帰るわね」と何食わぬ顔で微笑み、ミニョンと腕を組んで会場を出て行った。ユジンはいちべつもしないミニョンに戸惑ったが、足の痛みに耐えかねて、ロビーに出て靴を脱いだ。
チェリンはミニョンにホテルの外まで送ってもらった。今日のミニョンはいつもに増して優しい。チェリンは目を潤ませながら言った。
「ユジンは婚約者がいるのに。多分いつもの話をすると思うの。自分の初恋の人と似ているって言うと思うから、、、。本当に気をつけてね。この話で落ちない男は一人もいないって笑っていたから、、、。」
ミニョンはチェリンが乗ったタクシーを見送りながら、呆然としていた。そして、ホテルに戻って会場に入ろうとしたとき、ユジンが靴を脱いで顔をしかめているのを見つけた。ぼくを待っていたのだろうか。
ミニョンはイラっとしながらも平静を装って
「靴、サイズが合わないんですか?」と聞いた。ユジンは慌てて靴を履きなおした。
「はい、友達に借りたんです」
「へぇ、じゃあユジンさんのものはどれなんですかね?」
ミニョンの軽蔑するような眼差しに、ユジンの胸はちくんと痛んだ。彼は何を怒っているのだろう。
「ユジンさんにはいろいろ驚かされますね。次は何なのか楽しみにしてます。」
ミニョンは冷たく言い捨てると、さっさと会場に戻ってしまった。ユジンは訳が分からずに、後ろ姿を呆然と見送るしかなかった。
ユジンがただずんでいると、後ろからサンヒョクが声をかけてきた。
「サンヒョク⁉️」
「ユジン、今のはミニョンさん?」
「そうなの」
そう言って、ユジンは寂しげに微笑んだ。
サンヒョクはユジンを驚かせたくてワクワクしていたのに、気持ちが萎んでいくのを感じた。なぜなら、ユジンがこんなに肌を露出した格好をしているのを見たことがなかったからだ。ミニョンのためだと、こんなパーティードレスまで買うのか、ユジンらしくない、とサンヒョクの心は嫉妬でいっぱいになった。
もっともドレスを選んだのはチンスクなのたが、ユジンの心が踊っていたことは確かなので、あながち誤解とも言えなかった。
ミニョンのユジンへの想いは、チェリンの策略によって、もつれた糸のように絡まりはじめていた。