一条きらら 近況

【 近況&身辺雑記 】

筋肉と関節

2022年12月30日 | 最近のできごと
 最近、私は一大決心をした。
 筋肉と関節を、鍛(きた)えることである。
 きっかけは、筋肉は何歳になっても増やすことができるし、鍛えることができるという情報を知ったからだった。筋肉は加齢と共に減ったり弱くなったりするものと思い込んでいたので、その情報は衝撃だった。
(何歳になっても増やせる!)
 俄然、意欲が湧いてきた。
(増やそう増やそう! 筋肉、増やそうっと!)
 一念発起、感奮興起とは、まさにこのこと。もちろん何もしなければ減ったり弱くなったりしてしまうが、増やす方法を知って努力すれば可能ということなのだ。
 今まで、筋肉を付けるのは脂肪が付くのを防ぐため、ダイエットのためという固定観念があった。
 さらに、男性は筋肉質がルックス上、必要で、女性は脂肪を減らすプロポーション上、必要と思い込んでいた。
 初めて筋肉を意識したのはフィットネスクラブに通い始めたころ。
 ――筋肉がしっかり付けば、脂肪は付かなくて太らない。――
 ダイエットという言葉が頭の中にイン・プットされていて、脂肪が付いて太るのを防ぐために筋肉を付けるエクササイズが効果的と、インストラクターから教えられた。
 現在の私は標準体重を維持しているから、ダイエットの必要はない。
 ステップ・エクササイズを始めた時、身体の中で一番大事なのは足かもしれないと考えたからだが、それは半分当たっていたようだ。
 その時、足の筋肉を意識したのではなく、年齢を重ねて杖を使ったり歩きにくくなったりしないように、足が全身の中で一番重要と考えたからだった。
 足の筋肉が大事なのは、それだけではなかった。しかも筋肉は足だけでなく全身にある。筋肉が弱ったり衰えたりすると、身体のあちこちに不調が起こるということだった。
 最近、連日のようにネット記事でいろいろ読み、時々見るテレビの健康情報で知ることがあると、それを確認するため再びネット記事を読み、ということを繰り返していたら、〈フレイル〉と〈サルコペニア〉という言葉を知った。
 フレイルとは加齢により身体が衰えた状態になること。
 サルコペニアとは加齢による筋肉量の減少と筋力の低下のこと。
〈筋力〉という言葉も、初めて知った。
(筋肉の力、筋力っていう言葉があったのね)
 脳にイン・プットされた。
 フレイルとサルコペニアになると転倒のリスクがあり、骨折したり寝たきりになってしまうということである。
(怖~い! そう言えば何年か前、自宅で転倒して翌日起き上がれずに自分で救急車呼んで入院した人がいるわ。1週間で退院して骨折も寝たきりもならなかったから良かったけど)
 転倒も骨折も経験ないが、明日は我が身、人生何が起こるか今後のことはわからない。
(フレイルとサルコペニアになったら大変! 予防するためには筋肉を鍛えて、筋力を高めることが大事なのだわ)
 ネット記事をいろいろ読んで、そうと知った。
 読んだ記事の中に、サルコペニアのセルフ・チェックというのがあった。
 指輪っかテストと言って、ふくらはぎの一番太い箇所を、両手の親指と人差し指で囲む。その囲った2本の指先と、ふくらはぎの間に、隙間ができるかどうかを確認するという方法だった。ふくらはぎを2本の指先で囲めなかったり、両手の指と指が付かない場合は、サルコペニアではないということ。指とふくらはぎに隙間があると、筋肉量の減少でサルコペニアだということである。
 さっそく試してみたら――。
 ふくらはぎを親指と人差し指で囲みきれず、4センチか3センチ半ぐらい、はみ出た。
(わーい、良かった良かった! 筋肉量が減少してないっていうこと、サルコペニアじゃないってことだわ!)
