E子に会えると思った3番は小走りになっている。デッキに出るとE子は海を見ていた。若い頃年上の女性たちはみんな上から目線で何を言っても相手にされなかった。それが今は自分が上から目線で誰のこと信用しなかった。それがE子だけは違った。若くて可愛くて爽やかで賢い。付いた3番はE子の背中に言った。
「お待たせ」
振り向いたE子は答えた。
「船で走ってはいけませんよ」
「そうだったわね」
「それでどうでしたか?」
「片山さんはオプショナルツアーのバスに乗ったみたい だけど片山さんの部屋に行ったら彼女がいて」
「彼女って今日の午前中は休みだった人?」
「そう だけどスタッフの格好をしてたわ」
「ナゼですか?」
「わからない でも片山さんのことは心配みたい」
「気になりますね」
E子はまるで探偵みたいだった。
「私は先日飲みすぎた片山さんを送った時に初めて会話を交わしたけど別に ただ部屋はドッチャラかっちゃらだから近づかないでって途中で返されたわ」
「とにかく片山さんはおかしいです」
「お客様よ」
「私も心配なんです 船にネズミがいるって言うけどそれはネコじゃないかと」
「マサカ」
「どっちが」
「どっちも」
「船にはどちらもいないわ」
「でも前に乗ったときこっそりネコを連れていらしたお客様がいらして 結局ネコは死んでしまいお客様は海に飛び降りたりするかと心配で心配で」
「へぇ そんなこともあったんだ」
そう答えながら3番は別のことを考えていた。どちらかといえばネコがいい。ネコになってE子のペットになりたい。マサカ同性でしかもずっと年下の女性に惹かれるなんて思ってもみなかった。どうしてこうなったのか考えるのも怖かった。