見果てぬ夢

様々な土地をゆっくりと歩き、そこに暮らす人たちに出会い、風景の中に立てば、何か見えてくるものがあるかもしれない。

旅の風景■国境を意識しないマサイ族

2006-08-20 13:51:26 | 過去の旅
仕事のテキストに掲載されていたケニア人の生活の記事に触発され、ケニアに行ったのは10年ほど前のことです。
久しぶりに訪問したロンドンで格安チケットを手に入れ、空路でナイロビに入りました。予想以上に都会でした。整然とは言い難いながら、オフィスビルやショッピング街が並び、さすがに首都です。

ナイロビ市内の安ホテルで二晩過ごした後、郊外に出る方法を探った結果、路上で勧誘合戦を繰り広げているサファリツアーのひとつに参加することにしました。
「動物より、人の生活の方に関心があるからサファリには興味がないの」と、しつこい勧誘を振り払っていたところ、「サファリに行けば、マサイ族の村にも寄りますよ」とふっくらとしたキクユ族の男性が、嬉しそうにマサイ族の村の写真を見せたのです。

ナイロビ中心地から260キロ。動物天国と言われるマサイマラ保護区に向かう広い国道はひどく荒れていました。ぼこぼこと大きな穴があいた舗装を避け、車はみな、両脇の草原地帯や畑ぎりぎりの境を走り抜けていくのです。道路が空っぽで、両脇を車が行き交う珍しい風景がずっと続きました。

マサイ族は、牛の糞を固めた天井の低い丸い家が集まって集落を形成しています。観光地化された今は、伝統のビーズ手芸のアクセサリーを売ったり、わずかな入村料を徴収したりして、貨幣経済に巻き込まれた生活への微妙な変化を見せていました。


シュラフで寝る簡素なテント村に数日滞在しているうちに、マサイ族の青年たちと様々な話をするようになりました。
・非婚男性だけの集落をつくるという側面をもつ一夫多妻制の現実
・移動する遊牧をやめて、定住しろとうるさい政府
・自分たちは必要としていない政府の、勝手な干渉の煩わしさ

タンザニア国境のサランゲティ国立公園を移動して歩くマサイ族も多いと聞き、「そういうマサイ族は、ケニア人?それともタンザニア人?」
と質問してしまってから、答えに困った青年を見て、愚問だと気づきました。

タイや中国の国境で暮らす山岳民族も、国籍の意識はほとんどないと言います。中国人でもタイ人でもどっちでもいい。国を認識する必要がないからです。

折しも、北海道根室沖ではロシアによる銃撃・拿捕事件が起こり、日本人の若い命が失われました。
陸地隣接する国のない日本ですら、こうした国境問題の難しさに直面している今、世界中の国境を巡る悲惨な闘争はまだまだ解決に至れない現実を痛感します。

幸い、タンザニアとケニア間では、家畜が食べる草原の資源の取り合いはまだ発生していないようです。
国境は、人為的に引かれた目に見えない線です。
マサイ族には、国境の間を自由に行き来し、国同士の利害関係に巻き込まれない独自の生活を送っていくことを願います。


にほんブログ村 政治ブログへ にほんブログ村 その他生活ブログへ にほんブログ村 サラリーマン日記ブログへ 



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« スポーツの後の誘惑のビール | トップ | 「お茶」で呼ばれる有能な女... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

過去の旅」カテゴリの最新記事