リートリンの覚書

古事記 上つ巻 現代語訳 六十二 塩椎神の策


古事記 上つ巻 現代語訳 六十二


古事記 上つ巻

塩椎神の策


書き下し文


 是に其の弟、泣き患へ、海辺に居ます時に、塩椎神来。問いて曰く、「何にぞ虚空津日高の泣き患へたまふ所由は」といふ。答へ言りたまはく、「我、兄と鉤を易へて、其の鉤を失ひつ。是に其の鉤を乞ふ。故多くの鉤を償へども、受けずて、云はく『猶其の本の鉤を得む』と云ふ。故、泣き患ふ」とのりたまふ。尓して塩椎神云はく、「我、汝命の為に、善き議作さむ」と云ふ。間无し勝間の小船を造り、其の船に載せて、教へて曰く、「我其の船を押し流さば、やや暫し往でませ。味し御路有らむ。其の道に乗り往でまさば、魚鱗の如く造れる宮室、其れ綿津見神の宮ぞ。其の神の御門に到りまさば、傍の井の上に湯津香木有らむ。故、其の木の上に坐さば、其の海神の女見、相議らむぞ」といふ。


現代語訳


 ここにその弟、泣き患い、海辺に居ます時に、塩椎神(しほつちのかみ)が来ました。問いていうことには、「どうして、虚空津日高(そらつひたか)が泣き患う理由は」といいました。答えておっしゃることには、「我は、兄と鉤を交換して、その鉤を失ってしまった。その鉤を求めている。故に多くの鉤を償ったのだが、受け取ってもらえず、いうことには、『なおそのもとの鉤が欲しい』という。故に、泣き患っているのだ」とおっしゃられました。尓して、塩椎神がいうことには、「我が、汝の命のために、善き議(はかりごと)を作りましょう」と言いました。間无勝間(まなしかつま)の小船を造り、その船に載せて、教えていうことには、「我がその船を押し流したら、やや暫(しば)し、往ってください。味し御路(みち)が有ります。その道に乗って往けば、魚鱗(いろこ)の如く造れる宮室があります、それ綿津見神(わたつみのかみ)の宮です。その神の御門に到りましたら、傍の井の上に湯津香木(ゆつかつら)が有ります。故に、その木の上にいらっしゃったなら、その海神の女(むすめ)が見て、相議(あいはか)りましょう」といいました。



・虚空津日高(そらつひたか)
「虚空(そら)」は天と地の間のこととされる。「虚空津日高」はその太子を指すとする説がある)
・間无勝間(まなしかつま)
隙間がないほど、密に編んだ竹籠
・御路(みち)
御路は漢語で天子行幸の道をいう
・魚鱗(いろこ)
魚のうろこ
・湯津香木(ゆつかつら)
清浄な桂の木。神聖で、神が降臨すると考えられる桂の木


現代語訳(ゆる~っと訳)


 ここに、その弟・火遠理命が、泣き憂いて、海辺にいらっしゃった時に、塩椎神がやって来ました。

問いかけて、「どうして、虚空津日高は泣き憂いているのですか?」といいました。

答えて、「私は、兄と釣針を交換して、その釣針をなくしてしまった。兄がその釣針を返せというので、多くの釣針を弁償したのだが、受け取ってもらえず、『元の釣針を返せ』と言っている。こういうわけで、泣き憂いているのだ」とおっしゃられました。

すると、塩椎神が、「私が、あなたのために、良い案を出しましょう」と言いました。

塩椎神は、隙間がないほど、密に編んだ竹籠の小船を造り、その船に火遠理命を載せて、教えて、「私がその船を押し流したら、しばらく、そのまま進んでください。

あなたのための善き道があるでしょう。その道に乗って行けば、魚のうろこのようにびっしりと並ぶ宮殿があります。それは綿津見神の宮殿です。

その神の御門に到着しましたら、近くの井のほとりに清浄な桂の木があります。

そうしましたら、その木の上においでになられたら、その海神の娘がお姿を見つけ、良いようにはからうことでしょう」といいました。



続きます。

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