燃費

初めて、ポストに給油した。

車を購入する際「走りは、９km／ℓ程度」と言われて、少しがっかりした。
でも、マニュアルシフトだし、乗り方次第かもしれない。
どうすれば燃費を向上させられるだろうか。

５月に或る会食会で初めて会った人がこう言った。
「ボクは車を運転するたびに『今日もよろしく頼むね。丁寧に乗るから、頑張って走ってね』と声をかけるんです。そうすると、本当にボクの期待に応えてくれるんですよ。前回は12km走りました。声がけを始める前は９kmがやっとだった車です」

信じ難い話を聞いたと、母に話したところ、彼女は言った。
「そうなのよ。車って不思議なのよ。以前、新しい車に買い換えようと決めたとたんに、それまで特に故障もなかった古い車が突然、あちこち故障し始めてねえ。自分が見捨てられたとわかって気落ちしたんじゃないかと思ったくらい」

なるほど、科学では説明できない現象があるのだ。


・・・でも、私は科学的に説明できる方法を選ぶことにした。
「我慢」する。

いつもなら、快適にアクセルを踏み込む直線道路でも、タコメータを気にしながら、60km/h走行に徹する。手際よくハイトップに入れ、3000回転以内の走行を目指す。

地平線まで見通す北海道の直線道路を60kmを保持して走るのは、忍耐力がいる。
風を切り、周囲の風景が流れる快感への誘惑を抑えなければならない。
後ろに連なる後続車に申し訳なくなる気持ちを抑えなければならない。
できるだけ路側帯に寄って追い越し易く走る配慮も必要だ。

ゆったりとした音楽聴きながら、周囲の牧場風景や海岸風景に車を溶け込ませて走る。


・・・そして、給油の日がやってきた。
どきどきしながら、給油メーターの数字を目で追う。
数値によっては、我慢の日々とさよならにしよう。

給油メーターが止まった。
トリップメータを確認し、頭の中で割り算をしてみる。
＝１５

すごいじゃない！ポスト君。