一条きらら 近況

【 近況&身辺雑記 】

先輩作家たちの苦笑

1999年06月23日 | 女のホンネ
 パーティなどで、誰かを紹介された時、挨拶しながら名刺交換をする。私が官能小説を書いていると、知っている人からも、その時に知った人からも、同じような質問をされることが多い。
「体験を書くんですか?」
「モデルになる男って、いるんでしょう?」
「ベッドシーン書きながら、モヤモヤとしたり感じたりすることは?」
 そんな質問である。
 すでにアルコールが入っているから、彼らはあからさまな質問を、ニヤリとしながら口にする。
 または言葉だけは紳士的でも、内心、エッチな好奇心を隠しきれないような顔つきで聞いてくるのが何ともおかしく、面白い。
 そんな質問に、私はちょっぴり純情ぶって(実際、純情だけど)、羞恥とともに真剣な口調で答える。
「体験書いてるわけじゃありません。それにベッドシーンの描写って、ほんとにむずかしくて、四苦八苦して書いてるから、妙な気持ちになる余裕なんてありません」
「ああ、なるほどね。それはそうでしょう」 
 大半の人は、納得する。 
 以前、ある忘年会の席で――。
 ベッドシーンを入れたミステリなどの小説を書く二人の初老先輩作家たちの、苦笑気味の会話のやり取りを聞いたのが面白かった。
「このトシで、あの行為は卒業しててベッドシーン書くのはシンドイね。昔のことを思い出しながら絞り出すようにして書いてるんだ」
 一人の初老男性作家がそう言うと、
「そうそう、ぼくも同じ」
 もう一人の初老男性作家が笑いながら相づちを打つ。
 傍で聞いている私がクスクス笑っていると……。 
「きみはゲンエキだから、やってることを、そのまま書けばいい」
「ベッドシーンなんかスラスラ書けるだろう、ゆうべやったことをそのまま書けばいいんだから、ラクなもんだ」
 冷やかすように言いながら、お2人はニヤニヤして、私の顔を見てはうなずき合っている。
 顔が熱くなった私は、返す言葉がなかった。
 けれど――。
 私だって、主人公のシチュエイションや心理を感情移入しながら書いた後、ベッドシーンになると、とたんに進み方が遅くなる。頭の中で文字を選んでは、迷い迷い書いているので、モヤモヤと感じるどころではない。小説の中のヒロインが快感味わっても陶酔しても、作者のほうは四苦八苦。
(ああ、書くよりやったほうがいい!) 
 そんなせつない気持ちと闘いながら、原稿を投げ出したくなる時もあったりして──。   
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