古事記 上つ巻 現代語訳 三十二
古事記 上つ巻
八十神の怒り
書き下し文
故尓して八十神怒り、大穴牟遅神を殺さむと欲ひ共に議りて、伯伎国の手間の山本に至りて云はく、「赤猪此の山に在り、故和礼共に追ひ下ろさば、汝待ち取れ。若し待ち取らずは、必ず汝を殺さむ」と云ひて、火を以ち猪に似れる大石を焼きて、転ばし落とす。尓して追ひ下すを取る時に、其の石に焼き著かえて死ぬ。尓して其の御祖の命、哭き患へて、天に参上り、神産巣日之命に請す時に、𧏛貝比売と蛤貝比売を遣はし、作り活けしめたまふ。尓して𧏛貝比売、岐佐宜集めて、蛤貝比売、待ち承けて、母の乳汁を塗れば、麗しき壮夫に成りて、出で遊び行く。
現代語訳
しかして、八十神(やそがみ)は怒り、大穴牟遅神(おおあなむぢのかみ)を殺そうと思い、共にはかって、伯耆国(ほうきのくに)の手間(てま)の山本に到って、「赤い猪が、ここの山にいる。こういうわけで、われらが共に追って下ろしたなら、お前が待ち取れ。もし待ち捕らえないなら、必ずお前を殺す」といい、火をもち、猪に似た大石を焼いて、転がし落としました。しかして、追ひ下り、取る時に、その石に焼きつかれて死にました。しかして、その御祖(みおや)の命(みこと)は、哭き憂いて、天に参上り、神産巣日之命(かむむすひのかみ)に請うた時に、𧏛貝比売(きさがいひめ)と蛤貝比売(うむがいひめ)を遣わし、作り活かしました。しかして、𧏛貝比売は、岐佐宜(ささげ)集めて、蛤貝比売は、待ち承けて、母の乳汁を塗れば、麗しき壮夫(をとこ)に成って、出で遊びあるきました。
・伯耆国(ほうきのくに)
かつて日本の地方行政区分だった令制国の一つ。山陰道に属する
・山本
現在の鳥取県西伯郡南部町会見
現代語訳(ゆる~っと訳)
こういうわけで、八十神は怒り、
大穴牟遅神を殺そうと思い、
共に相談しました。
そして、大穴牟遅神を連れて、
ほうきのくにの手間の山本に到着すると、
「赤い猪が、ここの山にいる。
そこで、
われらが共に追って猪を下ろそう。
そうしたら、
お前が猪を待ち受け捕らえろ。
もし待ち受け捕らえないなら、
必ずやお前を殺す」
といいました。
そして、八十神は、
火をもち、猪に似た大石を焼いて、
転がし落としました。
そうして、
追い落とされた石を、
捕らえる時に、
大穴牟遅神は、
その石に焼かれて死んでしまいました。
このことで、
母親の命(みこと)は、
嘆き憂いて、
天に参上し、
神産巣日之命に救いを請いました。
その時、
復活させるように仰せになられました。
そこで、
𧏛貝比売は、
貝殻を削り粉末を集め、
蛤貝比売が、
それを待ち受けて、
母の乳汁ようにして練り合わせ、
塗ったところ、
大穴牟遅神は、
麗しき男性となって、
出て行かれました。
続きます。
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