駅前には加藤の自動車の横にもう一台黒いセダンが停まっていて、中にサークルのメンバー三人が乗っていた。
二台で撮影場所まで行くことになっているようだ。
真理たち夫婦は加藤のワンボックスカーに乗るように促された。
後ろのシートに真理と並んで乗るものと思っていた敏之が、加藤の横の助手席に勝手に乗ってしまった。
真理は後ろのシートに一人で掛けて、前の二人を見る形になり、加藤が夫と並ぶのでどんな話が出るのかと心穏やかではなかった。
車は琵琶湖岸に出て北上していく。
青い湖面と道路沿いの黄色く色付いた並木が美しく目に入って来る。
前で敏之が加藤に話しかけている。
以前に勤めていた会社のことや定年後に勤めだした職場のことなど、自分の経歴を紹介しているようだ。
加藤も自分自身のことを話しだした。
真理はメールのやり取りはしていても、加藤の経歴をほとんど知らなかったので興味を持って聞き耳を立てた。
加藤は琵琶湖西岸の農家の生まれで、京都の大学を出ると商社に就職をして、営業マンとして各地を転々としていたようだ。
定年を迎えたのを契機に故郷に戻って、親がやっていた農業をしながら好きな写真を楽しんでいるという。
「ほう。」と羨ましそうな相槌を敏之は何度も打っている。
加藤のあの満面の笑顔や、メールにみられる人を惹き付ける文章、言葉はこれまで彼が歩んできた職業からきているものか、それとも人柄によるものか、いやその両方が加藤という穏やかな人物を作り出しているのであろう。
その魅力に真理は惹かれてしまったのである。
長浜城近くのホテルの喫茶コーナーで休憩をとった。
そこでも加藤と敏之はコーヒーを飲みながら話が弾んでいる。
現地に着くと加藤がメールで書いていたように湖岸にヨシが生え、それが枯れている様に風情があり、ここから見る夕日の景色は絶好の撮影スポットだろう。
前方に小さな島が見え、対岸に山々が連なっている。
夕日にはまだ早いので、波間に浮かぶ水鳥を写真に撮ったり、田畑の風景を撮ったりと各自が思い思いに時間を過ごしていた。
加藤と敏之はよほど気が合ったのか行動を共にしているので、真理もその後を付いて歩いた。
加藤は自分の愛用のカメラを見みせながら得意そうに説明をしていて、敏之がそれに大いに興味を持ったようだ。
二人の間に真理の入る空きはない。
これほどこの二人が親しくなるとは予想もしなかったことだ。
本来なら真理の傍で加藤が山崎のように親切にアドバイスをしてくれていたはずなのに、と敏之を連れてきたことを後悔する。
夕暮れ近くになると湖岸道路の歩道はカメラマンの三脚がズラリと並ぶ。
陽が落ちるまで、真剣な顔で彼らはレンズを覗いている。
真理と敏之は三脚もデジタル一眼レフも持っていないので、二人してコンパクトデジカメで夕日を撮ったり、暮れかかる辺りの景色を撮っていた。
帰りの電車の中での敏之は来る時とは全く違って明るく、先日の電話で気落ちした何かから吹っ切れたように思える。
「俺も写真サークルに入れてもらおうかな。
デジイチも買わなければね。来週にでもカメラ店へ行ってみようか。」
真理にしてみれば今回一回だけのつもりの夫の同行が、今後も続くのかと思うと憂鬱になる。
インターネットの世界から現実の世界に飛び出して得た甘い楽しみの中に、夫が入って来ることはその終わりを告げるものなのだ。
彼がゴルフと称して他の快楽を得ていたことは想像されるが、真理自身も山崎とのメールや写真サークルの中で、夫を少なからず裏切っていたのは確かなことで彼を責めることが出来ない。
数日後、電器の大型量販店で一眼レフカメラを二人で選んでいた。
敏之は加藤から教えてもらったカメラの知識を生かしているようだ。
