先日、マンション各戸の火災報知器交換工事が行われた。
管理会社から、通知が来たのが、ひと月前。
工事日の3日間の中で、希望の日時を記入した紙を管理室ポストに入れておくようにということで、そうした。
それからが、大変である。頭の中に絶えず、火災報知器交換工事のことがチラチラと浮かび、プレッシャーになったほどだった。
天井に火災報知器が設置されているのは、2つの洋室、和室、リビング、洗面所、キッチン、押し入れ、クロゼット。
リビング・ダイニングはひと続きの部屋なので1つ。クロゼットは3つあるが、洋室のクロゼットと、もう1つのクロゼットには付いてなく、廊下に面したクロゼットだけ。
全部で8箇所に火災報知器が設置されていて、消防点検とは違い、工事なので、所要時間が1戸で60分かかると通知に書いてある。
工具を使っての作業だから、押し入れとクロゼットの天井近くの空間を、多く取る必要があった。
(押し入れとクロゼットまで火災報知器を設置するなんて)
何のためと、不思議だったが、後日、説明されて納得した。
押し入れもクロゼットも、1間(いっけん)襖2枚分で、奥行き1メートルぐらい。
(どうしよう! この中の物を減らして、整理するなんて……ああ!)
ふだん、断捨離を意識していても、遅々として進まず、収納場所というのは空間があればあるほど、物がどんどん詰め込まれていく。
火災報知器が設置されていない2つのクロゼットは、洋服とバッグがほとんどだから、すべてを取り出して空間を作るのは簡単である。
けれど、火災報知器が設置されている押し入れとクロゼットは、さまざまな形の物がぎっしりと、布団袋やケースや包みや紙袋などにギュウギュウ詰め込まれている。
押し入れは、下段が少し低く、上段のほうがスペースがあり、その半分は空間にしなければと思った。
廊下に面したクロゼットは、5段になっていて、最上段が一番スペースがある。
段ボールやケースや紙袋などでぎっしりの、その最上段すべては空間にしなければ、作業ができないと思った。
その2箇所の整理整頓。もう、見ただけでウンザリしてくる。
(片付けなくちゃ……片付けなくちゃ……片付けなくちゃ……片付けなくちゃ……)
精神的に脆弱な私にとって、1か月間のプレッシャーである。
ただし、一日中在宅の日だけで、外出日は、
(今日は出かけるから、その用意で慌ただしいし、気分的余裕もないし、時間もないし)
片付けなくてもいいと決めていた。
火災報知器交換工事の日が一日一日近づくと、次第に焦ってくる。
透明な箱はほとんどなくて、開けてみないと何が入っているかわからず、1つ1つケースを取り出しては開けてみることに。
こんな物があった、あら、こんな物もと呟きながら、できるだけ捨てて行く。整理整頓イコール断捨離と、そのことに気づいた。
さらに、物を減らしたり捨てたり、他の場所に移動したりするだけでなく、作業員の眼に触れられたくない、壁にかかった写真やら、手作りカレンダーやら、写真立てやら、その他、見回せば、
(これもこれも見られたくない)
と思う物がいくつもあって、あちこちに、しまい込んだり、ふだんはかけないベッド・カバーをかけたり。
そうして、ついに、工事の日がやってきた。
希望日の希望の時間ピッタリに、インターフォンのチャイムが鳴った。
玄関ドアを開けると、30代後半に見える男性作業員が、「こんにちは~」とにこやかに、脚立や道具箱を手にして入って来た。もちろん私も、「こんにちは~。ご苦労様」と。
その後、熟年と思われる男性作業員も、脚立や道具箱を手にして入って来た。
「まず、火災報知器があるところを確認させて下さい」
と、30代後半に見えるスタイルのいい、長身イケメン作業員。
「ここと……ここと……2部屋の2つのクロゼットは、報知器ありません……このクロゼットは、あります……このぐらい空けてあれば、工事できるかしら」
「はい、大丈夫です」
「あとは、ここと、ここと……」
洗面所とキッチンの他、リビングと和室と押し入れを指していく。
熟年男性作業員は、寝室の報知器の工事を始めていた。長身イケメン作業員も脚立に乗って工事を始める。
工事の1時間、私は窓や桟の掃除をするつもりだった。
やがて、寝室、洗面所、キッチンの交換工事を終えてリビングの天井の工事も終わりそうな熟年作業員と、報知器についてのお喋り。
長身イケメン作業員が最後の工事箇所の押し入れの作業中、熟年作業員は終わり、雑談が止むと、
「留守の部屋、いるかな」
と、呟きながら部屋を出て行った。
間もなく、イケメン作業員も作業を終えた。私は壁の時計を見た。
「1時間かかるって通知に書いてあったけど、30分で終わったのね」
と、ホッとして、私。
「2人でやったからです。1人だと1時間かかります」
イケメン作業員がニッコリ。
「ああ、道理で」
1時間かかる作業を、30分で終了したのは、どこかの留守の部屋があったため、1人で行う作業を2人でしてくれたからだった。
部屋中の掃除をして、スーパーへ買い物に行きながら、ひと月間のプレッシャーが消えたような、小さな安堵と解放感に包まれた。
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管理会社から、通知が来たのが、ひと月前。
工事日の3日間の中で、希望の日時を記入した紙を管理室ポストに入れておくようにということで、そうした。
それからが、大変である。頭の中に絶えず、火災報知器交換工事のことがチラチラと浮かび、プレッシャーになったほどだった。
天井に火災報知器が設置されているのは、2つの洋室、和室、リビング、洗面所、キッチン、押し入れ、クロゼット。
リビング・ダイニングはひと続きの部屋なので1つ。クロゼットは3つあるが、洋室のクロゼットと、もう1つのクロゼットには付いてなく、廊下に面したクロゼットだけ。
全部で8箇所に火災報知器が設置されていて、消防点検とは違い、工事なので、所要時間が1戸で60分かかると通知に書いてある。
工具を使っての作業だから、押し入れとクロゼットの天井近くの空間を、多く取る必要があった。
(押し入れとクロゼットまで火災報知器を設置するなんて)
何のためと、不思議だったが、後日、説明されて納得した。
押し入れもクロゼットも、1間(いっけん)襖2枚分で、奥行き1メートルぐらい。
(どうしよう! この中の物を減らして、整理するなんて……ああ!)
