やや矢野屋の棚上げ棚卸し

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箸を持つ指先 〔古代守・真田志郎 訓練学校時代〕

2009年11月03日 15時24分00秒 | 二次創作小説
宇宙戦艦ヤマトの二次創作短編小説です。
二次創作を苦手となさる方はお読みにならないようにお願いいたします。
 「よ、ただいま。」
 古代守のこの挨拶には、もう真田も慣れてきてはいた。だが、「おかえり」と返すのはやはりそぐわない気がして、モニターに向かったまま曖昧に頷き返す。
「愛想が無いなあ、相変わらず。」
「お前が帰ってきたからって、いちいち愛想良くなんぞしていられるか。」
 遠慮のない物言いを受け止めてクスッと笑うと、守は真田の手元を覗き込んだ。
「なんだ、これ。隔壁か?」
 画面に映し出された図面を見て、首を捻る。
「技術科って、こんなの、学生の課題に出すのか?」
「いや、これは自主研究だ…一つ、思いついたアイデアがあったんで、この休みにまとめて提出しようと思ってな。」


 そう答える間にも、キーボードを叩く指は止まらない。新しく開いたウィンドウに表示された数値を見て、守がヒュウと口笛を吹く。
「すごいな、強度が15ポイント向上か。たいしたモンだ。」
「…所詮、小手先の技術に過ぎないんだがな。装甲全体の強度をもっと向上させないことには、連中の兵器には対抗できやしない。」
「天王星軌道の悪夢、か?」
 眉間の溝を深くした真田の横顔に、守は声のトーンを落とす。
「穴の開いた宇宙船じゃ、隔壁を閉じたところで生存率はたかが知れてる。連中はどうやら太陽系内に基地を建設し始めたらしい…本格的な艦隊戦に突入するまでに、なんとか艦体強度の向上を図らないと、いたずらに犠牲を出すばかりだ……」
 額に浮いた汗を見ながら、守もまた眉を曇らせた。が、明るく声を張りながら、真田の肩をポンと叩く。
「安心しろ、そのころには俺も宇宙に出て、奴らに目にもの見せてやるさ。」
 威勢のいい言葉に、真田も視線を向けて口の端を僅かに上げて笑ってみせる。
「でも、どうせならお前の設計した艦に乗りたいよな。早いとこ出世してバンバン艦を作ってくれよ。」
 ふざけた口調の中に、守は切実な望みを潜ませた。
 真田の設計思想が犠牲者を最小限に留めたいとの想いに貫かれていることを、訓練学校での生活を共にしていく中で、守は理解していった。全体の作戦行動を成功させるために、否応なく切り捨てられるものがある―――戦いに身を投じる者ならば、動かしがたい事実として受け入れなければならないと思っていたが、真田はあくまでそれに抗おうとする。こういう男の手になる艦ならば、命を預けるに足るというものだ。


 「そんなに調子よく行きゃあいいんだがな。」
 苦笑いを含んだ真田の声に、痛いほどの緊張がフッと緩んでいるのがわかった。
「ま、根を詰めるのはそれくらいにして、ちょっと休憩しないか?どうせ、何時間もぶっ通しでモニター睨んでたんだろ。」
 守は手に持った包みをテーブルに置いた。
「俺は巻き寿司を提供するから、お前は吸い物作ってくれよ。汁の実は乾物でいいぞ。」
 真田はあきれて守を見やる。
「バカ言うな、お前が提供するったって、作ったのはお袋さんだろうが。図々しいヤツだな。」
 それでも真田は腰を上げて、備え付けの簡易キッチンへ向かい、小さな棚と冷蔵庫を覗き込む。
「わかったわかった、茶も入れるよ。それならいいだろ?」
 わざとらしい溜息をつきながら削り鰹と乾燥ワカメの袋を取り出す真田に、守はもう一つだけ譲歩したと言わんばかりの大げさな身振りで並んでキッチンに立つと、棚から食器を取り出した。


