国土の6割を覆う森林、豊富な海洋資源、恵まれた水と温泉―我々がこうした自然の恩恵に与れるのは、日本が類まれな「危険地帯」にあるからだ。4枚のプレートがせめぎ合い、全地球で2割の地震と8%の火山が集中し、今も活動をし続ける列島。気鋭のマグマ学者が、地球誕生までさかのぼりその仕組みを説明し、明日起きてもおかしくない大災害を警告する
第1章 日本列島からの恩恵と試練(美味なる魚と酒
実は資源大国日本
温泉・地熱大国日本
火山大国日本
地震大国日本)
第2章 日本列島の変動とプレートの沈み込み(プレート運動は回転運動
プレートの底と「モホ面」
プレート運動の原動力
プレートの沈み込み様式
なぜ地震と津波は起こるのか?
なぜ火山は噴火するのか?
なぜ日本列島はこの形をしているのか?)
第3章 なぜ地球にはプレートテクトニクスがあるのか?(惑星地球の誕生と進化
地球内部の構造と温度
マントルは対流する
マントル対流とプレートテクトニクス
なぜ地球だけに海が存在するのか?)
第4章 日本列島に暮らすということ(地震は予知できるのか?
火山の噴火は予知できるのか?
焦眉の急、日本列島を襲う巨大噴火
日本神話と列島の変動
新しい自然観の創出)
太平洋プレート:80mm / 年
伊豆・小笠原・マリアナ海溝に向かって60mm / 年
フィリピン海プレート 45mm / 年
ユーラシアプレート 10mm / 年
こんな降灰が現代の東京を襲ったら・・・毛骨悚然(もうこつ-しょうぜん)たる思いである。
ж 非常に恐れおののく形容。髪の毛や骨の中にまで、ひどく恐れを感じるということ。
▽「悚」は恐れる、ぞっとすること。「悚然」はこわがるさま
さて、沈み込むプレートやその上のマントル物資を高温高圧実験等で解析すると、プレート近傍からは、おおよそ110キロと170キロの深さで水が吐きだされることが解る。
この二つの深さには大きな意味があると推察する。
東北日本を始め、多くの沈み込み帯ではこれらの深さに達した真上に火山帯が形成されているのである。例えば那須火山帯と鳥海火山帯直下のプレート表面までの深さは先の値である。
ここで放出された水がそのへんのマントル物資の融点を下げて、部分溶解が起こる、つまりマグマが発生するのである。沈み込むプレートの表面付近には、2列の部分溶解帯が形成される。
マグマの誕生というと、なにかの原因で温度が上昇すると思いがちであるが、少なくとも日本列島の如き沈み込み帯ではそうではなく、プレートが運び込む水が主役を演じているのである。
そしてその反応はある深さになると、規則正しく起こる「圧力に依存」したものである。
液体のマグマは周囲の固体マントルよりも軽い。
沈み込み帯には、2列の部分溶解帯が異なる深さに形成される。
これらを比較すると、浅い方がプレートから多量の水が供給されている。
つまり、浅い方の部分融解帯の方が多数の「ダイアビル」が発生するのである。
ж 「ダイアビル」:「貫入する」という意味のギリシャ語が語源である。
このことで、海溝側の火山列(東北日本では那須火山)にはもう一つの火山列(鳥海火山列)の2倍以上の火山があることを巧く説明することができる。
この2列の火山帯における火山数の系統的に相違は、東北日本のみならず、地球上の多くの沈み込み帯で認められる一般的な特徴である。
日本列島は圧縮されているから地震が多発すると表現したが、厳密に言えばこれは正しくない。
なぜならば伸張力によって正断層が形成されても地震は起きるからである。
このことも考慮して、「応力」という言葉を使うことにする。
応力が作用することで、地盤が変形したり断層運動が起こるのである。
応力は英語ではストレス:stressと言う。
よく「最近ストレスが溜まってね」と聞くが、これは滑稽な表現である。
ストレスは力であり決して溜まることはない。
溜まるのは、「歪み(ストレイン:strain)」である。
応力がかかると物資は歪み、その歪みが一定量を超えると破壊や変位が起こるのである。
したがって、科学的には正しい表現をするならば、
「日頃のストレスのせいでストレインが溜まった」とすべきである。
この「熱い指」は沈み込み帯のマグマの発生に大きな役割を果たしている。
水の供給で融点が下がってできた部分融解帯で発生するダイアビルやその中に存在するマグマの温度は1,000℃、しかし、沈み込み帯の玄武岩マグマは1,300℃もの高温である。
この役割を担うのが熱い指だと思われる。実際、東北日本では比較的火山が密集する部分の下に熱い指が存在し、指の隙間に相当する所には地表に火山は分布していない。
千島火山帯
那須火山帯
鳥海火山帯
富士火山帯
乗鞍火山帯
白山火山帯
霧島火山帯
火山前線:阿蘇山・雲仙岳・薩摩硫黄岳・諏訪之瀬島
なぜ日本列島に地球上で最も火山が集中するのか?
