残業代ゼロ法案を強行採決すれば、安倍晋三首相が目指す憲法改正は絶望ーー。こんな見方も浮上してきた。電通の過労死事件以降、企業のトップはどこもかしこも”厚労省のGメン”を何よりも恐れている。なぜなら、過労死事件で電通の社長のクビが飛んで以降、弱小省庁で企業幹部からは見向きもされなかった旧労働省のGメンたちが「企業の社長のクビを飛ばせる」としゃかりきになって企業の従業員の出勤簿を調べあげているからだ。旧労働省の面々は将来は当局による制裁の”用心棒”としてちゃっかり天下り先の確保を、なんて下心も見え隠れする。

(残業代ゼロ法案も強行採決を目指すのか)
それはともかく、旧労働省による攻勢によって企業の現場では何が起きているのか。昨年暮れ以降、社長のプライオリティーがまず「労働Gメンに自分が刺されないこと」になり、部下に厳令。それまで仕事の成果を声高に叫んでいた部長たちも末端の部下に「残業を減らせ」と厳命するようになっている。これまでさっさと帰って仕事の成果も疑問視されていた部下を部長が手のひらを返したように「あいつは手本だ」と褒め始めた。もちろん部長があからさまにサービス残業を推奨することは法律違反なので、実際は現場のリーダーあたりに「部長の口からは言えないから俺が言う(どこかで聞いたような台詞)」と言わせる。この結果、残業も多かったが仕事ができた現場の人たちは自主的に残業時間の返上を強いられているのが実情だ。仕事ができる人たちは、率先して会社(=部長)の意を”忖度”してしまうからだ。自主的にサービス残業を励行して出勤簿を書き換えているわけだが、部長もこれは見て見ぬふりをしている。とはいえ、人手不足で仕事量が減っているわけではないので、デキる人たちほどこれまでと同じ仕事をして残業代のみ減っているというのが実情で不満がマグマのように溜まっている。企業内組合は事実上の”経営側の代弁者”なので、会社の業績にもっとも貢献している現場の不満を吸い上げることもできていない。働き盛りの人たちの収入は減り、消費も減って、これではアベノミクスの成功どころか大失敗だろう。
実際、残業時間を上司の指示で過少申告しているというデータは、連合総合生活開発研究所のアンケートで明らかになっている。昨年以降、労働者の自主的なサービス残業で残業代(収入)が減っているわけだ。
日経)残業時間の過少申告は7% 9月「上司の指示」20% (2017/11/1 10:01)
加えて、大和総研によれば、政府が検討する残業時間の上限規制が実施されると、市民の所得が8兆5000億円、所得全体の3%が減る見込みという。月に残業代込みで30万円もらっている人がいれば毎月、9000円減るわけで、これでは同僚と仕事帰りに軽く飲みに行くこともできなくなり、本音で話し合う機会も減り、飲食店も大打撃だ。
時事通信)残業規制で所得8.5兆円減=生産性向上が不可欠-大和総研試算(2017/08/21-15:59)
日経)残業規制で所得8.5兆円減、生産性向上が不可欠 大和総研試算 (2017/8/28 21:02)
↓原典はこれのようだ
大和総研)日本経済見通し:2017年8月(経済成長の牽引役は外需から内需へ
このサイトの下記のPDFを開くと、8ページ目に「「働き方改革」により所定外給与が最大 8.5 兆円減少」とある。全体は日本経済の話だが、肝心の分析は中の一部にとどめている。さすがにこのテーマを主テーマにしてしまっては政権批判と受け止められると忖度したか。しかし、この部分が鋭く、面白いので各報道機関がそこだけをこぞって報じたようだ。
「日本経済見通し:2017年8月 [PDF:613.6KB]」
分析は小林俊介氏というエコノミストで、経歴を見ると東京大学を卒業後10年の気鋭の若手のようだ。大和総研の人事制度はわからないし、ここからは当ブログ筆者の勝手な想像の域を出ないが、小林氏はエコノミストという専門職とはいえ、日本企業だからまだ社員だろう。だとすれば、昨年来の経営陣の自主的な残業時間の削減要請を忖度し、サービス残業でタダ働きしている一人かもしれない。今回のような他のエコノミストが誰もやっていないような意欲的な分析で残業しても金銭面では報われないわけだ。もちろん、こうした人たちはクリエイティブな分析で世に意見を問えるといった、普通の労働者とは異なるインセンティブもあるだろう。だから、今回の分析が「自分の残業代が減ったというサラリーマンの実感を元にしているのではないか」とさもしい詮索をするのは、志の低い、次元の低い話であり、大変失礼だと思う。ただ、そうでなかったとしても、勤め人の実態や本音を想像してマクロ経済全体の具体的な「損失」として試算してみせた想像力は感服に値する。
