第1章 経営理念・行動規範のつくり方
(7)「信条」と「行動規範」は経営者と社員の判断基準=「モノサシ」
企業の不祥事は「信条」と「行動規範」で防げる
さて、ここまで広義の経営理念の中身について、「使命(ミッション)」、「目的地(ビジョン)」についてお話してきました。その後、「目的地(ビジョン)」を数字で表現した「「経営目標(ターゲット)」から「経営戦略」、「戦術」への落とし込みについても触れてきました。
ここで、(いつも下手な我流のイラストや図で申し訳ありませんが)図をご覧ください。これは、『長寿幸せ企業』の広義の経営理念をイメージしている図です。
『長寿幸せ企業』を目指す企業の経営者は、起業もしくは事業継承後できるだけ早い時期に、これらを確立しなければなりません。
まずは、芯柱の「使命(ミッション)」、と「目的地(ビジョン)」および「経営目標(ターゲット)」を決定します。これが樹木の「幹」になります。
次に、幹から「枝」である「戦略」を伸ばしていき、「戦術」を駆使して、「葉」を茂らせます。葉は太陽の光をいっぱい受けて、「花」を咲かせ、「実」をつけます。
実は「果実」、つまり利益です。その利益である果実から「種」が大地に落ちます。「果実」はくだものという意味ほかに、収益や利益という意味があります。「果実」という収益は、樹木の周りの生物に多くの恩恵を与えます。さらに、「果実」という収益から、未来を支える新規事業への「種」が生まれるのです。
すべての種(新規事業)が外部環境に適応できて大きな樹になれるわけではありませんが、繰り返し、種が大地に蒔くことができれば、次の世代に引き継ぎ続けることができます。
一本の樹木と同じく一事業にも必ず寿命があります。樹木が盛んなうちに次世代につなぐ新しい若木を育てることが、長寿の森を育てる必要条件です。
樹木のいとなみは自然のいとなみです。松下幸之助は成功の秘訣を「天地自然の理(老子)」と答えていますが、樹木も人間もこの理に従って存在しています。会社や事業はその人間が作ったのですからその理に従うのが最も賢明だと考えています。人間の「驕り」が地球を脅かしているように、経営者の驕りが「会社」を消滅させるのです。
自然界に台風や大雨、かんばつがあるように、事業経営にも経営危機がつきものです。
樹木は太い「幹」や大きな「根」を張ってこれに耐えます。経営理念の「幹」に相当するのが、(2)でお話した「使命(ミッション)」、(3)でお話しした「目的地(ビジョン)」そしてこれからお話する「経営信条(クリード)」や「社訓」です。
経営信条や社訓とは、企業で大切にしている従業者の心構えや指針です。
たとえば、パナソニックの信条は
「向上発展は各員の和親協力を得るに
非ざれば得難し 各員至誠を旨とし
一致団結社務に服すること」
とあります。
「経営信条(クリード)」や社訓をさらに踏み込んで、社長からすべての従業者が具体的に判断行動するとき誤らないように助けるのが樹木で言えば「根」に当たる「行動規範(モラルコード)」の役目です。主に、倫理的、道徳的な行動指針を明記しています。
「行動規範(モラルコード)」を共有することは社風や企業文化につながっています。これを継続することができれば、『長寿幸せ企業』に最も大切な「信用」の蓄積や「ブランド化」に通じていきます。
逆に行動規範がなかったり、あっても空文化していれば、企業の社会的責任が重要視される昨今においては、財務的に健全・優良企業であっても不祥事を起こせばあっという間に経営危機に陥ります。
前節(5)「戦術は部下に任せる」で「戦術を伴った計画ができあがれば、あとはその責任者に任せるべきです。」と言いましたが、その時に非常に重要なのが、「行動規範(モラルコード)」です。
責任者自ら苦労して作成し、認められた戦術であり、計画ですから、彼らはその売上や利益目標を達成しようと精いっぱいの努力をしてくれるはずです。
しかし、怖いのはその時です。
彼らが必死になればなるほど、彼らにはその目標や予算しか目に入っていません。徳とか法令の順守は二の次どころか頭の中にさえ存在しないような状態になることがあります。そんな時、企業に「行動規範(モラルコード)」があり、その中で不徳や不法行為が強く諌められており、経営者がこの行動規範を我が社全員の行動ルールだと日々口酸っぱくしており、これを破れば普段おこらない経営者でも烈火のごとく怒る。そのような信条や行動規範を毎朝唱和していれば、度々マスコミを賑わすような企業の不祥事が起き経営危機に陥ることはありません。
社員が集まる会議やミーティングなどのまえに、最低でも「使命(ミッション)」と「行動規範(モラルコード)」だけは全員はっきりと唱和していただきたい。
売上目標などを大声でがなりたてている企業が『長寿幸せ企業』になることは絶対ありません。手段を顧みず、売上や利益を追い求めても、行き着く先は
「不義にして富み且つ貴きは我に於いて浮雲の如し。」(「論語」述而第七)
ということになります。ぜひとも、これをやめて「使命(ミッション)」と「行動規範(モラルコード)」の唱和変えていただきたいものです。
「行動規範(モラルコード)」の大もとは「嘘をつかない」ことです。一度嘘をつくとその嘘をかばうために、次の嘘をつかなければならなくなります。その嘘の連鎖はとどまるところを知りませんので、嘘をついた本人がコントロールできなくなります。
常態であれば賢明で、徳性の高い経営者でさえ、経営危機の状態になると、どんな手段を使っても会社を守ろうとして嘘をついてしまうことがあります。まさに、「恒産なければ恒心なし」「貧すれば鈍する」の常態です。
中小・小規模企業の従業員にとって、経営者の言うことは絶対です。毎日社長と一緒に「行動規範(モラルコード)」を唱和していて、その社長がそれに反した行動をとってるのをみて、おかしいいなと思ってもそれを社長に諫言するには大変な勇気が入ります。
「うちの従業員には俺に諫言できるやつは一人もいない。」などとこぼしている経営者こそ問題なのです。
経営者は従業員に向けて話をする機会には、最初か最後に、「行動規範(モラルコード)」を唱和して、
「もし、私がこれに反する行動をしたり、しようとするときには、お願いですから正してください。」と何度も、何度もお願いすることです。
ちなみに、私の信条と行動規範は こちら でご覧頂けます。
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次週は
(8)あなたの企業の「経営理念」から「短期経営計画」までを作成してみよう
です。
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