火山現象が頻出する日本列島でも、東北日本に圧倒的に多くの火山が分布することが判る。
それに対して、西南日本ではそれほどの密集しているわけではない。最も大きな違いの1つはプレートの沈み込み速度である。東北日本では地球上で最も高速にプレートが沈み込んでいるのに対して、西南日本ではその約半分のスピードでおまけに斜めに沈み込んでいるので有効速度はさらに小さい。このようなプレートの沈み込み速度と火山の数の間の相関関係は、日本列島のみならず、世界中の沈み込み帯で認められる普遍的なものである。
沈み込み帯のマグマの発生は、プレートから供給される水が引き起こす。したがって、沈み込み速度が大きくなればなるほど水の供給率が高くなり、部分融解帯から上昇する「ダイアピル」の発生率が高くなる、つまり、多くの火山が形成されるというわけである。
~~なぜ日本列島はこの形をしているのか?~~
「花づな列島」「弧状列島」
地球が球形であるために直線ではなく弧状に発達するのである。
数千年前より古い時代の岩石では、西南日本と東北日本の岩石が示す磁北の向きが異なっていたのである。この奇怪な結果は、もともと棒状であった日本列島が過去数千年の間のいつかに折れ曲がったことを示している。
その結果、今から1,500万年前のこと。
わずか100万年ほどの短期間に、西南日本は時計回り、東北日本は反時計回りに回転したことを突き止めたのである。つまり、1,500万年以前の日本列島はアジア大陸の一部であり。回転運動を伴う日本列島の漂移によって、日本海が誕生したのだ。
日本列島がどのくらいのスピードでアジア大陸から漂移したのか?
最大移動量を見積もるとおおよそ500kmとなる。
そしてこの移動がほとんど回転運動時に起こったとするとその期間は約100万年。
なんと年間50cmの猛スピードで日本列島は移動したことになる。現在の地球では、最速のプレートの1つである太平洋プレートですら最大で年間10cmほどなのであるから、日本海拡大時の日本列島は明らかにスピード違反である。アジア大陸からすれば、みるみるうちに日本列島が沖合いへ消え去っていったに違いない。
1,400万年前に突如として火山活動が始まった。
例えば紀伊半島では、複数の巨大カルデラの集合体:カルデラクラスター:が誕生した。
修験道の聖地大峰山、名瀑の那智の滝、そして橋杭岩などの奇岩はこの活動で作られたものである。
「サヌカイト(=讃岐石)」
高松の土産物屋では必ず見かける光沢のある真っ黒い石である。
1964年の東京オリンピックの開会を告げたのもこの石であった。
●海洋プレートは、海底を走る大火山帯である海嶺でマグマが冷えて固まり作られる。
このプレートは時間とともに海嶺から離れて冷えて重くなり、やがて海溝から地球内部へと落下する。この場所が沈み込み帯である。
●沈み込むプレートには下向きに重力が作用し、これがプレート全体を引っ張ることでプレートは動いている。プレートは自重で運動しているのである。
●海洋プレートがマントルへ潜り込む角度やプレートの年齢が、陸側プレートに作用するストレス(応力)を左右する。
●東北日本や西南日本ではプレートの沈み込み角度が小さく、また上盤(陸側)プレートとの結合が強い。そのため陸側プレートの一部である日本列島に大きなストレスがかかって歪みが蓄積する。
●この歪みが限界に達すると、断層運動が起こり地震が発生する。
またその際の海底地盤の変位が津波を引き起こす。
●スポンジのような海洋プレートは、マントル内へ沈み込むことで圧縮され、水が放出される。
この水の作用により沈み込むプレート上にあるマントル物資が融けやすくなり、マグマが発生する。
●沈み込み帯にある火山で爆発的な噴火が起こるのは、もともと沈み込むプレートからもたらされた水分が、地殻の中にできるマグマ溜りの中で発泡するからである。
●日本列島に地震と火山が集中するのは、海嶺で誕生したプレートが冷却して重くなり、地球内部へと沈み込む必然の結果である。
●現在の日本列島の形は、日本海の拡大による日本列島のアジア大陸からの分離と移動、それに四国沖の海底:四国海盆:の拡大による伊豆・小笠原・マリアナ弧の東方移動によって出来上がった。これらの2,000万年前に起こった大変動は、プレートの沈み込み帯特有の現象である。
==第三章 なぜ地球にはプレートテクトニクスがあうのか?==
45.7億年前::地球の誕生
45.2億年前::月の誕生
