未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第3章 美しい転校生 ④⑤

2021-08-24 15:12:30 | 未来記

2005-09-12

4.オリン・ゲーム(1)

 

オリン・ゲームは、初級・中級・上級レベルに分かれて、順番に行われる。

 

参加するのは、スポーツの時間にオリン・ゲームを選択した生徒と、大会へ出てみたい希望者。

 

競技に参加しない生徒達は、オリン・ゲームの手伝いや、応援をするようになっている。

 

初級レベルのゲームは、5人1組でスクール内のチェックポイントを通り、ゴールする。距離も短いので、ゲームが終わると、すぐに中級レベルの応援に駆り出される。

 

中級レベルのゲームは、コメット・ステーション広場がスタート地点。人通りの少ない時間帯に、スタート時間が設定されている。

 

ゲームでは、問題が出題されるポイントもある。学習意欲を向上させるのが目的なのだが、勉強の苦手なキラシャは、いつもこの点数でチームの足を引っ張っていた。

 

予選会の成績は、チームのタイムと、3人の問題の正解数が、総合成績として記録に残る。

 

個人成績としては、チームのタイムと自分の正解数が、単位を取得するための評価の対象となる。

 

エリアの大会では、タイムの方が重視される。上位20位までの出場権を獲得したチームのうち、上位30位までの選手と入れ替え可能で、新しいチームを結成し、大会に臨む。

 

オリン・ゲームの開始時間が近づき、大勢の選手がスタート地点に集まった。

 

時間になると、スターターの先生が合図を送り、チームのリーダーにゲーム用のマップを送信。

 

マップを受信したリーダーは、Mフォンの先に3Dホログラムで街のマップを広げ、同じチームの3人でチェックポイントを確認する。

 

今回のチェックポイントは8ヶ所で、そのうち問題が設定してあるのは、広場にある3ヶ所。そして、ゴール地点はスクールのトレーニング場。

 

出発するのはいつでも良い。チェックポイントを通る順番を決めたら、すぐに飛び出すチームもいるし、じっくり考えて走り出すチームもいる。

 

同じクラスの子達も、広い通路の両側で、手を振りながら応援している。

 

キラシャのチームの場合、スタート地点の広場のチェックポイントは後回しにして、少し離れたボックスへ一緒に飛び込み、次の階のチェックポイントへと進んだ。

 

オリン・ゲームの極意は、なるべく人の少ないルートを探すこと。

 

Mフォンが混雑情報を伝えてくれるので、わざと寄り道して、ゴールに近いチェックポイントを先に通過することも、上位のチームは積極的にやっている。

 

キラシャもタケルと組んだ時は、そうやってチームの総合成績に貢献していた。タケルの場合、成績は悪いのに、勝負となるといろんな知恵を出して来る。

 

「次は、ここの人のいないボックスを使って、2階上のチェックポイントを目指そうぜ。その次は、こっちのチェックポイントだからな」

 

キラシャとマキの手を引っ張って、走り出すタケル…。

 

キラシャがタケルの背中を見つめていると、いつの間にかケンの後姿になっていた。

 

ケンはキラシャの視線に気が付いたのか、ニヤッと笑った。

 

「オレがタケルだったら良かったのになぁ」

 

思わず顔を赤くして、足がもつれそうになるキラシャ。

 

マイクもニターっと笑っていたが、キラシャを見ていたのではないようだ。

 

「パール イタ。オレ ガンバル!」とうれしそう。

 

『そういえば、ユウキ先生とジョンとパールが、通路で声援を送ってたっけ。

 

そうか、マイクは本気でパールにイイトコ見せようとしているんだ…』

 

パールを探そうと、後ろを振り返るキラシャの手を握って、マイクはあわてて引っ張った。

 

 

「タイムだけでも、20位内を目指そう!」

 

3人は声をかけ合いながら、チェックポイントを目指して、ボックスへと急いだ。

 

せまい場所のチェックポイントは、通路沿いに設置してあるので、近づきながら証拠のメールを受信すれば良い。

 

このチェックポイントのメールは、チームが10mくらいまで近づかないと、受信できないように設定してある。

 

チェックポイントの近くには、ニセモノも設置してある。マップで確認しながら、ホンモノかどうかメールを受信しないとわからない。

 

広場のチェックポイントでは、問題を受信して答えなくてはならない。この順番をどうつなげて行くかが、勝敗を決めるポイントだ。

 

常に移動するパトロール・ロボットにも、チェックポイントが仕掛けられている。

 

このロボットもクセ者だ。ニセのロボットも何台かうろついている。これもメールを受信できる位置まで近づいて、確かめなくてはならない。

 

キラシャのチームは、せまい場所のチェックを優先して、問題が出題されるチェックをなるべく後回しにした。

 

