一条きらら 近況

【 近況&身辺雑記 】

お風呂の温度

2010年03月23日 | 最近のできごと
 先日、昼下がりの家事の合い間にテレビをつけたら、健康バラエティ番組をやっていて、『家庭でできる入浴健康法』と、画面の隅にタイトルが出ていたので、興味を持った。入浴大好き人間なので、好きなお風呂でできる健康法があるなら試してみようと思った。
 スタジオに、浴槽が置いてある。医師らしい専門家が、
「この39度の湯の中に、この炭酸入浴剤を入れます」
 そう言いながら、浴槽の中に入浴剤を入れて、ゲストの中年男性タレントがその中に入り、専門家の指示どおり膝から下までの脚を湯の中で上下に何度か動かした。その後、そのタレントの血液検査をすると、血流アップしている結果が出て、他のゲストたちがいっせいに感心したような声をあげた。その時、私は、
(39度……!)
 そんな熱いお風呂での健康法なら、試すのはや~めた、と思っていたら、感心した声をあげたゲストたちの中の1人が、
「でも、39度は、ちょっとぬるいですねえ」
 そう言い、他のタレントたちもいっせいに声をあげた。
 すると専門家は、炭酸入浴剤を入れると、炭酸の効果で39度より暖かく感じる、というようなことを説明していた。
(39度が、ぬるい……?!)
 炭酸入浴剤を入れるお風呂の健康法に、興味を失って、テレビを消した。
(入浴剤……)
 何年か前、1度だけ、入浴剤を浴槽に入れたことがある。お中元かお歳暮に貰って、使う気がしないので、肉親か友人にあげようかと思ったら、誰も欲しがらない。たとえ義理でも、人から何か貰うのが大好きで感激してしまう私は、せっかく貰ったのにと思い、1回ぶんずつ小分けされた1袋だけ試してみた。袋には、地方の温泉の名前と効能が印刷されていた。
 生まれて初めて使った入浴剤は、やや薬っぽい匂いがして、あまり気分良くなかったので、せっかくの貰い物だが箱ごと捨てた。
 その夜、入浴の時に、テレビのゲストたちがぬるいと言っていた39度に設定した湯を出して、手で触れたら、やはり熱くて、こんな温度の湯を満たした浴槽にはとても入れないと思った。ふだん、冬は37~37.5度に設定。春から秋にかけては、当然、もっと低い。真冬の冷え込んだ日でも、38度で充分暖かい。
 いつものように全身を洗って、浴槽に入り、美容体操&ストレッチをしながら、姉と温泉旅行に行った時のことを思い出した。
(温泉のお風呂は熱かった……)
 姉と一緒にいろいろな温泉へ行ったけれど、熱くない温泉風呂は、なかった。温泉に行くのは好きだが、温泉のお風呂は何度経験しても、熱くて苦手だった。
 全身を洗ってから、見るからに楽しそうな広い温泉風呂の湯の中に、そうっと手を入れてみる。とたんに、
「熱~い!」
 そう叫ばなかったことは、1度もない。ヤケドしそうなほどの熱さと言ってもオーバーではない。40度以上はありそうな熱さである。
 ところが、姉はその熱さが平気なのである。ちょっと熱いわね、なんて言いながらも、その熱い温泉風呂に入ってしまう。
「早く、入りなさいよ」
 ためらいながら、しゃがみ込んでいる私に、姉が言う。
「だって、こんな熱いの、入れないよう」
「少しぐらい、我慢しなさいよ。温泉に来て、温泉風呂に入らなかったら、意味ないでしょう」
「それはそうだけど」
「最初のうちだけよ、熱いのは。すぐ慣れるから」
「うん……」
 私は思いきって、ヤケドしそうに熱い温泉風呂に入る。他に客がいたりすると、熱い熱いと繰り返すのも恥ずかしい。
 時間を測ったわけではないが、数分間も、その温泉風呂に入っていられない。いつも姉より先に出てしまう。母と3人で行った時もそうだった。その広い温泉風呂の中で、母と姉が気持ち良さそうにお喋りしているのを恨めしく思いながら、さっさとお風呂を出てしまい、湯の温度を調節できる部屋風呂に入ったので、母と姉から呆れられた。
 母と姉に限らず、他には、そういないけれど、やはり同じである。
「あなたは火星人だからね」
 冗談にそう言われたこともあるが、こんな熱いお風呂に、どうしてみんな入れるのと、本当に不思議である。正確には何度かわからなかったが、40度以上に感じられる温泉風呂ばかりだった。40度と言えば、体温だったら、重篤な病気か死んでしまう温度ではないのだろうか。もちろん体温とお風呂の温度は違うことぐらいわかっている。
 私は20代前半で風邪をひいた時、最高39度6分の熱だったことがある。来る日も来る日も寝込んで、毎日、体温計で測っていたら、ある日、40度近い、39度6分の熱でショックを受け、よけい具合が悪くなった。生まれて初めての高熱だったから無理もない。
 家事と育児ができないので、母が1か月間泊まってくれたが、内科医院で処方された薬を1日3回きちんと飲み、汗ばむほど暖かくした部屋で来る日も来る日も寝込んでいた。明日こそきっと治ると希望を持ちながらも、本を読んだり、日中でも眠ったり目が覚めたりを繰り返し、もう死ぬのではないかという予感がしたくらいである。本当に、<幽明境を異にする>という言葉が浮かぶほど、夜も昼もという感じで眠ったり目が覚めたりを繰り返す、現実離れしたつらい日々だった。
 さらに言えば、子供時代は病弱で、しょっちゅう体温計で体温を測定されたし、熱も出た。
 20代後半以降は、熱の出る風邪をひいたことがないので、体温を測る機会がなくなった。熱が出るのは若い時だけなのかもしれないと思い、体温計も引っ越しの時か何かの時に紛失して、ずっと持っていなかった。
 その20代前半の風邪で最高39度6分の熱が出た時の記憶が、私の深層心理に深く関わっているのかもしれない。たいていのことを<トラウマ>に結びつけて考えてしまう癖がある。最高39度6分という高熱で、心身共に苦しみ、絶望的な日々を過ごしたトラウマで、熱いお風呂も嫌い、熱い飲み物も料理も苦手、すぐ汗ばんで熱くなる厚着も嫌い、美容院のシャンプーの時の熱い湯も嫌い、ということになったと言えるかもしれないと、そんな気がしている。
 ちなみに、自宅はエアコンが1台しかない。リビング・ダイニングルーム以外の仕事部屋も寝室も、遠赤外線電気ストーブだけ。和室には、なし。エアコンの冬の設定温度は、たいてい26度で、つけたり消したり。と言っても、部屋中のドアを開けておくから、エアコンの暖房気流を間接的に受けている。
「火星人のあなたのうちって、寒くて風邪ひきそう」
 と、そう言って誰も遊びに来てくれないのである。来客に合わせた設定温度では、私が熱くて汗ばんでしまう。
 熱いのが好きなのは──。
 素敵な男性に恋をして熱くなること、な~んて。


                                 
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