 有酸素運動のエアロビとステップ・エクササイズをしているからサルコペニアではないと楽観していたけれど、チェックの結果に安堵。
 ふだん、入浴の時や鏡に映す時など、ふくらはぎが太いことが小さな不満だった。ふくらはぎは脂肪だと思い込んでいたし、もう少し細ければ、きれいな脚なのにと。エアロビとステップ・エクササイズを続けているのに、何故ふくらはぎの脂肪が落ちないのかと不思議だった。そのふくらはぎが筋肉だったなんて――。早く誰か教えてよと言いたい気分だった。
 細っそりした美脚とは言えなくても、ふくらはぎは太くていいのだった。エアロビとステップ・エクササイズを続けていることで、ふくらはぎに筋肉が付いたのかもしれない。
 さらに、筋肉を鍛えると、〈関節〉に良いということも知った。関節という言葉はネット記事やテレビ番組でも、ほとんど出てこない。肘を曲げる関節、肩の関節、膝の関節、股関節、足関節と、身体にはいろいろな関節があるのである。その関節を守っている、支えているのが筋肉だということだった。関節が痛んだり弱くなったりすると、肩凝り、腰痛、膝痛、足痛が起こるということなのだ。
 腰痛とか膝痛と言えば、私の親族は経験者が多い。中高年以降、肩凝り・腰痛・膝痛・足痛の中の複数を同時に経験している。特に腰痛と膝痛のある人が多い。実家には腰痛の人専用の座椅子や、和室で正座すると膝が痛い人専用の椅子が何個も置いてある。
 肩凝りや腰痛や膝痛や足痛が遺伝と関係はないと思うし、その情報は読んでいないが、私と父と祖母は肩凝りも腰痛も膝痛も足痛も経験したことがない。何故かと考えた時、共通点に気づいた。まず、体型である。私と父と祖母は肥満体型になった時期がない。経験者たちは肥満体型か肥満気味体型の時期の時に経験している。
(肥満や肥満気味体型ってルックスだけじゃなく、筋肉と関節のダメージがあったということだわ)
 痩せ気味体型の義姉が腰痛ヘルニア、脊柱管症、膝痛、中肉中背体型の叔父が膝に水が溜まる膝痛というのは例外だけれど。
 兄は30代でギックリ腰以降の慢性腰痛、40代以降は慢性膝痛、60歳前に頸椎症で入院と手術。姉は50代でムチ打ち症と座骨神経痛、60代以降は慢性膝痛。
 けれど兄は中年以降、毎週末、ゴルフに行き、姉は何時間でも車の運転ができる。それらから考えると慢性痛があるとは見えないが、兄は保険のきかない接骨医院や姉は保険のきく整形外科に時々行くし、慢性といっても、寝違いみたいな強い痛みではなく、慣れてしまう程度の痛みなのだと思う。
(そう言えば……)
 最近、筋肉と関節の情報記事を読みながら、
(あの時のあれは、そういうことだったのね!)
 そう気がつき、納得した事実がある。母が亡くなった日の2日後に、実家で納棺の儀式が行われた。親族だけの集まりで午前中の数時間で終わり、昼食後に帰るつもりで、5日後のお通夜と6日後の告別式にまた会う人たちと軽い挨拶をしていたら――。
 兄が、姉と私の名前を呼び、
「まだやることがあるぞ。蔵から古い衣類を運び出す」
 と、厳然とした口調というか威圧的なと言いたくなるような命令口調。「はい」と、反射的に素直な私達。父が亡き後、一家の長であり、10歳近く年上の兄の命令には逆らえない、というほど封建的ではないが雰囲気としてはそれに近いものがずーっとある宿命の姉と私。
 実家の敷地の隅に、曾祖父の時代からあったらしい古めかしい土蔵(どぞう)が建っていて、その土蔵のことを蔵(くら)と呼んでいた。1階には、お盆の時期に使う盆棚のさまざまな道具や、法事やその他の集まりの時に使う数多くのお膳や座布団や食器類、その他、催事用の物などがいろいろ置かれていて、2階には古い箪笥や、衣類や調度品など、数々の行李(こうり)や木箱に入った物が置いてある。倉庫のような建物だった。私も姉も子供時代に何度か蔵の周辺で遊んだが、中に入ったことは滅多になかったものの、それでも入ってみた記憶はある。
 その2階にある古い箪笥や行李や木箱などの中から衣類を取り出せという兄の命令。姉が取り出した衣類を持てるぶんだけ重ねては、私が両手で抱え込んで階段を降りて行き、受け取った兄が広い縁側へと運ぶという兄の命令だった。
 久しぶりに入る蔵の中は独特の匂いがした。窓はあるから時々換気はしているようだが、それはもう何とも不思議な、嫌ではないが不思議な香り。
 姉が箪笥の引き出しや行李の中から取り出した着物や衣類を重ねて傍に置いた物を、私が両手で抱えて階段を降りて行くのだが、その日はハイヒールではないが踵(かかと)の高いお洒落デザインのパンプス。階段の一段の高さは通常の階段より高く、さらに昔の土蔵は天井も高い。2階どころか3階ぶんに感じられるほど長く、しかも高い階段を、両手に重い衣類を抱えて一段ずつ降りて行くのである。蔵の階段には手すりなど付いていない。
(お兄さんは縁側へ運ぶだけ、お姉さんは箪笥や行李の中から取り出すだけ。あたしが一番時間がかかるし重労働だわ)
 内心呟くが、口に出しては言わない。代わりに、私が重ねた衣類を両手に抱えて高い階段を降りて行く姿を見ている兄に、フラッとわざとよろけそうになる演技をしてみせ、
「きゃあ、転げ落ちそう」
「気をつけろ」
「ここから転げ落ちたら骨折するう~?」
「骨折する」
 と、平然とした兄。
 兄に渡した後、2階に戻って、あちこちを手にしたり開けたりして見ていると、1枚の小さな絵画が出て来た。花と果物を描いた洋画である。サインは不明。
「あ、これ、おじいちゃんの弟、あたしたちの大叔父さんが描いた絵かしら」
 姉に聞くと、チラッと見て、
「知らない」
 と無関心。
 私は眼を輝かせ、階段を降りて行きながら、
「これ、これ、おじいちゃんの弟、大叔父さんが描いた絵?」
 兄に聞くと、
「違う、おれが初めての給料で、画廊で買ったんだ」
 兄はそれを手にして、ちょっと得意そうな口調で答え、
「戻しとけ」
 と、命令するので、2階に上って行きながら落胆した。
「お兄さんが昔、初めてのお給料で買ったんだって」
 姉は衣類を取り出す手を止めずに、「ふうん」と関心なさそうな声。
「大体、お兄さんが絵の趣味あるなんて聞いたことないもンね」
「ふふ」
「画家志望の大叔父さんに会いたかったわあ」
 祖父の弟である大叔父が、東京美術学校(現・東京藝術大学)を卒業後、イタリアへ留学し、帰国して画家は目指さずに高校の美術教師になったという話を聞いたのは少女時代だった。
(あたしって芸術家の血を引いてるのね! 正確には画家にならなかったけど、画家を志望したっていうことは、きっと純粋な芸術家タイプの青年だったんだわ! きゃっ、素敵!)
