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なかなか勝てない馬がいる。今日もその馬が走る。
がんばれ、と声が出る。
まなざしは、ゴールの先を見つめている。

水越武写真集 日本の原生林

2021年05月15日 15時52分31秒 | 読書・文学
ドイツ、イギリス、フランスの北半分はナラ(オーク)とブナの林であり、アメリカのニューイングランド、東部カナダはブナとサトウカエデの林である。

縄文時代にはブナ林地帯は日本のいちばん発達した文化地域であった。
東北地方の縄文土器のデザインのすばらしさ、その量の多いことはこのことを証明しており、しかもその古さは世界史的にも一番ともいえるほどのものだ。しかし弥生時代以後は、ブナ帯はおくれた山村、農村にながく留まった。ブナの木は文化とは結びつかなかったのである。

ヨーロッパのブナ帯は近代文明誕生の地である。
それで、たとえば「book」の語源はブナである。
現代ドイツ語ではブナは「buche」で本は「bush」。

ブナの実の形と大きさはソバに似ており、ヨーロッパでもアメリカでも、中国中南部でも、ブナの実をあつめて油を絞ったり、食用にしてきた。ソバの英語名が「Fagus」は食べるの意である。しかしどこでもブナの実は基本食にならなかった。

日本の森林限界付近の秋は、ダケカンバの黄、ナナカマドのみごとな紅葉で飾られる。それまで親木の一部として働いてきた葉のなかの細胞は、親からの仕送りが途絶え、死ぬ直前の苦しみの表現が赤や黄への葉の変色だともいえよう。人間の目から見て美しい秋の彩は、生きた細胞が苦しみ死んでいくドラマである。美しいが悲しい生命の宿命であろう。


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