第3章 経営危機の乗り越え方
(14)売上を上げるより、原価率とロス率を下げる「原価(仕入)対策」
経営危機に陥って資金繰りに苦しんでいる会社の多くは、売上さえ戻れば何とかなると考え、また目先の資金を確保するために原価割れの受注をしたり、極端な割引セールをする傾向があります。ひどい場合は、思いつきで新商品を発売したり、新店舗を出したりなどの「一発逆転」を狙う経営者も跡を絶ちません。
いうまでもなくこれらの売上対策は「最悪の倒産」への負の連鎖の道を走るのに加速度をつけるだけです。
【原価(仕入)対策】
売上対策はあくまで利益を伴った売上対策でなければなりません。不思議なことに危機に陥った会社は経費の削減には血眼になるのに最大の変動費である仕入についてほとんど手を打たれていません。
年商10億円粗利益率20%(粗利益額2億円)の会社の売上を5%上げるのは前述の原価を無視した方法以外即効策はありえません。たとえ5000万円の売上が増えたとしても粗利益率が1%ダウンすれば
10億5000万円×19%=1億9950万円
の粗利益額になってしまいます。さらに売上5%を上げるためには販売経費がかさんできます。
逆に、売上を5000万円つまり5%落ちても、粗利益率を1%上げることができれば
9億5000万円×21%=1億9950万円
と同じ額になります。
さらに再建プログラムの現場では、「仕入先別貢献度表」(表1)
「仕入先別貢献度表」(表1)を作成して、どの仕入先が営業利益やキャッシュフローに貢献しているのかをランキング付けしてチェックします。これをチェックしてみると、貢献度が低いのに支払サイトが早すぎたり、預けている取引保証金が仕入金額の支払いサイト期間より大きいままになっているなどさまざまな検討事項が見えてきます。
「経費削減対策一覧表」(表2)や「仕入先別貢献度表」、さらに既存事業の売上対策で使用する「得意先別貢献度表」(表3)から有効な対策を見つけ出す作業のとき、わたしは口酸っぱく「要素分解しろ」といいます。
「もっとも重要な仕入先や得意先だ」
「古くからの大事な取引先だお客様だ」とこれらの対策の対象にさえ考えていないところが、その取引実態を「要素分解」してみると、貢献度が驚くほど低い事がよくあります。昔は大商いの相手だったのが、現在は利益貢献どころか、足をひっぱているのがよくわかってきます。極端な話、取引がないほうがいいケースさえ出てきます。 このような取引先には条件変更を提示し、その条件を飲んでいただけないようなら取引中止して、その時間や人員を他に振り向けるべきです。
「経費削減対策一覧表」(表2)
【売上対策】
売上対策は大きく二つに分類されます。
一つは、企業が永続するためのもっとも重要な「新規事業対策」です。「新規事業対策」なくして企業の未来はありません。しかし、新規事業対策は「一発逆転」の発想で行うべきものではありませんので、経営再建や事業再生のプログラムでやるべきではないのは前述のとおりです。新規事業対策については「第6章 変化から進化へ『新規事業開発』」でお話します。
二つめが、プログラム中にやるべき売上対策です。この場合、人や物への新規投資なしで既存の資産を使ってインクが滲むように、得意先にあたらしい提案営業したり、新規先開発を行う手法です。
ここでは、「得意先別貢献度表」(表3)や「SWOT分析」や「市場の細分化(ターゲティング)の逆プロセス」などを活用します。
「市場の細分化(ターゲティング)の逆プロセス」とは、簡単に言えばマーケティングの市場の絞込つまり、セグメンテーションからターゲティングの逆張りをして、既存の事業で漏れている市場を発見していく手法です。絞り込むのではなく、市場細分化の変数を再確認しながら、自社の現在の漏れている市場つまり消費者を見つけ出して、投資や経費の増加を最小限にしながらこぼれたインクが紙の上に染み込んでいくようにすすめていく売上対策です。
この方法は、俯瞰塾会員企業の新規事業開発で、SWOT分析からコトラーの「市場の細分化」作業をしていく現場で、適切な変数を選択するのに苦慮しているときに、既存事業をゴールシークにして変数を設定する作業をすると、割合と簡単に、既存事業の新しい営業やサービス・商品の開発や、がいくつも見えてくると現場に何度も遭遇したことから思いついたものです。
経営者がいくら、考えても出ない売上対策ですが、これらの諸表やフレームワークを使えば必ずいくつかのヒントや対策が出てきます。
「得意先別貢献度表」(表3)
次回は、第3章 「経営危機の乗り越え方」の最終回(15)二度と倒産の危機に陥らないための再建計画書をつくってみよう
を予定しています。
このブログ、「中小零細ファミリー企業版 『長寿幸せ企業』の実践経営事典2017」は井上経営研究所が発信しています。
井上経営研究所(代表 井上雅司)は2002年から、「ひとりで悩み、追いつめられた経営者の心がわかるコンサルタント」を旗じるしに、中小企業・小規模零細ファミリー企業を対象に
- 赤字や経営危機に陥った中小零細ファミリー企業の経営再建や経営改善をお手伝いする「経営救急クリニック」事業
- 再生なった中小零細ファミリー企業を俯瞰塾などの実践経営塾と連動させて、正常企業から、健全企業、無借金優良企業にまで一気に生まれ変わらせ、永続優良企業をめざす「長寿幸せ企業への道」事業
- 後継者もおらず「廃業」しかないと思っている経営者に、事業承継の道を拓くお手伝いをし、「廃業」「清算」しかないと思っている経営者に、第2の人生を拓く「最善の廃業」「最善の清算」をお手伝いする「事業承継・M&A・廃業」事業
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