初めて、ホラー映画を観た。正確に言えば、初めて、最後まで観た。
ホラー・サスペンスというジャンルの映画は、観たことがある。サスペンスが主体で、ホラーのシーンは見るに耐える程度の面白い映画だった。
その経験があるので、映画情報でホラー・サスペンスのジャンルなら、時々、録画するけれど、ファーストシーンを見て消去することが多い。サスペンスは好きだが、ホラーは嫌い。
ずっと以前、親しい女流作家Kさんとの長電話で、映画の話になり、どんなジャンルが好きかと聞いたら、ホラーと答えたので、
「えええっ、ホラー?!」
驚いて聞き返したら、
「そう。ホラー。ふふ」
Kさんはちょっと笑って答えたのである。ひとのことは言えないが女流作家って変わってるわね、ホラーが好きだなんてと、驚愕と同時に何となく敬服した。
「私はホラーって駄目。全然、観ないわ」
そう言っていたが、連日、ビデオ録画の映画を観ていて、ふと思い立ったのである。
(ホラー映画を観たら涼しくなるかも)
直感した。南西向きのマンションの部屋は真夏の暑さに超が付く。在宅時は一日中付けておくエアコンの涼気に包まれ、ソファで録画の映画を観ていれば暑さも忘れるが、それでも家事やエアロビの時は汗をかく。
さらに外出時は近距離であれ遠距離であれ、持参のハンカチやミニタオルで汗を拭きまくり、帰宅後はグッタリするほどの夏バテ状態である。
だからといって自宅にこもってばかりもいられず、家事をしなければ生活できず、エアロビをしなければ太ってしまう。
その日の外出予定は電車に乗って繁華街に出かける用事だが、1日延ばしにしていて今日こそという決意を固めていた。天気予報は晴れで、最高気温は35度と、ネット情報を見ただけで汗が噴き出しそうだった。
(ホラー映画を観たら涼しくなるかも)
自己暗示に近い直感である。就寝前に観る映画は面白いか感動する映画でなければ、寝付きが悪くなる。外出前の日中に観るなら、就寝時までにはホラー映画の怖さも消えるはず。そう思い、一大決心して、外出中も涼しく過ごせるかもしれないと、好きではないホラー映画を観ることにしたのである。
もちろん見るに耐えないホラー・シーンのある映画だったら消去するつもりだった。連日の猛暑で、出かければ翌日まで夏バテ状態でグッタリの日もある。
(ホラー映画を観たら涼しくなるかも)
という直感なのか自己暗示なのか、頭の中に貼り付いてしまい、外出しても暑くないかどうか試してみたかった。
情報を読むと、ホラーの鬼才のイタリア人監督、不思議な建物で生命を狙われる女性と、その周囲で起きる残忍な連続殺人とある『インフェルノ』( イタリア/アメリカ・1980年)。
残忍な連続殺人というのが、やはり観るに耐えない映画かもという気がして、すぐ消去できるよう右手にリモコンを手にしたまま、再生ボタンを押す。怖いのはまだしも、ホラー映画によく出てくるゾッとするような気持ち悪いシーンは、生理的嫌悪感に襲われてしまうからだった。
あまり面白いストーリーではなかった。というより、まとまりのない不自然なストーリー展開で、ヒロインが住んでいる家が、古書に書かれた魔女の館と知って恐怖を覚え、そのヒロインは地下室で殺されて弟が探しに来て調べ始めるという話。眼をそむけたくなるシーンは数か所あったが、不気味な人物が何人か登場したりして、最後は死に神がその館ごと火事の炎に包まれて消えてしまうという、お粗末というか呆気ないというか、そうインパクトのあるホラー映画でもなかった。
けれど……。確かに、観終えたら涼しくなった。エアコンが付いているから当然だけれど。
外出の用意をして、自宅を後にした。ホラー映画の内容をではなく、初めてホラー映画を最後まで観たことを意識したら――。
(何だか、いつもほど暑くないみたい。涼しいみたい)
夕方前の暑気に包まれながら駅まで歩く間、いつものように汗は出たけれど、気のせいか涼気を感じた。
ホラー映画を観たら涼しくなるかもという、自己暗示的直感のせいかもしれないが、本当である。
