太平洋戦争時、
八重山諸島にいた民間人が
ばたばたとマラリアに倒れたことは
悲惨な事実として記されている。
薬の行きわたらなかった民間人は
フーチバー(ヨモギの現地語)を燻(いぶ)して蚊遣りにしたり、
そのしぼり汁を飲むしかなかった。
時が下って
1972年に中国の研究者の屠呦呦(とゆうゆう)により
オウカコウ(黄花蒿)という、ヨモギの一種から
マラリアの特効成分アルテミシニンが発見されると
マラリア患者は激減した。
2015年にその功績が認められ
大村智さんらと同時にノーベル賞を受賞したことは記憶に新しい。
屠氏は研究の過程で
中国古来の民間療法や生薬材料を参考にしたらしいが
ヨモギが蚊よけになるのはなにも中国だけでなく、
トルコあたりでも同様らしい。
もっと広義に『虫よけ」と考えれば
日本の薬玉の風習もヨモギの薬効があってこそだろうし、
ヨモギの古英語mucgwyrtは
ずばり「小虫の草」という意味である。
このように有用なヨモギであるが、
この時期に咲かせる地味ーなお花が花粉症の原因になったりもして
なかなかに悩ましい性格ももっている、
一筋縄ではいかない植物なのである。
☆生薬覚え書き
艾葉(がいよう)
ヨモギの葉の生薬名。
ヨモギを表す漢字もさまざまで
オウカコウの「蒿(こう)」は中国で植物名に付くヨモギの意味で、
「艾(がい)」はもぐさのヨモギ、「蓬」は日本で使われるヨモギの字。
中国人はオウカコウと呼ぶより青蒿(せいこう)とよぶようである。
お読みいただき、ありがとうございました。
ちなみに屠呦呦の名をとった詩経の一節
「呦呦鹿鳴、食野之苹」の中にある「苹」も
浮草やあしの他によもぎ、という意味があるらしいので、オドロキです。
名は体を表す、ではないですが、ヨモギと切れない人生の方なのですね。