第5章 健全企業の経営実学「人間学」を学ぶ
(6)人生の義務は、ただひとつしかない。それは幸福になることだ。
広辞苑を開くと、「人間学」は「認識し行動する人間の本質の解明を課題とする哲学上の立場」、「時務」は「その時に必要な務。当世の急務。そのときの政務。」とあります。
また、この章の第1項にご紹介したように、伊與田先生は、人間には個人としての人と社会人としての人の二面があり、社会人としての大事な要素は、「本学」の道徳習慣と「末学」の知識技術で、それぞれを「人間学」と「時務学」と呼ばれています。1
経営実学の「人間学」について話していますが、私自身がけっして「人間学」を習得できているわけではありません。
私は、これから経営者の道を歩もうとする人に対して
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人の上に立つ者としての修己と治人の基礎(人間学)を習得すること
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経営のプロとしての経営知識と技術の基礎(時務学)を習得すること
を目的とした両潤塾というマンツーマンコーチングをさせていただいていますが、残念ながら、私は他人にお教えできるような道徳習慣を持つに至っていませんので、「人間学」については一緒に学び続けていきましょうと申し上げています。
私が、「人間学」の必要性を感じ始めたのは、会社の倒産を経験してどん底に陥ってからでした。
「なんで人より何倍も勉強し、働いてきたのに自分の会社が倒産という結果になってしまったのか。」と毎日「忍辱」「辛酸」「後悔」の日々で「何が足りなかったのか?」と問い続けていました。
もちろん倒産に至る原因は複合的で一つではありませんが、あえてその原因のひとつ選ぶとすれば自分自身の中にありました。それは「慢心・驕り」です。
自分は他人とは違うんだと、不道徳な人やマナーを守らない人に対しては指摘したり、非難したり、また馬鹿にしたりすることが度々ありました。
このような場面でも、人間学を学んでいくと、孔子の言う
「賢を見みては斉(ひと)しからんことを思い、不賢を見ては内に自から省(かえり)みるなり。」2
が頭の何処かに残っているのかどうかわかりませんが、
「自分自身も似たような不道徳なことやマナー違反をしていないか」を時々省みることができるようになってきています。
人間学を学び続けているから、こんな私も不賢まで陥ることなく、なんとか間違いを起こさないで留まっていられるのだと思います。
書籍やセミナーなどを通じて「人間学」を学び自分の中に刷り込み続けていると、会得と言うには甚だ遠すぎる段階ですがまず道徳を意識する習慣が身についてきます。そうすると、自分の道徳行動が道から外れていることをやってしまってから気づき、後悔することが出来るようになります。
孔子の
「過(あやま)ちては改むるに憚(はばか)ること勿れ」です。
同じく、
「過ちて改めざる、是(これ)を過ちという」
を意識していけば、「次は気をつけよう」と思うようになりますが、これが重要です。何回か同じ過ちを繰り返して入るうちに、「間が置ける」ようになってきます。この一息の間が置けるとしめたものでやがては習慣となってしまいます。
挨拶、目上の人を敬すること、時間を守ることなどの礼儀は簡単そうですがなかなかうまくいきません。
私は自分が客の立場でも「ありがとう」ということを意識してきました。診断業務で出張すると、列車の指定席などで検札を受けます。このとき検印して返してもらうときに「ありがとう」というのはそう難しくないのですが、本を読むのに夢中になっていたり、弁当を食べているときに検察され中断されると最初の頃は嫌な顔で切符を突き出すようにしてしまい後悔していたのですが、笑顔で「ありがとう」と返すことができ、車掌さんも少し笑顔を見せてくれると得したような気になってしまいます。
移動中の街での会員企業様との会員面談はレストランやコーヒーショップを利用して行うことが多いのですが、無愛想な顔をしたままマニュアル通りの挨拶とともに水とお絞りをだす店員さんも、会員様と私がメニューを渡したり、注文を取ったり、食事や飲み物を運ぶたびに、「ありがとう」や「ありがとうございます」を連発しますので、無愛想な接客をしていた店員様も笑顔で「コーヒーおかわり大丈夫ですか」、「お水よろしいですか?」と聞いてくれるようになってなんだか得したような気になることがあります。実は、経営再建プログラムを終了された会員様企業の多くは経営理念や行動規範を再構築しますので、「笑顔でありがとうを言う」という行動規範をお持ちの会員企業様が多いのです。
人間学を学び、行動に移して、習慣化すると、必ず「幸せ」を感じるようになります。その結果、とても心落ち着き、自分のまわりが安寧に感じられます。
経営危機で心がすさんでいる経営者の場合、おなじような無料経営相談のレストランやコーヒーショップ場面では、「早く向こうへ行け」という態度で接せられる方が時々おられます。「恒産なければ恒心なし」でそれどころではないというのが実情でしょう。かく言う私も倒産前は同じような状態でした。
しかし一方、経営危機に陥って精神的に余裕のない状態にも関わらず、変わらない素晴らしい道徳習慣を失っていない経営者やそのご家族ともたくさんのご縁をいただきました。
すべての企業が再建できるわけではありません。そして、企業再生の可能性がなくなっても、個人の生活は続きます。
このような道徳習慣のある人間性の高い方々には、
「自暴自棄になりかけた私でも、再起できたのです。あなた方のような人間味のあるご家族は再び、必ず幸せな生活を手に入れることができます。」
と申し上げ、
「あなた方ご家族には、幸せにならなければならない義務がある。」
と申し上げます。
「人生の義務は、ただひとつしかない。それは幸福になることだ。」3 ヘルマン・ヘッセ
このブログ、「中小零細ファミリー企業版 『長寿幸せ企業』の実践経営事典2017」は井上経営研究所が発信しています。
次回は 第6章 健全企業の経営実学「時務学」を学ぶ の第1回です。
井上経営研究所(代表 井上雅司)は2002年から、「ひとりで悩み、追いつめられた経営者の心がわかるコンサルタント」を旗じるしに、中小企業・小規模零細ファミリー企業を対象に
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- 再生なった中小零細ファミリー企業を俯瞰塾などの実践経営塾と連動させて、正常企業から、健全企業、無借金優良企業にまで一気に生まれ変わらせ、永続優良企業をめざす「長寿幸せ企業への道」事業
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