京都の闇に魅せられて(新館)

千本ゑんま堂念仏狂言『紅葉狩』 @ 京都妖怪探訪(837)

 

 

 どうも、こんにちは。

 シリーズ前回に引き続いて、この5月連休中に観た「千本ゑんま堂大念仏狂言」の演目を紹介します。

 

 

 今回は、信州(現在の長野県)の戸隠・鬼無里に遺されたに鬼女退治伝説を元に創作された『紅葉狩(もみじがり)』を紹介します。

 『紅葉狩』は前回の『船弁慶』と同じく、能楽の演目のひとつですが、「千本ゑんま堂念仏狂言」の演目のひとつでもあります。

 戸隠山に棲む鬼神を、天皇の命を受けた武将・平維茂(たいらの・これもち)が、神仏の加護を得て討伐する、という内容のストーリーです。

 以下、紹介していきます。

 

 

 本編が始まる前の舞台。

 

 

 

 その題名にふさわしく、紅葉の枝が飾られますが、会場で販売されていた案内パンフレットによればこの枝は、この時期にも葉が赤く染まるゑんま堂に生えている木からだそうです。

 こういうところも面白いですね。

 

 

 主人公である、平維茂(たいらのこれもち)が従者・太郎冠者を伴って、信州・戸隠山にやってきます。

 

 

 

 

 

 天皇の命を受け、この地に棲み悪事を働く鬼神を討伐にやってきたのです。

 

 

 

 紅葉に彩られた、壮大で美しい戸隠の山河に魅せられる、維茂と太郎冠者。

 

 

 

 

 二人はここに陣を敷き、休息をとることにします。

 

 

 

 

 

 酒宴をはじめる維茂と太郎冠者。

 

 

 

 

 

 

 太郎冠者は維茂に命じられ、紅葉の枝を折ろうとします。

 しかしそこへ一人の美女が現れ、太郎冠者を制します。

 

 

 

 

 太郎冠者は維茂に、女に紅葉の枝を折るのを止められたと報告。

 

 

 

 

 維茂は女に会って話し、紅葉の対する想いを聴きます。

 

 

 

 

 そして維茂は、女にも酒を勧め、3人で酒宴を続けます。

 

 

 

 

 女の歌も交えて、楽しい酒はますます進みます。

 

 

 しかしついつい酒が進みすぎて、維茂は酔い潰れて寝てしまいます。

 

 

 

 

 

 太郎冠者も酔い潰れて寝て・・・二人とも寝てしまいます。

 

 

 

 

 

 

 そして二人が寝てしまった後、女は・・・。

 

 

 

 

 

 

 何と、維茂の刀を盗み去ってしまいます。

 

 

 そうとは知らずに眠り続ける維茂と太郎冠者。

 

 

 

 

 そこへ「たけふじ」と名乗る、神勅(八幡大菩薩の使い)が現れます。

 

 

 

 「どこかのサラ金みたいな名前やなあ」とも思いましたが、そういうしょうもない妄想は置いといて。

 勅命を受けた維茂を守護し、助ける為に神通力で追ってきたのですが。

 この神の使い・たけふじの目には、険しい岩壁がそびえ立ち、鬼に喰われた無数の犠牲者の人骨が散らばっている、鬼の住処としての戸隠の真の姿が見えていました。

 

 

 たけふじは維茂の姿を探しますが・・・。

 

 

 

 このような鬼の住処ともいうべき恐ろしい場所で、何も知らずに酔い潰れて寝ている維茂と太郎冠者の姿を見つけ、驚きます。

 たけふじはそれを見て全てを悟り、維茂から刀を盗み出したあの女の正体こそは、「ゆうせん童子」という、この山に古くから棲む鬼神であることを、つまり本来維茂が倒すべき敵であることを告げます。

 この「ゆうせん童子」の名は漢字でどう書くのか? 「遊仙」か? それとも「幽泉」か? そこまではわかりませんでしたが。

 

 