ホラー・サスペンスというジャンルの映画は、観たことがある。サスペンスが主体で、ホラーのシーンは見るに耐える程度の面白い映画だった。
その経験があるので、映画情報でホラー・サスペンスのジャンルなら、時々、録画するけれど、ファーストシーンを見て消去することが多い。サスペンスは好きだが、ホラーは嫌い。
ずっと以前、親しい女流作家Kさんとの長電話で、映画の話になり、どんなジャンルが好きかと聞いたら、ホラーと答えたので、
「えええっ、ホラー?!」
驚いて聞き返したら、
「そう。ホラー。ふふ」
Kさんはちょっと笑って答えたのである。ひとのことは言えないが女流作家って変わってるわね、ホラーが好きだなんてと、驚愕と同時に何となく敬服した。
「私はホラーって駄目。全然、観ないわ」
そう言っていたが、連日、ビデオ録画の映画を観ていて、ふと思い立ったのである。
(ホラー映画を観たら涼しくなるかも)
直感した。南西向きのマンションの部屋は真夏の暑さに超が付く。在宅時は一日中付けておくエアコンの涼気に包まれ、ソファで録画の映画を観ていれば暑さも忘れるが、それでも家事やエアロビの時は汗をかく。
さらに外出時は近距離であれ遠距離であれ、持参のハンカチやミニタオルで汗を拭きまくり、帰宅後はグッタリするほどの夏バテ状態である。
だからといって自宅にこもってばかりもいられず、家事をしなければ生活できず、エアロビをしなければ太ってしまう。
その日の外出予定は電車に乗って繁華街に出かける用事だが、1日延ばしにしていて今日こそという決意を固めていた。天気予報は晴れで、最高気温は35度と、ネット情報を見ただけで汗が噴き出しそうだった。
(ホラー映画を観たら涼しくなるかも)
自己暗示に近い直感である。就寝前に観る映画は面白いか感動する映画でなければ、寝付きが悪くなる。外出前の日中に観るなら、就寝時までにはホラー映画の怖さも消えるはず。そう思い、一大決心して、外出中も涼しく過ごせるかもしれないと、好きではないホラー映画を観ることにしたのである。
もちろん見るに耐えないホラー・シーンのある映画だったら消去するつもりだった。連日の猛暑で、出かければ翌日まで夏バテ状態でグッタリの日もある。
(ホラー映画を観たら涼しくなるかも)
という直感なのか自己暗示なのか、頭の中に貼り付いてしまい、外出しても暑くないかどうか試してみたかった。
情報を読むと、ホラーの鬼才のイタリア人監督、不思議な建物で生命を狙われる女性と、その周囲で起きる残忍な連続殺人とある『インフェルノ』( イタリア/アメリカ・1980年)。
残忍な連続殺人というのが、やはり観るに耐えない映画かもという気がして、すぐ消去できるよう右手にリモコンを手にしたまま、再生ボタンを押す。怖いのはまだしも、ホラー映画によく出てくるゾッとするような気持ち悪いシーンは、生理的嫌悪感に襲われてしまうからだった。
あまり面白いストーリーではなかった。というより、まとまりのない不自然なストーリー展開で、ヒロインが住んでいる家が、古書に書かれた魔女の館と知って恐怖を覚え、そのヒロインは地下室で殺されて弟が探しに来て調べ始めるという話。眼をそむけたくなるシーンは数か所あったが、不気味な人物が何人か登場したりして、最後は死に神がその館ごと火事の炎に包まれて消えてしまうという、お粗末というか呆気ないというか、そうインパクトのあるホラー映画でもなかった。
けれど……。確かに、観終えたら涼しくなった。エアコンが付いているから当然だけれど。
外出の用意をして、自宅を後にした。ホラー映画の内容をではなく、初めてホラー映画を最後まで観たことを意識したら――。
(何だか、いつもほど暑くないみたい。涼しいみたい)
夕方前の暑気に包まれながら駅まで歩く間、いつものように汗は出たけれど、気のせいか涼気を感じた。
ホラー映画を観たら涼しくなるかもという、自己暗示的直感のせいかもしれないが、本当である。
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