リートリンの覚書

古事記 上つ巻 現代語訳 十一 伊邪那岐神と伊邪那美神 火の神を斬る


古事記 上つ巻 現代語訳 十一


古事記 上つ巻

伊邪那岐神と伊邪那美神
 
火の神を斬る 


読み下し文


(火の神を斬る)

 故しかして伊邪那岐命詔りたまはく、「愛しき我が那邇妹の命を、子の一木に易へむと謂ふや」とのりたまふ。御枕方に匍匐ひ御足方に匍匐ひて哭きたまふ時に、御涙に成れる神は、香山の畝尾の木の本に坐す、名は泣沢女神。故其の神避りたまへる伊邪那美神は、出雲国と伯伎国との堺の比婆の山に葬りまつりき。是に伊邪那岐命、御佩かせる十拳の劒を抜き、其の子迦具土神の頸を斬りたまふ。しかして其の御刀の前に着ける血、湯津石村に走り就き成れる神の名は、石拆神。次に根拆神。次に石筒之男神。三の神。次に御刀の本に着ける血も、湯津石村に走り就き成れる神の名は、甕速日神。次に樋速日神。次に建御雷之男神。亦の名は建布都神。亦の名は豊布都神。三の神。次に御刀の手上に集まれる血、手俣より漏き出で、成れる神の名は、闇淤加美神。次に闇御津羽神。
 上の件、石拆神より以下、闇御津羽神より以前、并せて八神は、御刀に因りて生れし神ぞ。
 殺さえし迦具土神の頭に成れる神の名は、正鹿山津見神。次に胸に成れる神の名は、淤縢山津見神。次に腹に成れる神の名は、奥山津見神。次に陰に成れる神の名は、闇山津見神。次に左の手に成れる神の名は、志芸山津見神。次に右の手に成れる神の名は、羽山津見神。次に左の足に成れる神の名は、原山津見神。次に右の足に成れる神の名は、戸山津見神。
正鹿山津見神より戸山津見神に至るまで幷せて八の神。
故斬りたまへる刀の名は、天之尾羽張と謂ひ、亦の名は伊都之尾羽張と謂ふ。



現代語訳


火の神を斬る

 それゆえに、伊邪那岐命がおっしゃって、「愛しき我が那邇妹(なにも)の命を、子の一木(ひとつけ)にかえるというのか」と仰りました。

御枕方(みまくらべ)で匍匐(はらば)い、御足方(みあとべ)で匍匐いして、お哭きになられた時に、御涙から出現した神は、香山の畝尾(うねお)の木の本に坐す、名は泣沢女神(なきさわめのかみ)

故に、その神避(かむさ)りになられた伊邪那美神は、出雲国(いずものくに)と伯伎国(ははきのくに)との堺の比婆(ひば)の山に葬りまつりました。

ここに、伊邪那岐命は、御佩(みはかす)、十拳(とつか)の劒を抜き、その子・迦具土神の首をお斬りになられました。

しかして、その御刀の前に着いた血が、湯津石村(ゆついはむら)に、走り就き出現した神の名は、石拆神(いわさくのかみ)。次に根拆神(ねさくのかみ)。次に石筒之男神(いわつつのおのかみ)
 
 三の神。

次に御刀の本に着いた血も、湯津石村に走り就き、出現した神の名は、甕速日神(みかはやひのかみ)。次に樋速日神(ひはやひのかみ)。次に建御雷之男神(たけみかづちのおのかみ)。またの名は建布都神(たけふつのかみ)。またの名は豊布都神(とよふつのかみ)。

 三の神。

次に御刀の手の上に集まれる血、手俣より漏き出で、出現した神の名は、闇淤加美神(くらおかみのかみ)。次に闇御津羽神(くらみつはのかみ)

 上の件、石拆神より以下、闇御津羽神より以前、あわせて八神は、御刀によって生れた神です。

 殺された迦具土神の頭に出現した神の名は、正鹿山津見神(まさかやまつみのかみ)。次に胸に出現した神の名は、淤縢山津見神(おどやまつみのかみ)。次に腹に出現した神の名は、奥山津見神(おくやまつみのかみ)。次に陰(ほと)に出現した神の名は、闇山津見神(くらやまつみのかみ)

次に左の手に出現した神の名は、志芸山津見神(しぎやまつみのかみ)。次に右の手に出現した神の名は、羽山津見神(はやまつみのかみ)

次に左の足に出現した神の名は、原山津見神(はらやまつみのかみ)。次に右の足に出現した神の名は、戸山津見神(とやまつみのかみ)

 正鹿山津見神より戸山津見神に至るまであわせて八の神。

こういうわけで、お斬りになられた刀の名は、天之尾羽張(あめのおはばり)といい、またの名は伊都之尾羽張(いつのおはばり)といいます。



・那邇妹(なにも)
男性が女性に親しみをもって呼びかける語。 あなた
・一木(ひとつけ)
一匹の意味
・御枕方(みまくらべ)
寝ている人の枕のあたり。まくらもと
・香山(かぐやま) 
奈良県橿原市にある天香久山の別表記
・畝尾(うねお)
うねっている小高い所。山すそにうねをなしている地形の、小高い所
・出雲国(いずものくに)
かつて日本の地方行政区分だった令制国の一つ。現在の島根県東部にあたる)
・伯伎国(ははきのくに)
=伯耆国(ほうきのくに)はかつて日本の地方行政区分だった令制国の一つ。現在の鳥取県中部・西部にあたる
・比婆(ひば)の山
=広島県の比婆山(ひばやま)は、庄原市にある標高1264 mの山
・御佩(みはかす)
身にお着けになる。腰にお差しになる
・十束剣(とつかのつるぎ)
日本神話に登場する剣の総称。10束(束は長さの単位で、拳1つ分の幅)の長さの剣。



明日に続きます。

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