 ここで一旦、狂言『紅葉狩』から離れて。

 ところで一般的に流布している(というより、私が知っている)戸隠の鬼退治伝説の概要について。

 いろいろと異説もあるようですが、それはだいたい以下の通り。

 戸隠に棲み悪事を働いた鬼神、あるいは鬼女の名前は、「紅葉(くれは)」あるいは「呉羽(くれは)」とか「更級姫(さらしなひめ)」などと言われ。

 姿を変えたり、幻を魅せたり、人を呪殺したり、天変地異を起こしたりなど、強力かつ多種多様な妖術を操り、多くの盗賊や悪人を支配・統率して各地で悪の限りを尽くした。

 いわば「大江山の酒呑童子の女性版、戸隠版」ともいえる鬼女ですが、しかも絶世の美女でもあったと伝えられていますから、伝説や伝承などに名を残さないはずが、能楽などのネタにされないはずがないでしょう。

 彼女は承平7年(937年)に奥州・会津で生まれ、幼名を「呉羽(くれは)」といいました。子供の居ない夫婦が、魔王とも呼ばれる第六摩利支天に祈願して授かった子ですが、いわば「魔王の申し子」ともいうべき子でした。

 すれ違った誰もが振り向くほど美しく、教養もあり、琴の名手でもありましたが、同時に邪悪な心も持ち合わせていました。

 近在の豪族の息子に見そめられ結婚しますが、分身の術を使って婚礼支度金だけを奪って・・・つまり今で言う結婚詐欺のようなことをやって、その金で平安京へ。

 平安京で「平経基(たいらのつねもと)」、或いは「源経基(みなもとのつねもと)」という貴人に見そめられ、やがて寵愛を受けるようになります。

 この「平経基」或いは、「源経基」という人物は、実在した人物・源経基を・・・シリーズ第827回記事で紹介した六孫王神社で竜神として祀られている清和源氏の祖・・・を元に考え出された架空の人物ともされていますが。

 しかし紅葉は、自分が妾から正妻になろうとして、経基の正妻を呪殺しようとしたことがばれてしまいます。

 本来なら処刑されてもおかしくない罪ですが、この時紅葉は経基の子を宿していたため、罪一等を減じられ、信濃国・戸隠へと流罪になります。

 流罪先の戸隠で紅葉は、さらに邪悪な鬼女の本性を現し、盗賊や悪人を集めて盗賊団を組織し、戸隠や近隣地域で略奪や殺戮を繰り返す、人肉を喰うなどの悪行の限りを尽くします。

 遂に安和2年(967年)、時の天皇は、武将・平維茂(たいらのこれもち)に戸隠の鬼女退治を命じます。

 維茂は軍を率いて戸隠に遠征へ行きますが、美しい女性の姿をして惑わし、日の雨を降らせるなどの強力な妖術を使う紅葉相手に苦戦します。

 その中で「紅葉」は、「更級姫」という美しい姫君の姿で、紅葉風景を観る酒宴を催して、維茂を惑わそうとするエピソードがあります。

 維茂はすっかり彼女に魅了され、油断して酒に酔って眠りこけてしまいますが、武士の守護神である男山八幡大菩薩の神(或いはその使い)が現れ、維茂の目を覚まさせます。

 能楽や狂言の『紅葉狩』は、この伝承をベースに創作されたものと思われます。

 

 

 さて、能・狂言『紅葉狩』の元となった伝承のおおまかな内容はここまで。

 ゑんま堂狂言『紅葉狩』に戻り、この物語の続きと結末とを追っていきます。

 

 

 

 神の使い・たけふじは、天皇に命じられた重要な任務の最中に、女に惑わされ、酒に酔い潰れ、大事な武器をも敵に奪われるという維茂の体たらくを「こんなことでどう勝てるというのか」と、きつく叱責します。

 そして「日本無双の名刀・小烏丸(こがらすまる)」を維茂に貸し与えます。

 

 

 

 

 

 維茂と太郎冠者を起こそうと「はよう、目を覚まさせまたえ」と祈祷をし、去って行くたけふじ。

 

 

 

 

 

 ようやく目を覚まし、たけふじからもたらされた神剣を手にする維茂。

 

 

 

 

 

 まだ夢心地だった太郎冠者も、維茂に叱責されて目を覚まします。

 

 

 

 

 維茂も太郎冠者に「あの女こそが、この山に棲む鬼神なるぞ」と告げます。

 正気にかえった太郎冠者は、自ら進んで「私がその鬼神を山奥よりかり出して参ります」と、山奥へと進んでいきます。

 維茂も「急げ」と太郎冠者を促します。

 