 きちんと出汁をとった澄まし汁の香りを楽しみながら、二人は守の母の心づくしを平らげていく。
「かんぴょうも、ちゃんとお袋が煮含めたんだ。玉子焼きの味も、そんじょそこらのヤツとは全然違うだろ?」
 自分の手柄のように自慢する守に、真田の苦笑も次第に晴れやかなものに変わっていく。
「何度も聞いたぞ、それは。しかし、確かに美味いな。ご相伴に与れるのは有り難いよ。」
「ああ、お前の吸い物もたいしたもんだ。それにしても、なんで料理なんか得意なんだ?」
 守は何の屈託もなく尋ねてくる。相手が守でなかったら、興味本位の好奇心を疑って容易には答えないところだろうが、そんな心理の壁など、この男の前では霧消してしまう。
「……月で、義肢装着手術を受けた後、な。地球でリハビリを受けたんだが、担当の外科医が専門家を紹介してくれたんだ。」
「ああ、あの先生か?」
 共に受けた月面訓練での出来事を思い出したのだろう、守の顔が引き締まる。
「コー先生は、俺のことを心から心配してくれていた。思い詰める質だったのも、よくわかってたんだろうな。そのリハビリ専門家ってのが、生活関連の動作訓練をやってる人だったんだよ。」
「それで、料理を仕込まれたって訳か?」
「まあな。」


 器用に箸を動かす指先は、確かに一見して人工物のようには思えない。
「なるほどな。お前の手先って、ほとんど生身と変わらない動きをしてるもんな。いったい、どんな厳しい訓練を積んできたのかと思っていたよ。」
「厳しかったぞ、あれは。質感の全く違う材料を捌いていくだけでもえらい苦労だったな。」
 真田は僅かに頬を緩めた。ここまで遠慮無く真田に手足のことを聞いてくる者は他にいないが、それをごく自然に受け止めさせるおおらかさを、守は持っている。この男の前でなら、真田は何一つ構える必要がない。 
「五十絡みの女性だったんだが、片づけの手順にまで気を配るように仕込まれた。でもな、そういう段取りを考えるのも、今思うといい経験だった。」


 義肢の性能は、運動性能だけなら生身の身体とほぼ変わらない。人間の手足ができることなら、そのほとんどが可能になっている。問題は、それをコントロールする神経をいかに適応させるかということだ。
 最初のうちは、本当にこんなことで適応訓練になるのか、戸惑いと焦りを覚えたが、実際にやってみると確かに合理的な訓練だった。常に次の動作のプランを立てながら、細心の注意でデリケートな食材や器具を取り扱う。調理をスムーズに行うことができれば、他の動作は苦もなくこなせたのだ。
(なにより、人間にとって最も基本的なことは何なのか、見失わずに済んだのは有り難かったな)
 どんな大事業も、崇高な理想も、ささやかな日々の営みの上に成り立っている。それに、生き物は他の生命をその身のうちに取り込むことでしか命を繋いでいけない。そうしたことを、知らず知らずに学んでいけるように。コー医師の配慮には、きっとそのような意味も込められていたに違いない。目的以外のことを視界から追い出してしまいがちな真田にとって、実はそれが一番大きな教育効果を上げていたのかもしれなかった。


 「おかげで、俺も美味いものが食えるしな。」
 そう言って、守は次の寿司へと箸を伸ばす。
「おい、そんなに食べると夕飯が入らなくなるんじゃないか?」
「大丈夫、食事の前に腹ごなしのランニングしてくる。」
 呆れ顔の真田に、守は片目をつぶって答えると、椀を持ち上げて美味そうに吸い物を飲み干した。 








【あとがき】

タイトルは「パーツフェチへ15題」という配布お題からいただきました。
月での出来事とか、いろいろと説明不足のところもありますが、ふたりの間にある雰囲気を表現してみたかったので、敢えてそのままにしてあります。
いや、表現スキルがないんだということは重々承知しておりますが(汗)
訓練学校の寮に簡易キッチンがあるというのも勝手すぎる設定ですねスミマセン(大汗)
というところで言い訳終了ーーーー。



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