 ぴょんぴょん飛び跳ねるほど、歓喜したものだった。私が生まれる前に、52歳で亡くなってしまった大叔父の顔は、白黒写真で見たことがあるだけだった。もし会えていたら、何故、画家を断念したのか、何故フランスではなくイタリアへ留学したのか、その生活はどんなふうだったか、聞いてみたいことがたくさんあった。現在と違って海外留学は珍しかった時代。心酔したイタリアの画家がいたのだろうか。時々、テレビで美術番組を見ると、いつもその大叔父のことが頭に浮かぶ。
 1時間以上かかって蔵の中から運び出し、広い廊下に並べたのは半分以上が女性用着物で、どれが母や祖母や曾祖母が着ていたのかほとんど不明。よくもこんなに姑の着物をとっておいたと驚かされるが捨てる気にならなかったに違いないと想像された。
「欲しい物あれば持って行け、あとは全部処分するから」
 と、兄。姉と私は、母が着ていたと覚えている着物と、柄のきれいな新品バスタオルの箱を持ち帰ることにした。
「ああ、疲れた~、あたしが一番重労働だったみたい」
 思わず、そう言ったら、
「一番若いからだ」
 と兄が呟くように言い、姉は微笑。
「それはそうね、一番若いの、あたしだもンね」
 と気を良くしてしまう単純な私。ところが――。
 筋肉と関節についての情報記事を読むことが楽しくなっていた日々、私はその日のことに、ふと思い当たったのだった。兄は、一番若いから私に高く長い階段を両手に荷物をかかえたまま上り下りさせたのではなく、兄と姉は階段の上り下りをすると膝が痛くなるからなのだった。
(そうだったんだわ!)
 ネット記事をいろいろ読んでいて、そう確信した。
(反面教師ってことだわ)
 私にとって兄と姉は、まさしく反面教師なのである。
 階段の上り下りすると膝が痛くなるなんて、私には耐えられない。そのためにもフレイルとサルコペニアに絶対ならないように筋肉量を増やし、筋力をつけようと、あらためて決心したのである。
 筋肉を増やす食べ物は、タンパク質の食材で、朝、食べると良いということ。朝食に卵と牛乳とチーズは飲食するが、筋肉を作る鶏の胸肉が成分のサラダチキンを加えることにした。ただ、鶏肉はモモ肉が好きで食べ慣れているので、スライスしたサラダチキンは淡泊過ぎて、美味しさが不足。
 そこで、しいたけ・ゴボウ・人参・大根など野菜と一緒に入れてスープ煮を作ったら美味しく食べられた。スープといっても洋風ではなく、ゴマ油と米油を鍋に引き、油揚げやコンニャクも入れて豚汁ふうやけんちん汁ふうに、醤油味か味噌味で作るとサラダチキンも美味しく食べられる。
 筋肉量を増やすプロテインのサプリも見つけて少し迷ったが、やはりサプリは毎日取り出して飲むことがストレスになるのでやめた。その代わり、スーパーで見つけた〈高たんぱく乳飲料〉を飲むことにした。おやつはフルーツ・ゼリーをやめて、チョコ味のプロテイン・バーを食べることにした。
 あとは、筋肉ストレッチとエクササイズ。その方法はネット記事やYouTubeで取り入れ、エアロビやステップ・エクササイズと同じように自分が好きで楽しめる方法を選んで行うことに決めた。筋肉を付けるからといって決してストレスにならないように、楽しめて、好きになるストレッチやエクササイズだけをしたほうが効果的だと信じているからである。
(これでバッチリだわ)
 フレイルとサルコペニアにならないように、筋力、筋力と呟きながら、毎日ストレッチとエクササイズを楽しんでいる。 

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