 

 舞台には早鐘のような効果音(BGMか?)が流れ、一気に緊張感に包まれ、波乱の予感が漂います。

 そして遂に、その正体を露わにした鬼神が現れます。

 

 

 

 

 維茂と鬼神との激しい死闘が始まります。

 

 

 

 

 

 太郎冠者も加勢して、戦いはさらに激しさをましてきます。

 

 

 

 

 

 この太郎冠者、とぼけたところもありますが、さすがは武将の従者だけあって、主君と一緒に果敢に戦います。

 その点は、同じ千本ゑんま堂狂言『道成寺』の陀仏坊(だぶつぼう、シリーズ第487回第488回を参照)や、『船弁慶』の船主(シリーズ第836回を参照)など、ただの足手まといのヘタレ役とは違います。

 

 

 維茂が鬼神の背後をとり、決定打を浴びせます。

 

 

 

 

 

 遂に鬼神を討ち取ります。

 

 

 

 

 

 

 維茂と太郎冠者は、「めでたし、めでたし」と都に凱旋し、物語は幕を閉じます。

 

 

 

 

 

 千本ゑんま堂狂言の『紅葉狩』は、戸隠の鬼伝説をモチーフにした能や狂言は、以前から観てみたいと思っていました。

 毎年の5月連休、都合が合わずになかなか観られずにいたのですが、今年(2023年、令和5年)ようやく観ることができ、うれしく思います。

 さて、この物語。

 王(天皇)から命を受けた英雄が、自身が信仰する神や仏の加護を得て、鬼や竜などの妖怪を倒す。

 日本だけでなく、世界各地の妖怪退治や英雄伝説などの王道パターンのひとつです。

 ただこれは・・・極点に言えば、こうした英雄伝説や妖怪退治伝説は、特定の国・民族の、その当時の支配層や権力者のプロパガンダでもある可能性もある。

 私はそのように考えております。

 例えば、西欧のドラゴンなどの妖怪を退治する英雄の身分・職業といえばだいたい、騎士やキリスト教の聖人だったりします。日本、特に平安時代の鬼や妖怪退治をする人の身分・職業と言えば、武士や陰陽師、仏教(密教)の僧侶など。

 おわかりでしょうか。いずれもその当時の体制側、支配権力側の人たちでしょう。

 そして、同じく千本ゑんま堂狂言の演目にもなった有名な土蜘蛛など、倒される側の鬼や妖怪の正体とは、異教徒や異民族、犯罪者、先住民や反体制側の人々など、その支配体制側によって敵視・排除された側の人々だったりします。

 つまり、英雄伝説や妖怪退治伝説の実態や真相とは、その当時の支配体制側の人々が、その敵とした人々を(人外の、異質の存在に見立てて)排除か抑圧、或いは滅ぼしていった歴史だったのではないかと、いうことです。

 同じく千本ゑんま堂狂言などの題材にもなった、源頼光らによる妖怪・土蜘蛛退治などはその典型例と言えるでしょう。土蜘蛛とは元々、神武天皇の東征で倒されていった先住民や、大和朝廷権力が敵視した「まつろわぬ民」への蔑称でしたから(※その詳細はシリーズ第302回第396回第485回などを参照)。

 そして、平維茂や源頼光など鬼・妖怪退治の英雄を輩出した平氏や源氏などの武士とは、元々は朝廷権力の武力集団として、犯罪者や反体制勢力と戦ってきた人々。

 もしかしたら、『紅葉狩』のモチーフになった戸隠の鬼退治伝説などの真相も、実は朝廷権力が地方の反体制勢力や独立勢力を武力制圧していったというものかもしれない・・・。

 シリーズ次回は特別編として、通説とは異なる、戸隠の鬼伝説に新解釈を加えた『紅葉狩』も紹介したいと思います。

 

 

 

 

 今回はここまで。

 また次回。

 

 

 

 

 

*千本ゑんま堂・引接寺へのアクセスはこちら

 

 

*千本ゑんま堂・引接寺のHP

https://yenmado.blogspot.com/

 

 

*千本ゑんま堂大念仏狂言保存会のHP

http://enmadokyogen.info/index.html

 

 

 

 

 

*『京都妖怪探訪』シリーズ

https://kyotoyokai.jp/

 

 

 

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