残業代ゼロ法案と合わせて、残業規制法案を含めた働き方改革を拙速に進めると、ただでさえ不満が鬱積している働き盛りの若い層が安倍政権を見放すのは必至だ。
立憲民主党・枝野幸男代表は
枝野代表「残業代ゼロ法案なんておかしいですよ。働いたら働いた分給料を払ってもらおうじゃないですか。当たり前のことじゃないですか。」#関西東海大作戦1015
と訴えて、結党からわずか半月の政党を55議席もの第二党に躍進させた。
残業代ゼロ法案は、はじめは批判の受けにくい高給取りを対象にして、なし崩し的に一般社員に広がって行くと見られている。
NEWSポストセブン)残業代ゼロ構想「39歳で年収203万円が削られる」との試算も(2014.08.19 07:00)
また、残業規制は若い頃に猛烈に働き、オン・ザ・ジョブで仕事を覚えていくという若者のスキルアップを奪うと倉重弁護士は警鐘を鳴らす。筆者の倉重弁護士も一人前の弁護士になるために、若い頃は寝食を惜しんで働いた経験があるのではないか。日本の人事制度は若い頃は基本給が低いので、残業代は総収入を増やす唯一の方法でもあり、いっぱい働いてたくさんの収入を得たいというのは、若者たちの当然の動機だ。
東洋経済)「残業規制はむしろ迷惑」と考える人々の事情ースキルアップできず割を食うのは若者たちだー弁護士・倉重公太朗氏(2017年05月17日)
安倍首相の1丁目1番地が憲法改正なら、人気急上昇の立憲民主党から格好の攻撃材料を与える残業代ゼロ法案や残業規制法案の審議は後回しにした方がよさそうだ。

(残業代ゼロ法案も強行採決を目指すのか)
それはともかく、旧労働省による攻勢によって企業の現場では何が起きているのか。昨年暮れ以降、社長のプライオリティーがまず「労働Gメンに自分が刺されないこと」になり、部下に厳令。それまで仕事の成果を声高に叫んでいた部長たちも末端の部下に「残業を減らせ」と厳命するようになっている。これまでさっさと帰って仕事の成果も疑問視されていた部下を部長が手のひらを返したように「あいつは手本だ」と褒め始めた。もちろん部長があからさまにサービス残業を推奨することは法律違反なので、実際は現場のリーダーあたりに「部長の口からは言えないから俺が言う(どこかで聞いたような台詞)」と言わせる。この結果、残業も多かったが仕事ができた現場の人たちは自主的に残業時間の返上を強いられているのが実情だ。仕事ができる人たちは、率先して会社(=部長)の意を”忖度”してしまうからだ。自主的にサービス残業を励行して出勤簿を書き換えているわけだが、部長もこれは見て見ぬふりをしている。とはいえ、人手不足で仕事量が減っているわけではないので、デキる人たちほどこれまでと同じ仕事をして残業代のみ減っているというのが実情で不満がマグマのように溜まっている。企業内組合は事実上の”経営側の代弁者”なので、会社の業績にもっとも貢献している現場の不満を吸い上げることもできていない。働き盛りの人たちの収入は減り、消費も減って、これではアベノミクスの成功どころか大失敗だろう。
実際、残業時間を上司の指示で過少申告しているというデータは、連合総合生活開発研究所のアンケートで明らかになっている。昨年以降、労働者の自主的なサービス残業で残業代(収入)が減っているわけだ。
日経)残業時間の過少申告は7% 9月「上司の指示」20% (2017/11/1 10:01)
加えて、大和総研によれば、政府が検討する残業時間の上限規制が実施されると、市民の所得が8兆5000億円、所得全体の3%が減る見込みという。月に残業代込みで30万円もらっている人がいれば毎月、9000円減るわけで、これでは同僚と仕事帰りに軽く飲みに行くこともできなくなり、本音で話し合う機会も減り、飲食店も大打撃だ。
時事通信)残業規制で所得8.5兆円減=生産性向上が不可欠-大和総研試算(2017/08/21-15:59)
日経)残業規制で所得8.5兆円減、生産性向上が不可欠 大和総研試算 (2017/8/28 21:02)
↓原典はこれのようだ
大和総研)日本経済見通し:2017年8月(経済成長の牽引役は外需から内需へ
このサイトの下記のPDFを開くと、8ページ目に「「働き方改革」により所定外給与が最大 8.5 兆円減少」とある。全体は日本経済の話だが、肝心の分析は中の一部にとどめている。さすがにこのテーマを主テーマにしてしまっては政権批判と受け止められると忖度したか。しかし、この部分が鋭く、面白いので各報道機関がそこだけをこぞって報じたようだ。