火星ほどもの大きさの原始惑星「テイア」が原始地球の重力に引き寄せられて衝突したのである。幸いにも正面衝突ではなかったために原始地球は壊滅的な破壊は免れたが、その一部はテイアの残骸と共に大量の破片となって地球周囲の軌道上に残ってしまった。
この破片同士が合体して月が誕生したのである。
この月の形成は相当の短期間で起こったらしい。ある計算では僅か1ヶ月程度という値がはじきだされている。
大規模ではなかったにせよ、その後も微惑星の衝突は続いた。
現在の地球ではその後の変動によって微惑星衝突の証拠はかき消されてしまっているが、月表面のクレーターがこれらのまるで重爆撃のような凄まじい衝突の様子を記録している。
微惑星の重爆撃は40~30億年前まで続いたことが判明している。
また、この間にも地球ではマグマの海が徐々に冷え固まっていったようだ。
現存する地球最古の鉱物や岩石::それぞれ43.8億年前、42.8億年前に形成::はこの冷却過程で造られたものである。
2018年8月、日本列島の歴史を塗り替える大発見があった。
富山県宇奈月渓谷の花崗岩の中に37.5億年前という年代を示すジルコンという鉱物が見つかったのである。
7.3~6.4億年前「全球凍結事件」
38億年前::最古の生命痕跡:プレートテクトニクスと海の存在
32億年前::光合成生物の出現
25億年前::大気と海洋の酸化
21億年前::真核生物・酸素呼吸のバクテリアの出現
10億年前::超大陸ロディニア
5.4億年前::生物の大爆発
2.51億年前::生物の大絶滅・シベリア洪水玄武岩
6500万年前::恐竜絶滅・隕石衝突
地下の温度上昇の割合を示す指標として「地温勾配」がある。
100mあたり3℃上昇する。
地球内部には深さ2,900kmに最も顕著な不連続面があり、これがマントルと核の境界である。
さらに核の内部には5,100kmの深さにも不連続面が認められ、外核::液体::と内核::固体::を区分する。
#地球の半径6,400km
外核と内核の境界は、鉄ニッケル合金の5,100kmに相当する圧力下での融点に相当する。
その温度は5,500℃である。
上部マントル
深さ100km 1,350℃
400km 1,490℃
670km 1,610℃
2,700km 2,330℃
2,900km 3,800℃
5,100km 5,500℃
6,380km 5,500℃
●プレート沈み込み帯では二酸化ケイ素に富む軽い安山岩質マグマが作られ、それが固まることで盛り上がった大陸が作られた。いっぽう海は、単に海水が溜まっている場所ではない。大陸に比べて重い玄武岩質マグマが海嶺で作られ、大陸より低地を形成する宿命にあったのである。
==第四章 日本列島に暮らすということ==
地震予知とは・・・将来的に発生する地震の、場所、日時、規模を予め知ることである。
「予報」「予知」「予測」・・・この順で信頼性は低くなる。
平成22年から、紀伊半島沖熊野灘の東南海巨大地震想定震源域で、リアルタイム地震・津波観測監視システムの運用が始まった。陸域のみの観測に比べて地震の発生を10秒以上早く、しかも正確に探知することが可能であり、津波についてもこれまでより10分以上早期にしかも正確にその規模や到達時刻を予測することができる。
地震の前兆現象「前駆滑り」
「全国を概観した地震動予測地図」
地震調査研究推進本部
地震予測地図の作成にあたっては、主要な:延長20km以上の:活断層110について、地下に溝を掘って地質学的手法によって断層の活動履歴を推定するトレンチ調査を実施した。
この調査で判明した過去の地震の発生時期も含めて地震発生確率を求めるのである。「
地震発生確率は、過去の地震周期と最後に地震が起こった時期から算出する。
確率分布とは、最後の地震から、ある時間経たときに地震が発生する確率を示すものである。
地震発生過程を表現する際に最も適した関数として採用されるのがBPT関数と呼ばれるものである。この関数はもともと、かのアインシュタインが解明した液体中に浮遊する微粒子が行う不規則な運動:ブラウン運動:を記述するものであり、地震を発生させる歪みの蓄積が時間的に一様ではなく擾乱を含むことを巧く表現できるのである。
幸いにも地震が起こらなければ地震発生確率はどんどん高くなることを肝に銘じるべきである。
中長期予測は信頼性がそれほど高くない。
過去の地震記録が比較的豊富な東海地震ですら周期には大きな誤差が伴う。
ましてや内陸部の活断層の活動度評価は甚だ困難である。
トレンチ調査で判明するのは過去の地震の一部なのである。
