■ 2023.2.11 オンライン開催
一昨年、昨年に続いてオンラインでの開催です。今年も数百人規模の参加があったようです。今回は(蝶が沢山いた)過去の記録と(身近な蝶のモニタリングとしての)現在の記録に関して発表がなされました。大変興味深く聞かせていただきました。
■ 前半:古き良き時代のチョウと自然 〜取り戻すべき自然環境を知ろう〜
①「あのチョウもこのチョウも全部そこにいた〜木曽谷に草原が広がっていた時代〜」葛谷氏(昆虫愛好会)
1950~1960年代、長野で観察・採集された蝶に関する講演。例えば1960年の7月25日には47種類観察できたなど、当時は1日で50種類前後観察できることがざらにあった。特に種が多かったのは乾性草原で、チャマダラセセリ、ミヤマチャバネセセリ、スジグロチャバネセセリ、ホシチャバネセセリ、クロシジミ、ミドリシジミ、オオウラギンヒョウモン、コヒョウモンモドキなどが見られた。コヒョウモンモドキはどこにでもいた感じであった。オオウラギンヒョウモンは1965年まで観察できた。その場所の現在の様子をGoogleMapなどで見ると、草原はほとんど残っておらず森林になっている。草原の維持には人間活動(伐採、火入れ、萱の利用、農耕、牧畜)が必要であり、その減少に応じて草原そのものが減り、草原性の蝶が減っていると考えている。
オオウラギンヒョウモン 2016.7.1 山口県 (当方の未公開在庫写真から参考掲載)
当時は日本全国に分布していたが、現在では本州の西の端の方(あとは九州)に行かないと会えなくなってしまっています。
②「東北地方には見渡す限りの大草原があった〜絶滅危惧種オオルリシジミが乱舞した時代〜」室谷氏(青森昆虫研究会)
1950~1960年代、青森市周辺で観察できた蝶のお話。現青森空港の辺りはとても良い草原で、ゴマシジミ、オオウラギンヒョウモン、ヒメシロチョウが無数にいた。またそこではオオルリシジミやチャマダラセセリが安定発生していた。が、青森空港建設(1962年~)以降周辺の開発が進み草原が減少。また、農業に必要な動力が馬や牛から車やトラクターになったことで草原の必要性自体が減って維持されなくなった結果、森林化も進んでしまった(当時周辺に数万頭の農耕馬がいてその餌として草原の維持が必要であった)。
オオルリシジミ 2022.5.22 長野県 (当方の未公開在庫写真から参考掲載)
長野県では野生絶滅という話もありますが、安曇野の自然公園では安定して見ることができます。この写真もそこでの撮影です。阿蘇の方では自然発生していると聞いているので一度行ってみたいと思っています。
③「原付バイクで里山のチョウを追いかけた時代〜櫛の刃が欠けるように姿を消してゆく野生生物〜」末宗氏(倉敷昆虫同好会)
岡山県の美作市、1970年代の少年時代はゲンゴロウ、オオクワガタ、タガメ、ミヤマカラスアゲハなどが普通に見られた。が、ゲンゴロウは1984年以降確認できていない。その他の昆虫は1990年くらいから目立って減っているように感じている。このころから農薬としてネオニコチノイドの利用が始まっている。氏の趣味で行っているニホンミツバチの飼育でもドローン散布の翌日など大きな被害が出ている。一方で鉄道の高架の下などのちょっとした用水路など比較的管理が行き届いている場所では自然が回復している場所もある。このことから、少しでもよいから「更新」できる場所、植生を復元できるエリアを人為的につくれれば良いと思っている。
ミヤマカラスアゲハ 2018.7.22 山梨県 (当方の未公開在庫写真から参考掲載)
本種はまだ比較的各地で見られますね。北海道の春型が超絶きれいなので一度撮ってみたいと思っています。
■ 後半:日本チョウ類保全協会の活動から
・チョウのモニタリングプロジェクトに参加して
ここでは2022年から始めたトランセクト調査を実施している35ヵ所の担当者のうち2名の方から調査の様子の発表がありました。1名は秦野市で52種類を観測、もう1名は都心の目黒区で17種を観察されていました。私も参加しているプロジェクトということもあり興味深く聞かせていただきました。イギリスでは3000人規模が参加しているトランセクト調査ですが、日本ではまだこの規模であり、活動の輪を広げていく必要があると感じております。少しでも興味のある方の参加を切に希望します。※私に聞いていただければもう少し詳しく説明できますので、コメント欄等で話しかけていただければと思います。
・その他の活動
ヒメチャマダラセセリ、ツシマウラボシシジミ、ヒョウモンモドキ、チャマダラセセリといった毎年報告のある種に関して最新状況をご報告いただけました。ヒメチャマダラセセリは活動の甲斐があって増加傾向、一方、ツシマウラボシシジミは増加傾向から一転減少しているとのこと。これは大型台風の影響とのことで、今後の対策が鹿の食害以外にもあることを示唆しています。また、ヒョウモンモドキも野生個体の減少が気になるところとのことでした。こちらは、周辺の森林の質まで考慮した保全を検討していく必要がありそうです。最後に、岩手のチャマダラセセリは努力の甲斐なく激減していて、人為的にできることの限界かもしれないという悲しい結果でした(草原の環境自体はいい感じで回復しているのでなおさら残念です)。
■ 感想:前半の大先輩のお話は、(事実としては知っていましたが)実際にオオウラギンヒョウモンが長野や青森に普通にいたという話で、インパクト大でした。また、後半の調査関連は自分でもできるところからやっていけるとよいなと思いました。
関連ブログ
・過去の同会のレポは:第18回チョウ類の保全を考える集い、
第17回チョウ類の保全を考える集い、第16回チョウ類の保全を考える集い、
第14回チョウ類の保全を考える集い
・私のトランセクト調査結果は:2022トランセクト調査まとめ
・その他イベント系レポ:企画展:チョウが消えていく(2018)、
企画展:チョウが消えていく(2017)、昆虫大学、小笠原保全講演会
関連リンク
・本イベントの主催団体HP:日本チョウ類保全協会