明治神宮大会、高校の部の決勝(日本文理対沖縄尚学)は球史に残る名勝負でしたが、大学の部もそれに劣らず見事なものでした。大会前に公開したNumber Web『詳説日本野球研究』には次のような文章を書きました。
「(亜細亜大は)過去4大会で11試合戦い、総得点はわずか32。1試合平均で3点に達しない計算になる。これは亜細亜大がというより、東都大学リーグ全体の傾向で、直近の1部2部入替戦、駒澤対東洋大などは1回戦が3対0、2回戦が1対0(駒澤大が連勝して1部残留)という胃がきりきりするような戦いぶりだった。日常的にこういう守り合いをするからプロで活躍できる選手が多く輩出されるのかもしれないが、日常的な守り合いが度を越した小技の応酬に発展すれば、パフォーマンス能力が低下する危険性もある。全国大会を勝っていない現状を見ればそう考えるほうが理屈に合っている」
補足すれば私はストップウォッチ持参で野球を見るようになってから亜大野球のファンになりました。しかし、ここ数年の亜大野球は“貧打線”と形容したくなる試合が多く、相当物足りないものでした。
この大会は7対0(八戸学院大戦)、4対0(桐蔭横浜大戦、延長10回)、2対1(明治大戦)と初戦以外は接戦続きで物足りなさから脱却できていないように見えますが、1番藤岡裕大(2年・三塁手)、2番北村祥治(2年・二塁手)、3番水本弦(1年・左翼手)、4番中村篤史(4年・中堅手)、5番嶺井博希(4年・捕手)、6番中村毅(4年・右翼手)の上位打線が自分の間合いでボールを捉えていて、打てる気配をムンムン発散し続けていました。こういう打線を見ると物足りなさは感じません。
明大では2番高山俊(2年・中堅手)に魅了されました。道都大戦で3回にソロホームランを打ったときのこと。実はこのとき金澤一希の内角攻めに遭ってバットを2本折っています(ファールで)。そしてホームランを打った球も厳しい内角への134キロストレートでしたが、これをコンパクトなスイングで押し込んで、ライトスタンドに放り込みました。投手陣も1~3年生に逸材が多く、来年以降変らず強そうな戦いぶりでした。
なお、明大対亜大戦では打者走者の全力疾走が目立ちました。「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達12.3秒未満」をクリアしたのは亜大5人5回、明大5人7回とハイレベル。また一塁まで5秒以上かけてちんたら走るアンチ全力疾走は1人もいませんでした。東都と六大学の意地と意地がぶつかり合った最高の試合でした。
7/2から3日間行われた四国アイランドリーグplus(以下四国IL)対フューチャーズ(以下FT)の交流戦を見て、記憶に残った選手を紹介する。今回はFT編。
投手ではDeNAの安斉と北方、さらに台湾出身の巨人・林(リン)とアメリカで高校、大学生活を送ったロッテ・藤谷の4人に注目した。安斉は外角一辺倒の配球に問題はあったが(バッテリーの課題)、角度十分のストレートには伸びがあり、小さく動かす変化球にも豊かな野球センスを感じた。
北方は高校時代から定評のあったストレートに磨きがかかった。球速はこのシリーズの中では最速の146キロを記録、これに105、6キロのカーブに、120キロ台後半のツーシーム、チェンジアップを交えて危なげのないピッチングをした。あえて注文をつければ、ステップ幅をあと半足伸ばしたい。林はストレートが北方と並ぶ146キロを計測、ポテンシャルの高さを見せつけた。
藤谷はゆったりしたフォームから最速143キロのストレートに、落差十分のフォークボールが抜群にキレて目を引いた。スポニチ版『2013プロ野球選手名鑑』には「野茂氏直伝のフォークが武器」と書いてあるが、どこに接点があったのか興味がある。
