路地裏の歩き方

散歩ライター、増田剛己が散歩の裏技などを紹介。路地裏のちょっと怪しいところをのぞいてみましょう。

疾走する記憶たち

2008年08月14日 | Weblog
このところ、お金がないので、本はたいてい図書館で借りる。
最近は便利になって、本の検索なども家からインターネットでできる。
そのため新宿区になかったり、貸し出し中だったりすると、近隣の区の図書館も検索する。というわけで、先日も
千代田図書館に行って本を借りた。
で、帰ろうとすると後ろから
「まっさん」
と呼ぶ声が聞こえた。僕のことを〝まっさん〟と呼ぶ人は数少ない。
東京に出てきて数年後、僕が下関マグロになる間に知り合った人だ。
たとえば北尾トロがそうだが、声の主は北尾トロではない。
ふり返ったら、すぐにわかった。Sである。
何十年ぶりだろうか。Sはもともと3人ほどで小さな編集プロダクションをやっていた。それは知り合った頃というか、よく逢っていたころの話で、 20代から 30代のはじめ頃である。その後、風のたよりに彼の会社は50人だとか100人の社員を抱える大きな会社になっているということを聞いた。
久しぶりに会ったSは、相変わらずオシャレで、高そうなワイシャツをきちんと着ている。さすがに羽振りがいいんだなと思ったが、
今は社長業はしていないと言う。
倒産したかどうかわからないが、彼は苦笑いをしながら、
「いい夢を見させてもらったよ」
と言う。なんでもそれだけ大きな会社になったのはほんの一瞬で、
最後の2年間は資金繰りで大変だったそうだ。
それで今は小さな出版社で編集の仕事をやっていると言った。
しかし、時間というのはあっというまに経過するわけだが、
こうして昔の知り合いと会っていると、20代のころのことがよみがえる。
図書館でしばし立ち話をして別れた。

そのあと神保町まで歩き、
これまた久しぶりに「ボーイズカレー」を訪れた。
オールアバウトの記事のためだ。
こちらも二十数年ぶりだろうか。
「昔ね、よく来てたんですよ」
と、昔はボーイズだったろうお店の人に話しかけた。
しかし、昔のことはよく覚えていないなぁ。
よくきたのはたしかだが、何カレーを食べていたんだっけ。
とりあえず、チキンカレーにする。
ご飯の量が多いので減らしてもらった。
20代のころは必ず大盛を食べていたんだけどなぁ。
と、カレーを一口食べたら、わぁーーーと自分の中で、
ああ、この味だと、この店のことが少しよみがえってきた。
なんだか泣きそうになる。
近くの芳賀書店でビニ本を買って、ここに駆け込み、
急いでカレーを食べ、水道橋まで歩いた記憶がよみがえってきた。
早く家に帰ってビニ本が見たいから、あせって食べたあの記憶が、
鮮明によみがえってきたのだ。
ああゆう記憶っていうのはなんなんだろうか。
一瞬にして、あの頃に引き戻してくれる。