このメンバーでは、問題の正解率に期待ができない。早くから問題に取り組んで、落ち込んでしまったら、後を引いてしまうからだ。

 

4番目のチェックポイントをクリアし、パトロール・ロボット2機が、近くで移動中だとわかった。

 

「どうする?」とケンは、キラシャとマイクにたずねた。

 

「パトロール・ロボットは、ホンモノを見つけるのがやっかいだし、後回しにしようか」

 

タケルなら、自分の判断でルートを決めてしまい、マキがOKを出したら、キラシャが意見を言ってもすぐ却下されていたが、ケンはすぐ2人にたずねてくる。

 

『考えてると、時間がロスしちゃうんだけど…』

 

マイクも判断がつかなくて迷っている。みんな、疲れて頭が働かない様子だ。

 

「休憩所でドリンクをもらって、考えようか?」

 

いつもは頼りないが、時々、素晴らしく気の利いたことを言ってくれるケン。

 

パスボーでも、最近シュートが成功する確率が上がって、少しは自信が出て来たようだ。

 

3人はボックスを使って、休憩所へと移動した。

 

休憩所は、ボランティアでドリンクをサービスする大人と、それを手伝う子供達と、選手でいっぱいだ。

 

下級生達に、「キラシャ、がんばって!」と声をかけられ、急いでドリンクをもらって、一息ついた。

 

マキのチームは休憩が終わって、キラシャのそばを通り過ぎようとした。

 

「マキ、何ヶ所終わった?」とキラシャがたずねると、「4ヶ所だよ。問題は全部答えたし、あとはロボットと、3か所のチェックポイントでメールをキャッチするだけ」とマキは余裕で答えた。

 

「うちも4ヶ所だけど、まだロボットと問題が3つ残ってるンだ。

 

マイクがあの転校生の応援で、ナンだか異常に張り切っちゃって。ゴールまで持つかな?」

 

マイクが真っ赤な顔をして、キラシャの口を覆った。

 

マキは「お先に…」と軽く手を振って、次のポイントへ向かい始めた。

 

後を追うコニーとカシューは、ちょっとふくれ気味で、イライラしているようにも見える。

 

ケンはその様子を見て、「マキのペースに合ってないンじゃないかな、あの2人」とつぶやいた。

 

今日はやけに張り切っているマイク。

 

「ツギノ ポイント ドコ?」とケンにたずねた。

 

「ロボットの周りは、どこも人が多いから、残しておいた最初の問題を目指そう!」

 

ケンの案に、2人も同意した。

 

「マイク!まだ走れる?」

 

「OK!」

 

「よし、じゃあがんばろうぜ!」

 

3人は手をつないで、混雑していないボックスへ向かった。

 

2005-09-26 

5.オリン・ゲーム(2)

 

広場のチェックポイントでは、メールと一緒に問題が送られて来る。

 

「フリーダム・エリアの初代大統領の名前は?」

 

「ユニバース・エリアで製作された、最大の宇宙ステーションの名前は?」

 

「クリエート・エリアで生産されている、輸出量の多い食料を3つあげよ」

 

「ユートピア・エリアで行われている雇用政策を何と言う?」

 

「MFiエリアのドームで使う、一日の平均エネルギー量は?」

 

「ヒンディ・エリアで伝えられている宗教哲学は?」

 

「アフカ・エリアの多民族政策とは?」

 

「地球から火星までの距離は?」

 

答えは選択式だから、正解と思う番号にタッチすればよいが、授業の成績にもつながるので、できれば慎重に答えたい。

 

ただし、チェックポイントには見張りもいるし、視線が問題からはずれるとMフォンが警告を出すから、教え合うこともできないし、制限時間もある。

 

3人は黙々と、Mフォンの問題の答えを選んで、全部解き終えると、すぐに返信。

 

2か所の広場のチェックポイントを通過すると、次はロボットを追いかけることにした。

 

キラシャのチームも、途中でまたマキのチームに出会い、競争してロボットを追いかけた。

 

でも、受信の結果は「残念でした(^_^;)、ハズレです!」

 

マキのチームは、早めにハズレに気づいて、近くのボックスへ飛び込んだようだ。

 

もう姿はない。

 

「やられたな…」

 

ケンもすぐにMフォンで、混雑情報を確認。

 

どうも下の階にいるロボットが怪しい。他のロボットの周りより、明らかに近づいてゆく人数が多いからだ。

 

3人は下の階へ移動して、ロボットを追った。マキのチームは見えない。

 

内心あせりながら、子供達に囲まれたロボットへ近づいた。

 

メールを受信したMフォンから「チェックポイント通過。おめでとう(*^_^*)、当たりです!」のコメント。

 

後は、ゴール前の広場の1ヶ所だけ。

 

マキのチームが、まだゴールしてないことを願いながら、最上階の少しゴールから離れた場所を目指し、ボックスへ。

 

