2008-03-06
2.秘密基地
キララとタケルは、闇の世界をくぐって移動した。
「ここで、休もう」
キララは、そう言って、タケルを座らせた。
「ここなら、誰にもジャマされない。アタシの秘密基地なんだ」
宇宙ステーションの中に、外の景色が眺められる展望台がある。
宇宙船の旅行者達が、宇宙からの危険な光を遮断する、特殊な分厚いガラスを通して、次の行き先までの船の安全を考えながら、広大な宇宙を眺めていた。
その片隅には、小さな子供が4、5人は入れるくらいの箱が設置してある。
以前は、宇宙ステーションのゲームに、コインやカードが使用されていたが、旅行者が出発前に使わないコインやカードをこの箱に投げ捨てていた。
神社の賽銭箱のように、この箱に投げ入れると旅の安全にもつながるといううわさもあって、コインやカードでいっぱいになることもあった。
Mフォンを使用したポイント制に移行してからは、コインやカードは処分されたが、箱はふたをして、テーブル代わりに使われていた。
いつの間にか、その箱の中に入っていたキララとタケルは、ゆっくりとしゃがみこんだ。
タケルの身体は、まだキララに支配されているようだ。自分の思うようには動かないが、不思議とイライラした気持ちはなかった。
『タケル、パパやママがどうなったか、心配だろ?』
キララはタケルの心に話しかけて来た。手のひらを広げると、タケルに見えるように、浮かび上がった宇宙船の動画を見せた。
『アタシは、知りたいことを念じたら、こんな風に動画が教えてくれるンだ』
その動画は、宇宙船の外で待っていた悪党達が警察に逮捕され、見張りの男も捕まって出て来た様子を映した。
救急隊員もタンカーを運んで来た。鎖を解くのに時間がかかったが、男女2人を乗せて救護センターへ向かったようだ。
『少しは、安心したかい?』
キララの問いかけに、タケルはムッとしながら心で答えた。
『偽の動画かもしれないじゃないか。パパとママの元気な姿を見るまで、安心できない。オレをこれからどうする気なのか、それも知りたい…』
『その前に、タケルのMフォン返しとくよ。
さっきは、悪かったね。アタシは、あの連中におサラバしたかったンだ。
アタシは、Mフォンを持ってないから、持ってる奴と一緒でないと、レストランに行っても、ドリンクが飲めないンだ。
幽霊ってわかンないけどさ、ドリンクなんて飲まないだろう?
アタシは、ドリンクなしで生きちゃいけないンだ。
ボックス使って、人間も消えて移動できるンだろ?
アタシは消えたいときにいつでも消えるンだ。違うのはそれくらいだよ。
あの連中はドリンクをねだったら、いつでも飲ましてやるって言ってくれたンだ。
最初は、悪い連中とわからなかったね。
アタシはゲームが好きだから、タケルみたいに気に入った子を見つけて、ゲームで勝たせるのが楽しみだった。
そしたら、奴らはその子のMフォンから、ゲームのポイントを巻き上げてたらしい。
アンタのパパ、Mフォンイジれないようにしてたからね。
あせった連中が、アンタのパパを殴り始めた。
だから、アタシが止めてやったンだよ。
そんなことしたら、大きな仕事ができなくなるンだよってね。
アンタは信じないだろうケド…。
奴ら、タケルのMフォンからポイントだけ巻き上げて、ダスト・シュートに捨てたんだ。
たいして入ってないって、怒ってたケドね。
これを見つけるのに、苦労したんだよ! 』
タケルは渋い顔をして、キララからMフォンを受け取った。
傷もあって汚れてはいるが、壊れてはいない。
ニュースの動画を見た。
ニュースのレポーターが、タケルの身に起こった事件のことを伝え始めた。悪党達の逮捕と、トオルとミリの無事と、まだタケルが見つかっていないことも報じた。
『パパもママも無事だったんだ。良かった…』
『本当はね。この宇宙ステーションのボス・コンピュータをいじって、奴らに金が入るようにするのが、今度の仕事だったンだ。
もう奴らが捕まったから、必要なくなった。
前にもマシンに強い子がいてね。ボス・コンピュータに入ったはいいけど、アタシはマシンのことわかんないし、その子の言いなりに動いたンだ。
アタシのこと、シーナって言ってたよ。お気に入りの歌手の名前なンだってさ。
ニックって名前でね。
かっこいいけど、ボス・コンピュータまで連れて行ったら、アタシをホッといて、夢中でいじり始めたンだ。
何してるンだ? って聞いたら、オレも、これで大金持ちだって言うじゃないか。
ナンてバカなこと考えてるンだって思ったから、ニックの将来をこんな風に動画で見せてやったンだ。そりゃ、カネがありゃナンの不自由もないさ。
でも、その先がどうなってゆくのか、考えてもみな。アタシは人間みたいに、スクールに行ってないけど、ロビーで流れてる動画見てたら、わかるよ。
宇宙船買って、旅行に出かけて、毎日おいしいモノ食べて…。でも、満足はしないんだ。次から次に欲しいモノが出てきて、気がついたら金がなくなってる。
それでも、買い物が止まらなくて、人をだますようになって、警察に捕まって…。
『そんな人間になってもいいのか? 』
ってニックに聞いたら、『オレは、そんなヘマしない』ときた。
『そんなに賢いンだったら、アンタひとりでやンな! 』って言って、
ニックだけ残して消えてやったンだ。
そしたら、ニックが、シーナ! って大声出したから、
もう少し困らせてやろうと思ってたら、
その前に警備員が来て、捕まっちゃったってわけさ…』
『バカな奴…』タケルは、苦笑した。
『残念だけど、オレはマシン得意じゃないから、きっと役に立たなかったな。ヒロだったら…、アイツならきっと簡単なンだろうけど…』
そのとき、キララの目が光った。
ヒロの名前が出て、タケルはしまったと思った。オレもバカだから、何もできないと思えば、それで終わったかもしれないのに…。
『タケル、頼みがあるンだ。アタシを地球へ連れてってくれない? 』
『えっ?』タケルには、思いもかけないことだった。
『それは…困るよ。
今、オレ迷ってるンだ。このまま地球に帰って、パパもママも大丈夫なのかって。オレさえいなかったら、2人で火星に行って、やりたい研究できるのに。
できれば、パパとママだけでも、火星に行って欲しいンだ。オレは、もう火星に行く気ないけど、今さら地球に帰っても…』
『タケルの言うこと、ナンとなくわかるよ。好きな子がいるけど、いろいろあって帰りづらいンだろ? 』
『うっ? …う~ん、そうかもしれない』
『アタシにいい考えがあるンだ。そのヒロって子は賢いのか? 』
『言ったろ? アイツは先生や学者より物知りだし、自分で作ったMフォンでいろんなこと試してるし、頭メチャいいンだ…』
『それなら、決まった。タケルが地球へ帰るなら、アタシもついて行くよ!
ヒロって子、アタシに紹介してくれ!』
タケルはすごくイヤな予感がしたが、ヒロに知恵を借りて、この得体の知れないキララから、ナンとか逃れる方法が見つかるかもしれないと、タケルは気持ちを切り替えた。
何しろヒロは、地球より千年も文明が進んだ星があるって、自慢してたからな…。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます