リトルシニア選手権決勝は世田谷西が15対4の大差で東京神宮を退けました。同チームで目立ったのは1番大串亮太(慶應義塾普通部3年)、2番大坪亮介(尾山台中3年)、3番村田雄大(東鴨居中3年)、4番岡敬太郎(品川学園中3年)、5番谷田部翔太(狛江第二中3年)の野手陣。とくに大串の、ボールを上から捉えるバット操作は秀逸でした。俊足、好守も備え、慶應高校進学なら即戦力の働きをすると思います。
谷田部は第2打席で三塁打を放ったときの三塁到達が12.06秒、また第5打席のバントのときの一塁到達が4.29秒という俊足。第4打席の1死満塁の場面では高めの130キロストレートをおっつけて左中間に二塁打を放ち、技術力の高さも見せつけました。優勝して当然の陣容ですが、東京神宮の1番・五十幡亮汰(埼玉県行田市長野中3年)の脚力が私には忘れられません。
第1打席の二塁ゴロのときの一塁到達が4.01秒、第2打席の二塁打のときの二塁到達が最後流して8.06秒、そして第3打席の三塁打のときの三塁到達は何と10.76秒という速さでした。私が計測した中では、2012年の三塁到達最高タイムが上田剛史(ヤクルト)の11.09秒、今年は高山俊(明大)と建部賢登(東京ガス)の10.97秒が最速で、荒波翔(DeNA)がトヨタ自動車時代に記録した10.95秒、杉谷翔(日本ハム)が2011年10月18日の西武戦で計測した10.90秒も見事でした(私の中ではこれが最速)。しかし、それらを問題にせず蹴散らしました。中学3年生がですよ。これは大げさでなく事件だと思います。
試合後、引き揚げてくる五十幡に「100メートルの最高タイムは?」「ベース1周タイムは?」「野球と陸上、高校ではどっちを選ぶの?」と矢継ぎ早に聞きました。五十幡は「手動で10.71秒」「13秒……う~ん」「野球をやりたいです」との答え。プレーをしっかり目に焼きつけたので、この答で十分満足です。どの高校を選ぶのかまで聞けませんでした。チーム関係者は陸上まで含めていっぱいくるでしょうね、と話してくれました。
五十幡の10.76秒でわかったことがあります。塁間の距離は27.431メートル。三塁までは82.293メートルということになります。打球の確認、一塁から二塁、二塁から三塁へ向かうときのコーナーワークを考えると、ほぼ100メートルのベストタイムが三塁到達のベストタイムと同じくらいになるのではないでしょうか。そう考えれば100メートルを10秒71で走る五十幡が10.76秒で三塁に到達しても不思議ではありません。このレベルのスプリンターがこれまでプロ・アマ含めて日本の野球界にはいなかったのだと思います。
中学生の打者走者が一塁まで4.3秒未満で駆け抜ける(タイムクリア)というのは非常に難しいことです。私が03~06年まで見た6試合の中でタイムクリアを果たしたのは次の4人(5回)。
◇03年8月20日 緑中央対札幌新琴似(ジャイアンツカップ決勝)
0人
◇04年8月18日 那覇国際対武蔵府中(ジャイアンツカップ)
武蔵府中2人2回(4.25秒、4.27秒)
◇05年7月30日 山梨選抜対栃木選抜(ボーイズリーグ関東オールスター戦)
0人
◇05年8月31日 リトルシニア対ボーイズ(少年野球交流試合)
0人
◇06年8月18日 和歌山打田ヤング対藤井寺ボーイズ(ジャイアンツカップ)
和歌山打田1人1回(西川遥輝バント4.11秒)
◇06年8月19日 草津対佐倉(ジャイアンツカップ決勝)
佐倉1人2回(4.22秒、4.21秒)
数少ないモデルで申し訳ないですが、3秒台は1人もおらず、最高は06年8月18日の和歌山打田・西川(現日本ハム)がバントのとき記録した4.11秒。私の中で中学生は常に「高校生とは一線を画す未成熟な存在」でした。しかし、7年ぶりにきちんとリトルシニア選手権を見て、この間の中学生の実力向上に驚いています。
メジャーリーグを含むプロ・アマに関わらず、私が設定するベースボールプレーヤーとしての俊足の基準は「一塁到達4.3秒未満」(二塁到達8.3秒未満、三塁到達12.3秒未満)。この基準タイムを今大会、次の選手たちがクリアしました。
◇8/2 五十端亮汰(東京神宮3年)……[1]バント3.68秒、[2]三塁打11.20秒
鳥羽 晃平(長野東2年)………[1]左前打4.10秒
大串 亮太(世田谷西3年)……[3]三塁打12.28秒
◇8/3 谷 駿太(千葉市3年)………[2]一安打4.28秒
加藤 駿(佐倉3年)…………[2]遊ゴロ併殺打4.26秒
岡 利博(佐倉3年)…………[1]バント安打3.98秒
藤井 大翔(神戸中央3年)……[1]バント安打4.17秒
◇8/4 加藤 駿(佐倉3年)…………[1]二失4.22秒、[3]バント安打3.74秒
松尾 康平(佐倉3年)…………[1]バント安打3.88秒
伊藤 悠(佐倉3年)…………[2]バント4.18秒
能力の“多寡”を判断する適切なツールが脚力だと私は思っています。そういう前提に立って見れば、この7年間で中学生の能力はグンと上がっています。凡打でも一生懸命に走る、という価値観がようやく確立されたのかもしれません。
投手は、千葉市チームの背番号「1」藤平尚真(3年)がよかったです。8/4の豊田戦では神宮球場のスピードガンが最速「137」を表示しました。レフトでスタメン出場し、その間ブルペン投球をしていなくても、6、7回の2イニングを3者凡退、4奪三振に斬って取っています。球種はストレート主体で、110キロ台前半の斜めスライダーと、1球だけ打者近くで鋭く落ちる球を投げました。是非見たいという人は8/5の第2試合(11時開始予定)に登板する可能性があります。
相手の東京神宮にも佐藤陸樹(3年)という立派な本格派がいます。投げ方は佐藤のほうがいいくらいです。神宮球場はスピードガンを表示してくれるのでどのくらいの速さなのか、私も楽しみにしています。
今日も第41回リトルシニア選手権を見に府中市民球場まで足を運びました。昨日の五十幡(東京神宮)のようなスーパー球児はいませんでしたが、第1試合に登板した千葉市の右腕・藤平、第2試合に登場した佐倉の1番加藤(中堅手)、3番内山(三塁手)、神戸中央の3番寺内(右翼手)は相当よさが目立ちました。
加藤は1回、寺内が放った弾道の低いライナーに頭から突っ込んで好捕し、ピンチの芽を未然に摘み取りました。打撃面では第4打席に初ヒットを中前に放ち、そのあと二盗を成功させているように一定の脚力を備え、第2打席の遊撃ゴロ併殺打のときの一塁到達はプロでも俊足で通る4.26秒でした。高校野球に進んでもいい1番打者になれる選手だと思います。
内山は第1打席が一塁ライナー、第2打席が死球と見せ場がなく、第3打席にようやく初球を前さばきでセンター前に持って行き格好をつけました。それにしてもがっしりした体格と打席内での力感溢れる立ち振る舞いは中学生とは思えません。死球で出塁した3回には相手バッテリーのちょっとしたミス(捕逸)を見逃さずに二塁から三塁を陥れているようにゲームへの参加意識も高い選手。
寺内も4打数2安打と結果を出しました。1回こそ加藤の好守に阻まれヒットを1本損しましたが、ゆったりしたタイミングの取り方と積極的に初球から打って行く攻撃的スタイルで、相手バッテリーにプレッシャーをかけ続けます。
投手で唯1人目についた藤平は力強いストレートを投げる右腕本格派です。抜けたようなストレートの球筋は気になりますが、これを空振りする選手が多く、さらに右打者の内角にこのストレートを多投します。このコースにストレートがくるということは抜けているのではなく、明らかに狙って投げているということ。ストレートも“本格派”と書ける力強さがあり、将来は首都圏の強豪校に進んで注目を集めていくことでしょう。
明日は準々決勝が神宮(8時開始)と保土ヶ谷(9時開始)で行われます。お時間が許す方は高校野球に直結するハイレベルな中学生のプレーを見に行きませんか。
今日から始まった中学生の全国大会、第41回リトルシニア日本選手権大会を見に府中市民球場まで行きました。第1試合は三河安城対東京神宮、第2試合は世田谷西対長野東。この大会を見たのは久しぶりで、私は浦島太郎状態で変貌した中学生のプレーを見ていました。
3回裏、無死一塁の場面で東京神宮の1番五十幡亮汰(3年・中堅手)はセイフティバントを試み、アウトになったもののこのときの一塁到達タイムは3.68秒というとんでもない速さでした。私はストップウォッチの「スタート・ストップボタン」を押すタイミングに絶対的な自信を持っていますが、このタイムが表示されたときは押すタイミングが早すぎたかなと思いました。しかし4回表、2死一、二塁の場面でライト線に三塁打を放ち、このときの三塁到達タイムを見て五十幡の俊足を確認しました。ストップウォッチに表示された数値は「11.20」。私が今年見たプロ35試合、アマチュア146試合の中で、この11.20秒は8位の記録です。選手名簿で東京神宮の監督・コーチを見ると次のような顔ぶれ。
監督 丸山完二
コーチ 三橋豊夫
青木 実
川畑盛幸
水谷新太郎
かつてのヤクルトのフロントやコーチ、選手たちではありませんか。高校野球が今、元プロの受け入れに躍起になっていますが、中学野球の世界ではもう前に進んでいるんですね。東練馬のコーチの中には「徳元敏」という名前が見えます。98年のドラフト会議でオリックスから5位指名された投手でしょうか。
ちなみに、東京神宮の3番山本賢太(3年・左翼手)は4回に3ランホームランをレフトスタンドに、世田谷西の4番岡敬太郎(3年・一塁手)は1回に3ランホームランを左中間スタンドに放り込んでいます。両翼95m、中堅120mの広い球場ですよ。中学野球をもう少しちゃんと見ないといけないなと反省した次第です。