野手では二塁・角、三塁・翔太のロッテ勢がよかった。とくに翔太は三塁線を襲う強烈な打球に反応よく飛びついてキャッチという場面が2回あり、一塁へのスローイングも安定していて一軍レベルの選手だと思った。
外野手では石川の守備力、島井の俊足が目立った。石川は7/4にスタメン出場、難しい打球を2本処理、打者走者としては第1打席の遊撃ゴロで4.21秒を計測、一軍レベルの基本的な能力はクリアしていると思った。島井は5回に二盗を成功させ、50m走5.6秒の俊足を実戦で証明した。
■フューチャーズ
◇投手
安斉雄虎(DeNA22歳・右投右打・190/80)向上
北方悠誠(DeNA19歳・右投右打・180/80)唐津商
林 羿豪(巨人22歳・右投右打・188/85)台湾の中学→中央学院大中央
藤谷周平(ロッテ26歳・右投右打・190/86)アーバイン高→北アイオワ大
→南カリフォルニア大
◇内野手
翔太(ロッテ22歳・三塁手・右投右打・180/78)八重山商工
角 晃多(ロッテ22歳・二塁手・右投左打・168/74)東海大相模
◇外野手
石川 貢(西武22歳・右投左打・180/85)東邦
島井寛仁(楽天23歳・右投右打・175/70)西原→ビッグ開発ベースボールクラブ
→熊本ゴールデンラークス
◇4月9日(火曜日)東都大学リーグ
亜細亜大9-0青山学院大
昨年秋の亜大の成績は次の通りだ。
亜大2-1東洋大、 亜大1-0東洋大
亜大3-2駒大、亜大8-6駒大
亜大2‐0国学院大、亜大1-0国学院大
亜大3―1中大、亜大2-0中大
亜大0-2青山学院大、亜大2-4青山学院大
駒大2回戦、青山学院大2回戦を除けば、1~3点しか得点していない。10試合で総得点24は、1試合に換算すれば2.4点しか入れていないことになる。東都大学リーグ各校に貧打の傾向はあるが、昨年までの亜大ほどひどくはなかった。大黒柱、東浜巨(ソフトバンク)に頼り切った“甘えの構造”が垣間見える。
しかし、今春は様子が違う。開幕カードの青山学院大戦は第1回戦が4対6、第2回戦が9対0とよく打っているのだ。牽引者は4番中村篤人(4年・中堅手・左左・178/74)。この試合では1回裏、2死一塁からサイドスロー、東條大樹が投じた内角ストレートを強引に押し込んでライト最前列へ先制の2ランを放っている。
ややバットが下から出るところや、小刻みに前足を動かすタイミングの取り方など、打率.206に終わった昨年秋と変るところはないが、思い切りがよくなった。第2打席は相手右翼手にエラーがついたが、2番手・福本翼の131キロストレートをライナーでライトへ運んだ。
それ以降も第3打席は外寄りのストレートを一、二塁間へ、第4打席は3番手・長谷川陽亮のスライダーを強引に引っ張ってライトにヒットを放っている。元々、プルヒッティングに特徴のある選手だが、スイングに迷いがないという点では雲泥の差がある。最終学年になってプロへの色気が出てきたのかもしれない。
投手では山崎康晃(3年・右右・177/72)がよかった。九里亜蓮(4年・右右・186/82)もそうだが、2人は東浜によく似ている。とくに一塁けん制のときのフォームがあまりにもよく似ているので笑ってしまった。けん制の多さもそっくりで、これは味方守備陣の守りのリズムを壊す恐れがあるので改めてもらいたい。
この日のストレートの最速は146キロ。投球の基本は縦・斜め2種類のスライダーで、勝負球はチェンジアップとフォークボール。コントロールも安定し、とくに右打者の外角低めへ投じるストレートとスライダーは横の角度がもの凄くバットが遠く感じる。九里との2本柱が盤石なものになれば、4連覇は自ずと現実的なものになってくるだろう。