サスペンス?ミステリ?って思ったら…
ストーリー:
真夏の夜、寝床を捜して深夜の街を彷徨っていた啓太は、杉浦充という男と出会いセックスを条件に部屋に泊めてもらう。男と寝たい訳ではなかったが、啓太は自分のアパートに帰りたくなかった。大きな冷凍庫が唸る部屋で、独り夢を見たくなかったからだ。悪夢を抱えていた啓太にとって、泊めてくれる杉浦は都合のいい相手だった。しかし、杉浦の一途な想いに心が揺れるようになり…。
啓太の部屋にある大きな冷凍庫には、自分が殺した恋人の死体が。そのことで悪夢にうなされる毎日だが、杉浦という男と出会ってから変わり始める。あらすじと、最初のあたりを読んでいるところでは、サスペンス色の強いストーリーなのかなって思っていたんだけど、だんだん別の方向に。そうか、そういうことか。
この本が出たのは13年前。その頃に比べたら理解が進んでいるであろうディスクレシア。なので、なんでそんなに皆理解が無いんだ?って一瞬疑問だったけど、理解が無いんじゃなくて知らなかったんだな。無知というのは時に人を傷付けるもんだとは言うけど、まさしくそう。ディスクレシアの障害と超完璧主義な父親のせいで不幸な子供時代を過ごし、でも一途に人を想う杉浦充。彼と過ごすことで悪夢から逃れられるようになった啓太と運命的に出会って、共に時間を過ごす中で、2人の抱える闇が少しずつ明るく開けていく過程が丁寧に、濃密に描かれていた。
本編の後に収録されている2話は、杉浦の従兄弟目線、弟目線からそれぞれ過去と本編後の2人について描かれていて、それもすごく良かった。みんな幸せになってほしいよね。。。
完璧な人間なんてこの世にはいなくて、誰もが弱い部分を持ちながらそれを必死に隠したり克服しようと努力している。または諦めて自暴自棄になったり。無知や思いやりのなさで気づかないうちに大事な物や人を傷つけて生きているかもしれない。そういうあまり目を向けたくない人間臭い何かを突きつけられているようなそんな本。