秋に思う16
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知り合いの所属する展覧会の最終日に上野に、雨に濡れる公園内は昨日の振り替え休館が多いのか人が疎らだった。銀杏がコンクリートの上に秋色の点描のし始めに気づき 未だ色づてはいないイチョウの木を眺めながら ゆったりと散歩。これぐらいの人出だと上野の公園も散策するのにいい塩梅。
雑草伸びたままの紅葉となっている
雑草はうつくしい淡雪
<人生とは何か、それは持って生まれたものを打ち出すことだと思います。その人のみが持つもの、その人のみが出しうるものを表現することだと信じます。私は私を全的に純真に打ち出し表現する。ここに、ここにのみ、私の生きていく道があります><風もわるくない。もう木枯らしらしい風が吹いている。寝覚めの一人をめぐって、風はどこから来て、どこへ行くのか。さみしいといへば人間そのものがさみしいのだ。さみしがらせようとうたった詩人もあるではないか。私はさみしさがなくなることを求めない。むしろ、さみしいからこそ生きている。生きていられるのである>
― 種田山頭火 ―
笠へ落ち葉の秋が来た
ゆっくり歩こう萩がこぼれる
「征服の世界であり、闘争の時代である。人間が自然を征服しようとする。人と人が血みどろになって掴み合うている。敵か味方か、勝つか敗けるか、殺すか殺されるか。……私は巷に立ってラッパを吹くほどの意力をもっていない。私は私に籠もる。時代錯誤的生活に沈潜する」
― 種田山頭火 ―
素朴な琴
この明るさのなかへ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美しさに耐えかね
琴はしずかに鳴りいだすだろう
木
はっきりと
もう秋だなとおもうころは
色色なものが好きになってくる
あかるい日なぞ
大きな木のそばへ行っていたいきがする
― 八木重吉 ―
夢みたものは・・・・・・
夢みたものは ひとつの幸福
ねがつたものは ひとつの愛
山なみのあちらにも しづかな村がある
明るい日曜日の 青い空がある
日傘をさした 田舎の娘らが
着かざつて 唄をうたつてゐる
大きなまるい輪をかいて
田舎の娘らが 踊ををどつている
告げて うたつてゐるのは
青い翼の一羽の 小鳥
低い枝で うたつてゐる
夢みたものは ひとつの愛
ねがつたものは ひとつの幸福
それらはすべてここに ある と
立原道造 : 著 : 詩集『優しき歌Ⅱ』
秋は、夕暮。夕日のさして、山の端(は)いと近うなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、飛び急ぐさへあはれなり。まいて雁などの列ねたるがいと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音など、はたいふべきにあらず。
―清少納言三巻本系『枕草子』ー
夜も涼し 寝覚めの仮庵(かりほ) 手枕(たまくら)も
真袖(まそで)も秋に 隔てなき風 (兼好)
夜も憂し ねたく我が背子(せこ) 果ては来ず
なほざりにだに しばしとひませ (頓阿)
「よもすずし/ねざめのかりほ/たまくらも/まそでもあきに/へだてなきかぜ」
「よるもうし/ねたくわがせこ/はてはこず/なほざりにだに/しばしとひませ」
文節の頭文字を繋げると、兼好の場合は「よ・ね・た・ま・へ(米給へ=米を下さい)」になり、後ろから繋げると「ぜ・に・も・ほ・し(銭も欲し)」とつまり「米たまヘ、銭も欲し」と無心したのに対して頓阿の返句が「よ・ね・は・な・し(米は無し)」、「せ・に・す・こ・し(銭少し=お金なら少しなんとか)」「米はなし、銭すこし」と返事した。
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