見果てぬ夢

様々な土地をゆっくりと歩き、そこに暮らす人たちに出会い、風景の中に立てば、何か見えてくるものがあるかもしれない。

米原万里に惹かれて

2007-05-24 22:15:55 | 生き方・生活
出発前、友人諸氏から何冊か本をいただいた。文庫本サイズを超えるものは可能な限り出発前に目を通して所蔵し、文庫本は何冊か持参している。

つい最近読み終えたのが、米原万里の『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』。3月まで一緒にサロンを運営していたミチコさんから「これをぜひ読んで」と渡された時は嬉しかった。米原万里が病で他界したのが昨年。彼女と彼女の作品は以前からとても気になっていたのだが、「そのうちに」などと思っているうちに、彼女は逝ってしまった。偶然にも、明日が彼女の一周忌だという。

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』は、プラハのソビエト学校に在学していた彼女自身の体験に基づき、大宅壮一ノンフィクション賞受賞作でもある。
小学生のマリ(米原万里)は、50ヶ国以上から集まってきた個性的な子どもたちと共産党員であるその親たちとの重厚な日々を経て、1980年代後半からの民主化闘争と社会主義体制崩壊劇の中で大人になっていく。これから欧州に入ろうとしている私にとって刺激的な一冊だった。

ポスト冷戦時代にやってきた、民族紛争の時代。そして再び帝国主義戦争の時代がやってきそうなこの21世紀を米原万里はどう感じていたのだろうか。彼女のたった一冊の文庫本から発信するメッセージは率直で的確だ。

彼女は語る、「このときのナショナリズム体験は、私に教えてくれた。異国、異文化、異邦人に接したとき、人は自己を自己たらしめ、他者と隔てるすべてのものを確認しようと躍起になる。自分に連なる祖先、文化を育んだ自然条件、その他諸々のもおんい突然親近感を抱く。これは、食欲や性欲に並ぶような、一種の自己保全本能、自己肯定本能のようなものではないだろうか。」
それは、同じ日本人の中にある、出身地、出身校、性別、年齢等、自分の属性への肯定本能と違わないのかもしれない。

ところで、カトマンズには日本の古本を大量に扱う書店がいくつかあり、買って読み終わって持っていくと半額返金されるシステムが根付いている。遥か昔の懐かしく古びた本からつい最近のものまで、推理小説から人生の生き方や旅の孤独を綴ったエッセイまで多種多様だ。
試しに、読み終わった文庫本を一冊持っていったところ、50Rs(約190円)で買い取ると店主は言った。日本の某大手古本ショップでは10円にもならない本が、ネパールでは夕食2,3回分の値がつく。

*米原万里(よねはらまり)
1950年東京生まれ。ロシア語会議通訳、エッセイスト。
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2 コメント

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古本屋 (ワイン)
2007-06-06 23:13:58
ホーチミンにも、プノンペンにも外国人向けの古本屋がありました。その本をカフェで寛いでいる観光客の手元まで売りに行く売り子の商売があるというところが、ネパールとは違うところですが。
読んだあとに半額戻ってくるというシステムは、ゆっくり過ごす外国人観光客の多い地域ならではの商売かもしれません。
日本の観光地で、長期滞在する外国人相手の古本屋は見ないですね。


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肯定本能 (コウ)
2007-06-01 17:02:20
ちょっと難しいですね。(笑)

自分の属性への肯定本能
そもそも、これがすべての争いのもとなんでしょうね。
人間の愚かなところ。
でも、きっと人間だけでなく、生き物すべて。
あっ、だから本能なのかな?

この本能をコントロールできなければ、いずれ人間は滅びるのでしょうね。
最近、50年後の地球にどのくらい人間がいるのか真面目に心配です。

古本屋で一儲けしに行こうかな。(笑)
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