自分にとってはこれほど感情移入の難しい争いも珍しい。どちらにも共鳴できる「志」がないからだろう。ただ、それだからこそ理非のみに絞って考えたいという気持ちが起こる出来事でもある。
で、ボクの見解だが、つまるところフジサンケイに理はない、である。
ライブドアの時間外取引が問題視されているが、この取引手法は、そもそも「残された穴」ではなく「作られた穴」であると言われている。即ち、これは株式市場におけるVIP(一部機関投資家や大企業)のために故意にあけられた穴であって、これまでも多くの見えない取引が、ここで行われてきたのだ。そうして既得権益を積み上げてきた者たちから見て「自分たちの知らない人」(byナベツネ)がこの制度を公使しようとしたときに、その「脱法性」なるものがあげつらわれるに至ったわけである。この時間外取引は「取引相手との事前の合意」などが存在しないことが前提とされており、今回もそうした部分がクローズアップされているが、当然ながら物証はなく、それはこれまでVIPたちが行ってきたこの種の取引においても同様だったであろうことは容易に想像できる。
このように考えていくと、フジサンケイによる一連の企業防衛策は到底正当なものとは言い難く、その目的が自らの経営権維持のみにおかれていることは明らかなのだ。
もう一つ言っておくと、現経営体制の維持そのものが企業価値の維持だなどというのは詭弁の名にも値しない妄言だ。公開企業の責務である株主との対話や説明責任をも果たさずしてこうした自己肯定を臆面もなく主張するメンタリティの持ち主がメディア企業を率いることの方がよほど恐ろしいではないか。
フジサンケイに限った話ではないが、先般報じられた、メディア集中排除原則に基づく株式保有規制違反が、それらが明白な違法行為であるにもかかわらず「現状とのかい離」などという暴論を押し立てて、あいまいなままに収束させられてしまったことに、現在のメディアのありようが端的に示されていると感じずにはいられない。メディア自身がもつ不当性や既得権の姿は、メディアを通じては見えてこないのだ。
フジテレビによるニッポン放送株のTOBが成功したことが報じられたが、このことは他の株主企業の多くがTOBに応じたことを示している。これもまた既存の権益を守ることが利益であり価値であるという、この国に根強く残る体制を浮き彫りにしたと言えるだろう。生まれ変わりへの道は、未だ長く、険しい。
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