ふだん、断捨離を意識していても、遅々として進まず、収納場所というのは空間があればあるほど、物がどんどん詰め込まれていく。
火災報知器が設置されていない2つのクロゼットは、洋服とバッグがほとんどだから、すべてを取り出して空間を作るのは簡単である。
けれど、火災報知器が設置されている押し入れとクロゼットは、さまざまな形の物がぎっしりと、布団袋やケースや包みや紙袋などにギュウギュウ詰め込まれている。
押し入れは、下段が少し低く、上段のほうがスペースがあり、その半分は空間にしなければと思った。
廊下に面したクロゼットは、5段になっていて、最上段が一番スペースがある。
段ボールやケースや紙袋などでぎっしりの、その最上段すべては空間にしなければ、作業ができないと思った。
その2箇所の整理整頓。もう、見ただけでウンザリしてくる。
(片付けなくちゃ……片付けなくちゃ……片付けなくちゃ……片付けなくちゃ……)
精神的に脆弱な私にとって、1か月間のプレッシャーである。
ただし、一日中在宅の日だけで、外出日は、
(今日は出かけるから、その用意で慌ただしいし、気分的余裕もないし、時間もないし)
片付けなくてもいいと決めていた。
火災報知器交換工事の日が一日一日近づくと、次第に焦ってくる。
透明な箱はほとんどなくて、開けてみないと何が入っているかわからず、1つ1つケースを取り出しては開けてみることに。
こんな物があった、あら、こんな物もと呟きながら、できるだけ捨てて行く。整理整頓イコール断捨離と、そのことに気づいた。
さらに、物を減らしたり捨てたり、他の場所に移動したりするだけでなく、作業員の眼に触れられたくない、壁にかかった写真やら、手作りカレンダーやら、写真立てやら、その他、見回せば、
(これもこれも見られたくない)
と思う物がいくつもあって、あちこちに、しまい込んだり、ふだんはかけないベッド・カバーをかけたり。
そうして、ついに、工事の日がやってきた。
希望日の希望の時間ピッタリに、インターフォンのチャイムが鳴った。
玄関ドアを開けると、30代後半に見える男性作業員が、「こんにちは~」とにこやかに、脚立や道具箱を手にして入って来た。もちろん私も、「こんにちは~。ご苦労様」と。
その後、熟年と思われる男性作業員も、脚立や道具箱を手にして入って来た。
「まず、火災報知器があるところを確認させて下さい」
と、30代後半に見えるスタイルのいい、長身イケメン作業員。
「ここと……ここと……2部屋の2つのクロゼットは、報知器ありません……このクロゼットは、あります……このぐらい空けてあれば、工事できるかしら」
「はい、大丈夫です」
「あとは、ここと、ここと……」
洗面所とキッチンの他、リビングと和室と押し入れを指していく。
熟年男性作業員は、寝室の報知器の工事を始めていた。長身イケメン作業員も脚立に乗って工事を始める。
工事の1時間、私は窓や桟の掃除をするつもりだった。
やがて、寝室、洗面所、キッチンの交換工事を終えてリビングの天井の工事も終わりそうな熟年作業員と、報知器についてのお喋り。
長身イケメン作業員が最後の工事箇所の押し入れの作業中、熟年作業員は終わり、雑談が止むと、
「留守の部屋、いるかな」
と、呟きながら部屋を出て行った。
間もなく、イケメン作業員も作業を終えた。私は壁の時計を見た。
「1時間かかるって通知に書いてあったけど、30分で終わったのね」
と、ホッとして、私。
「2人でやったからです。1人だと1時間かかります」
イケメン作業員がニッコリ。
「ああ、道理で」
1時間かかる作業を、30分で終了したのは、どこかの留守の部屋があったため、1人で行う作業を2人でしてくれたからだった。
部屋中の掃除をして、スーパーへ買い物に行きながら、ひと月間のプレッシャーが消えたような、小さな安堵と解放感に包まれた。
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