鞠子はチワワと散歩しようとして自宅の玄関にいた。電話がなる。鞠子は仕方なく靴を脱いでリビングルームに戻った。電話機を取る鞠子。裕子の沈んだ声が聞こえた。
「ママよ」
「こんな時間なんて珍しいわね」
「あぁー」
鞠子は聞きたくないけど仕方なく聞いた。
「どうしたの」
「聞いてくれる? お兄さんに脅かされたの」
「どういうこと?」
「乗った船がタイタニック号になったらどうするんだよ」
「ヤーね」
玄関で音がしたから鞠子が振り向くとチワワがくるくる回っている。鞠子が「あっ!」と叫ぶとトイレをしているチワワ。
「あぁー」
「ママはそんなこと言われて可哀想でしょ
。鞠子ちゃんならわかってくれるでしゃ」「ハイハイ。お兄さんが悪い」
「そうそう」
「だけどタイタニック号だって沢山の人が助かったのよ」
「えっ? そうなの? だったら私は助かる方ね」
「そうそう」
「よかったワ。やっぱり娘は頼れる頼れる」呆れ顔の鞠子。
その朝車の中で運転している聡美と助手席の徹。車が新横浜駅のロータリーに入って行った。スーツ姿の徹を聡美はクスクス笑う。
「タイタニック号のこと言い出すし牛で大瓶で飲みすぎよ」
「ヘヘヘ」
と頭をかく。
新横浜駅ロータリーの朝はかなり混雑している。
徹は「ここでイイよ。ありがとう」と言いながら下りようとしていた。その背中に聡美は「ネェ」といった。徹が振り向く。
「ん?」と徹。
「学生時代の同級生、弁護士さんと結婚した子がいるのよ。ランチ誘って相談しようかな」
「弁護士?」
「だって船に乗るって何が起きるかわからないでしょ」
喉をごくんと飲む徹。
「女って怖いのよ」
と徹の鼻をつまむ聡美。