相変わらず山崎から毎日甘いメールが送られてくる。
二台で撮影場所まで行くことになっているようだ。
真理たち夫婦は加藤のワンボックスカーに乗るように促された。
後ろのシートに真理と並んで乗るものと思っていた敏之が、加藤の横の助手席に勝手に乗ってしまった。
真理は後ろのシートに一人で掛けて、前の二人を見る形になり、加藤が夫と並ぶのでどんな話が出るのかと心穏やかではなかった。
車は琵琶湖岸に出て北上していく。
青い湖面と道路沿いの黄色く色付いた並木が美しく目に入って来る。
前で敏之が加藤に話しかけている。
以前に勤めていた会社のことや定年後に勤めだした職場のことなど、自分の経歴を紹介しているようだ。
加藤も自分自身のことを話しだした。
真理はメールのやり取りはしていても、加藤の経歴をほとんど知らなかったので興味を持って聞き耳を立てた。
加藤は琵琶湖西岸の農家の生まれで、京都の大学を出ると商社に就職をして、営業マンとして各地を転々としていたようだ。
定年を迎えたのを契機に故郷に戻って、親がやっていた農業をしながら好きな写真を楽しんでいるという。
「ほう。」と羨ましそうな相槌を敏之は何度も打っている。
加藤のあの満面の笑顔や、メールにみられる人を惹き付ける文章、言葉はこれまで彼が歩んできた職業からきているものか、それとも人柄によるものか、いやその両方が加藤という穏やかな人物を作り出しているのであろう。
その魅力に真理は惹かれてしまったのである。
長浜城近くのホテルの喫茶コーナーで休憩をとった。
そこでも加藤と敏之はコーヒーを飲みながら話が弾んでいる。
現地に着くと加藤がメールで書いていたように湖岸にヨシが生え、それが枯れている様に風情があり、ここから見る夕日の景色は絶好の撮影スポットだろう。
前方に小さな島が見え、対岸に山々が連なっている。
夕日にはまだ早いので、波間に浮かぶ水鳥を写真に撮ったり、田畑の風景を撮ったりと各自が思い思いに時間を過ごしていた。
加藤と敏之はよほど気が合ったのか行動を共にしているので、真理もその後を付いて歩いた。
加藤は自分の愛用のカメラを見みせながら得意そうに説明をしていて、敏之がそれに大いに興味を持ったようだ。
二人の間に真理の入る空きはない。
これほどこの二人が親しくなるとは予想もしなかったことだ。
本来なら真理の傍で加藤が山崎のように親切にアドバイスをしてくれていたはずなのに、と敏之を連れてきたことを後悔する。
夕暮れ近くになると湖岸道路の歩道はカメラマンの三脚がズラリと並ぶ。
陽が落ちるまで、真剣な顔で彼らはレンズを覗いている。
真理と敏之は三脚もデジタル一眼レフも持っていないので、二人してコンパクトデジカメで夕日を撮ったり、暮れかかる辺りの景色を撮っていた。
帰りの電車の中での敏之は来る時とは全く違って明るく、先日の電話で気落ちした何かから吹っ切れたように思える。
「俺も写真サークルに入れてもらおうかな。
デジイチも買わなければね。来週にでもカメラ店へ行ってみようか。」
真理にしてみれば今回一回だけのつもりの夫の同行が、今後も続くのかと思うと憂鬱になる。
インターネットの世界から現実の世界に飛び出して得た甘い楽しみの中に、夫が入って来ることはその終わりを告げるものなのだ。
彼がゴルフと称して他の快楽を得ていたことは想像されるが、真理自身も山崎とのメールや写真サークルの中で、夫を少なからず裏切っていたのは確かなことで彼を責めることが出来ない。
数日後、電器の大型量販店で一眼レフカメラを二人で選んでいた。
敏之は加藤から教えてもらったカメラの知識を生かしているようだ。
相変わらず山崎から毎日甘いメールが送られてくる。