「日本経済見通し:2017年8月 [PDF:613.6KB]」
分析は小林俊介氏というエコノミストで、経歴を見ると東京大学を卒業後10年の気鋭の若手のようだ。大和総研の人事制度はわからないし、ここからは当ブログ筆者の勝手な想像の域を出ないが、小林氏はエコノミストという専門職とはいえ、日本企業だからまだ社員だろう。だとすれば、昨年来の経営陣の自主的な残業時間の削減要請を忖度し、サービス残業でタダ働きしている一人かもしれない。今回のような他のエコノミストが誰もやっていないような意欲的な分析で残業しても金銭面では報われないわけだ。もちろん、こうした人たちはクリエイティブな分析で世に意見を問えるといった、普通の労働者とは異なるインセンティブもあるだろう。だから、今回の分析が「自分の残業代が減ったというサラリーマンの実感を元にしているのではないか」とさもしい詮索をするのは、志の低い、次元の低い話であり、大変失礼だと思う。ただ、そうでなかったとしても、勤め人の実態や本音を想像してマクロ経済全体の具体的な「損失」として試算してみせた想像力は感服に値する。
残業代ゼロ法案と合わせて、残業規制法案を含めた働き方改革を拙速に進めると、ただでさえ不満が鬱積している働き盛りの若い層が安倍政権を見放すのは必至だ。
立憲民主党・枝野幸男代表は
枝野代表「残業代ゼロ法案なんておかしいですよ。働いたら働いた分給料を払ってもらおうじゃないですか。当たり前のことじゃないですか。」#関西東海大作戦1015
と訴えて、結党からわずか半月の政党を55議席もの第二党に躍進させた。
残業代ゼロ法案は、はじめは批判の受けにくい高給取りを対象にして、なし崩し的に一般社員に広がって行くと見られている。
NEWSポストセブン)残業代ゼロ構想「39歳で年収203万円が削られる」との試算も(2014.08.19 07:00)
また、残業規制は若い頃に猛烈に働き、オン・ザ・ジョブで仕事を覚えていくという若者のスキルアップを奪うと倉重弁護士は警鐘を鳴らす。筆者の倉重弁護士も一人前の弁護士になるために、若い頃は寝食を惜しんで働いた経験があるのではないか。日本の人事制度は若い頃は基本給が低いので、残業代は総収入を増やす唯一の方法でもあり、いっぱい働いてたくさんの収入を得たいというのは、若者たちの当然の動機だ。
東洋経済)「残業規制はむしろ迷惑」と考える人々の事情ースキルアップできず割を食うのは若者たちだー弁護士・倉重公太朗氏(2017年05月17日)
安倍首相の1丁目1番地が憲法改正なら、人気急上昇の立憲民主党から格好の攻撃材料を与える残業代ゼロ法案や残業規制法案の審議は後回しにした方がよさそうだ。
ただ、働きすぎて自殺したり、そこまでいかなくても、心身が壊れていってしまう人たちを減らしたい…ということは理解したいです。
長い人生を考えると心身の健康は大切です。
ご指摘の通り、労働問題は明確な答えがない難しい問題ですが、働きすぎで自殺したり心身が壊れていってしまう人たちを減らしたいという思いに対しては全員の意見が一致していると思います。
労働行政に対して辛口な批評をしましたが、行政の現場の方は真に労働者の人権を守りたいという志に燃えて査察していただいているのだと考えています。
ただ、どうも法案の議論をみていると、国際競争にさらされる大企業が労働基準のゆるい(雇用する側に有利な)国と競争条件を近づけるために、残業時間の削減を美辞麗句に、その実は労働者の首切りや、タダ働きが法律で認められるようする方向に進んでいるようにしか見えないのです。
残業時間を月45時間を上限にしてしまうと、結局のところ、例えばこれまで月120時間という超長時間労働でもその分の残業代という金銭面が保障されることで休暇に海外のバカンスでリフレッシュできたりといったバランスが取れていた人も、今後は75時間分は家に持ち帰ったりして仕事をするなどのサービス残業でお金がもらえなくなるだけではないかと危惧しているわけです。
人手不足の中で同じ職場の人数を増やすことが難しい中で、残業を減らすことは、仕事の絶対量を減らす(=売り上げを減らす)覚悟がないと不可能だと思いますが、経営陣は売り上げは減らすつもりはさらさらないと思われるからです。
今特別国会で残業規制や残業代ゼロ法案が議論されることになれば、引き続き話題にしていこうと思います。