混雑で何秒か待たされたが、無事に転送された。

 

広場のチェックポイントにたどり着くと、もうゴールへと向かっているチームが見えた。

 

キラシャのチームも、受信した問題を秒殺で解き、返信すると、勢いよくゴール目指して走った。

 

トレーニング場の観覧席には、応援しているチームのゴールを待つ子供達でいっぱいだ。

 

前の方で、ダンが子分を引き連れて走っていた。

 

何チームかと競い合いながら、団子状態でゴールした。

 

「何位だろう?」

 

Mフォンで順位を確認すると、ゴールの瞬間が浮かび上がり、28位という表示が見えた。

 

「タイムは28位か…」キラシャは、がっかりした。

 

「…タイムだけでも、20位に入りたかったなぁ」

 

「惜しかったけどな。まぁ、そう簡単に20位には入れないよ」と、ケンは言い訳した。

 

マイクの返事がなかったので、あわてて周りを見回すと、ゴールのそばで倒れたまま、動こうとしないマイクがいた。

 

「だいじょうぶ? マイク…」キラシャは、マイクが息をしているか心配で、のぞき込んだ。

 

マイクは、寝っ転がったままゼイゼイ言いながら叫んだ。

 

「キラシャ ヤクソクだヨ!

 

パール イッショ イケルネ!

 

ヤッター!!」

 

 

ゲームの補助員がゴールのじゃまにならないよう、吐きそうになっているマイクを車椅子に乗せ、口にタオルをあてて、あわててホスピタルへ連れて行った。

 

キラシャとケンは、後でマイクのお見舞いに行くことにして、18位で大会への出場権を得たダンに、「おめでとう!」と言って、仲間のゴールを待った。

 

数分後、マキがコニーとカシューに両脇を抱えられながら、ゴールへと入って来た。

 

「どうしたの?」と聞くと、「ちょっとね…」とマキが苦笑いした。

 

コニーとカシューは、口をそろえて不満を言った。

 

「マキ、早すぎ!」「私ら無視して、急ぎ過ぎ!」

 

コニーとカシューは、自分達のリズムを持っている。

 

マキのペースの速さに切れてしまい、ついカッとなって、マキの手を2人でパッと離したらしい。

 

「マキってさぁ、ひとり決めなンだモン。もう少し、あたしらのペース考えろっての!」

 

「そうだよ。あたしら、別に大会に出たいわけじゃないンだ。

 

休憩、短いしさ。早けりゃいいってモンじゃないよ!

 

やっぱり、ペースってダイジだよ…」

 

マキは気まずい顔をして、傷ついたひざをのぞき込み、キラシャを振り返って苦笑いした。

 

キラシャも、マキを見て微笑んだ。

 

そういや、タケルがチームリーダーで、無茶苦茶引っ張った時は、2人でぶつくさ言ってたっけ。

 

「タケル!マジ早~。休憩しよ~!」って。

 

そこへ、ヒロとニール、隣のクラスの賢そうな男の子、3人でゴールした。

 

ヒロは「もう少し、早くゴールできる予定だったンだけどな。

 

休憩所で異次元の話を始めたら、止まンなくなっちゃったよ」と言って、ニールと笑った。

 

サリーとエミリも男の子を引っ張って、戻って来た。2人とも浮かぬ顔だ。

 

背が高くてやさしい顔をした男の子が、バイバイと言って離れて行ってから、キラシャに向かって、がっかりした表情を見せた。

 

「あの子とは、合いそうにないね」

 

「周りに振り回されてばっかりだモン」

 

サリーもエミリも、自分達を引っ張ってくれるパートナーの男の子を探していたのだ。

 

同い年の男の子は多いけど、なかなかタイプの子を見つけるのは難しい。

 

上級コースが始まるまで、最初のパートナー選びは、これからも続くようだ。

 

中級レベルのオリン・ゲームが終わると、ドームの外でがんばっている上級レベルの選手達を映像で応援した。

 

トレーニング場には、巨大な3DホログラムでゲームをLIVEで映し出すコーナーもある。

みんな思い思いの場所ですわったり寝転んだり、友達とおしゃべりしたり、ドリンクを飲みながらの観戦だ。

 

キラシャの部屋の先輩ルディとパートナーのジャン、美男美女2人の映像が映し出されると、ヒューと口笛が鳴り響き、うらやましそうな声援が飛んだ。

 

でも、やっぱり社会人の方が断然早い。スクールの生徒は、最上級生の8位が最高だった。

 

今回は、行方不明者もなく、負傷者が多少出ただけで、ゲームは無事に終わった。

 

キラシャは鼻歌を歌いながら、海洋牧場の準備を楽しそうに始めた。

 

『タケルがいれば、最高なンだけどなぁ~』

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