断層の運動は不均質であり、場所によっては過去の変位を明瞭に記録していないことがしばしばあることを忘れてはならない。
例えば1995年兵庫県南部地震について、現時点で得られるトレンチ調査のデータを用いて、この地震発生直前から30年間にM7クラスの地震が起こるその確率を求めると、0.03~8%となる。しかし、実際には、直後にあの大震災が発生した。確率とは所詮こんなものである。
安心するための数値ではなく、備えをするためのものである。
ましてやこの数字を、90%以上の確率で地震は起こらないなどと解釈するのは、単なる数字のお遊びであり、愚の骨頂である。
つまり、人口の増加そして集中が地震被害を大きくくることは明白である。
もはや明瞭である。
私たちを必ずや襲う地震・津波に対する最大の対策は、人間、社会機能の集中を避けることしかない。何度も言うが、人口と機能の一極集中を回避することである。
~~火山の噴火は予知できるのか?~~
火山活動の多くは、地下のマグマ溜りへの新たなマグマの注入が誘発する。
火山活動とマグマの活動の間には明瞭な因果関係がある場合が多い。
火山噴火に関するハザードマップは、いまでは30以上の火山について公表されている。
ただ、「山体崩壊」の影響はほとんど考慮されていない。
「巨大噴火」ではたった1度の噴火で、なんと100億トン以上ものマグマを噴出する。
溶岩に換算すると、東京ドームの5,200杯、火山灰だと13,000杯分。
過去12万年で、日本列島では21回の巨大噴火が起こっている。
このような巨大噴火では、地下に蓄えられていた多量のマグマが一気に放出されるために、地下に巨大な空洞ができる。この空洞は崩壊し、地表が陥没して「カルデラ」と呼ばれる火山地形となる。
100万年前、那須岳と猪苗代湖の中間地点の「羽鳥湖」周辺でカルデラ形成を伴う巨大噴火が起こり、大規模な火砕流が発生した。石材として使われている「白河石」である。
日本列島の巨大噴火について、その周期を求めるとおおよそ5,500年となる。
敢えて単純に巨大噴火が時間空間的にランダムに発生するとして、日本列島で今後100年以内に巨大噴火が発生する確率を求めると、驚くなかれ70%を超えるのである。さらにもう一桁巨大なもの:周期12,000年:では50%弱、そして阿蘇4クラスの超巨大噴火:周期4万年:でも20%近い高確率である。
~~通常噴火と巨大噴火のメカニズムの違いと、巨大噴火で予想される前兆現象~~
通常噴火
マントルダイアピル→玄武岩質深部マグマ溜り:小規模な地殻溶解→安山岩質浅部マグマ溜り→安山岩質のマグマ活動
巨大噴火の前兆現象
マントルダイアピル→流紋岩質マグマの大量発生、これが巨大噴火を引き起こす:大規模な地殻溶解→火山性大地震の発生地殻変動→流紋岩質マグマ:軽石の噴出&玄武岩質マグマの噴出&流紋岩質:溶岩の噴出
『日本書紀』には地震を記述した箇所も多い。
当時は地震を「なゐふるふ」と読んだそうである。
ナ・・・は土地
ヰ・・・は居
フルフ・・・は震うで、地震の震えを意味する。
日本最古の地震記録は、『日本書紀』にある416年の大和河内地震。
599年には奈良を震源とするM7クラスの地震
679年の筑紫地震
684年には、記録に残る最古の巨大地震、白鳳地震。
この地震はその範囲や被害状況からM8.4の南海・東南海・東海連動の巨大地震であったと考えられている。
何せ超巨大噴火では日本の人口の1割以上もの命が一瞬にして失われ、ほぼ全国的に都市機能は喪失する。そして幸運にも生き延びた人たちも食料と水に窮乏する。
石灰石はセメントの材料や骨材、それに鉄鋼の生産に欠かせない資源で、日本では年間1億5千万トンも使われている。しかもその埋蔵量は59億トン。良質の珊瑚礁起源のものである。
サンライズ鉱床:明神海丘カルデラ
ライジングスター鉱床:明神碓カルデラ
白嶺鉱床:ベヨネーズ海丘カルデラ
伊平屋海丘群:沖縄トラフ
1000万トン規模の黒床が見いだされ、金、銀、鉛、亜鉛などが高純度で含まれていることが確認されている。例えば明神碓のカルデラライジングスター鉱床では、1トンあたり20g程度のもの金を含む鉱石があり、単純計算で200トンの金が眠っている。
またこれまでの海域調査によって、日本列島周辺には大量のメタンハイドレートが分布。
メタンガスが都市ガスの主成分である。
西南日本
沈み込み角度 20度以下
沈み込み速度 45mm/年
沈み込むプレートの年齢 2,000万年
東北日本
沈み込み角度 40度以下
沈み込み速度 80mm/年
沈み込むプレートの年齢 1億5,000万年