キラシャは、動物園の再開に向けて、忙しい日々を送っていた。
それまでは、動物を相手に集中して作業を行っていたが、開園するとお客さんの安全にも注意を払わなくてはならない。
今までやったことのなかった作業が増えて、日に日にストレスがたまった。
たまには、息抜きも必要だ。
ケンの誘いに乗って、久しぶりの海洋牧場を楽しみたいという気持ちもあった。
5年前までは、キラシャも海洋牧場で、イルカたちと一緒に仕事をするのが夢だったのだ。タケルが急にいなくならなかったら…。
そして、タケルが受けなければならなかった衝撃的な運命を思って、キラシャはタケルのことを忘れてあげることが、お互いのためだと思い、自分の夢とともに心の奥にしまい込んだ。
海洋牧場で、キラシャとパールの突然の転送事故が起こった後、時々はスクールの行事で訪れることはあった。
でも、キラシャは当時のことをなるべく思い出さないように、友達と遊ぶことに集中した。
ケンとのデートの日。キラシャは、今までとはちょっと違う、少しウキウキ気分でケンと待ち合わせをした。
急な用事ができたので、先に海洋牧場に行って、待っていてほしいとケンから連絡。キラシャは、5年前のケンとのことを思い出しながら、待ち合わせの場所へと進んだ。
『ケンは、自分のことより、あたしの言うこと聞いて、いつもベストを尽くしてくれたんだっけ。
あたしが一人でタケルに会う勇気がないって言ったら、ケンはいっしょにタケルに会いに行ってくれたな。
おじさんたちにいきなり銃を突きつけられても、あたしに身体を寄せて、何かあったらあたしをかばおうとして、必死に守ってくれようとしたンだよな~。
あれからも、あたしが困っていると、救世主のように現れるんだよね~。
やっぱり、ケンみたいな人といっしょに暮した方がいいのかな~?
・・・でも・・・
やっぱりな~
今付き合っている人がいて、あたしに見せびらかそうって思って、連れてくるのかもしれないな~?
だって、いつもカンジンなときに、オレ別の彼女いるからって、あたしの誘い断ってたっけ・・・
あたしも、早く、彼氏見つけた方がいいのかな・・・』
キラシャにとって、ケンが自分を守ってくれることの心地よさが、今までは当たり前のように思ってしまっていたけれど、
そろそろ、そんな関係を考え直す時が来ているのかなと、思った。
もし、ケンが他の女の子を連れて来るのなら、どんな子だろうかと想像しながら、広場でケンを待った。
少し暖かい設定の海洋ドームの通路には、所々ウィルス除去用のミストが降り注ぎ、その乾燥を促すために、風も吹いている。
防疫用マスクをつける人も多く、密を避けるために、人との間隔をあけて移動している。
ようやく、体格の良い男の子がキラシャの方へ近づいて来るのが見えた。
たったひとりで歩いて来るのを見て、キラシャは『なぁーんだ。ケンだけかぁ』と、ちょっと期待はずれな感じもしたが、近づくにつれて、ちょっと様子がおかしいことに気づいた。
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