静江は冷静に義男の行動をみていた。
ここで取り乱しては多佳子の思うつぼだ、そう判断したのだった。
暫くして小学生になったばかりの娘が帰ってきた、娘の葵は母親を見つけるや否や泣き出して抱きついた
『お母さんどこに行ってたの?葵はずっと待ってたのよ』
実の母親には勝てない、まして小学生の多感な娘は母親を選ぶに違いない!
静江は葵の行動に気持ちが揺れていた・・・
血が繋がっていないとは言え自分の子供として愛してきた2年間、母親になろうと努力して世話をしてきたのは静江だ!
息子3歳、娘6歳の時に多佳子は捨てて行ったのだ!
静江は気持ちを抑えて
『義男さん、悟を幼稚園に迎えに行ってきます』
『あっ、もうそんな時間か気をつけて行っておいで』
静江の悟を迎えに行く事に多佳子は口を挟まなかった!!
娘の葵に急に姿を消した母親の溝を埋めるべく手立てを探っていたからだ・・・。
息子の悟は幼かったが多佳子が家を出た当時、葵は6歳・・・
ある程度の理解は出来ているはず、娘を味方につければ、
静江を追い出す為に優位になる、ありきたりだが子供達を丸め込めば何もかも思い通りになる・・・・。
存分に自分の存在を強硬にしてから義男を取り戻す作戦だ!!
静江は悟を迎えに幼稚園に来ていた。
『ママ~』
悟は静江をママと呼ぶ程に慕っていた・・
しかし説明しなくてはなるまい・・・・・。
『悟ちゃん、実はね、悟ちゃんの本当のお母さんが戻ってきたのよ』
『本当のお母さんは、お父さんと僕とお姉ちゃんを捨てて他の男の人と家出したってお父さんが言ってたよ』
『そうだったけど、今日、帰ってきたのよ』
『本当のお母さんが帰ってきたらママはどうなるの?』
『悟ちゃんは、どうしたら良いと思う?』
『僕はママがいい、だって本当のお母さんは僕が小さい時に捨てて行ったんだよ、いらないよ』
『だけどね悟ちゃんを産んでくれた人だからね』
そんな会話をしながら帰宅。
静江は血の絆は切れない、子供達は多佳子を慕うだろう寂しいが仕方ないと思った。
悟と帰宅した静江を待ってたのはエプロンをして台所に立つ多佳子の姿だった・・・・。
義男は食卓に黙って座っていた。
多佳子は悟を見て
『悟ちゃん会いたかったわ』
予想に反し悟は実母の多佳子を無視した。
多佳子は静江を睨み
『あんた、悟を迎えに行って私の事を無視しろとでも言いつけたの?』
『ママはそんな事、言ってないよ!お母さんと仲良くしろって言ったよ、だけどお母さんは僕が小さい時に捨てて行ったじゃないか』
意外な反抗に多佳子は涙を流して悟を抱きしめ
『悟・・・ごめんね、お父さんとお母さんが喧嘩して少しだけ遠くに行ってたの、だけど直ぐに戻ってきて悟や葵を遠くから何時も見ていたのよ』
そんな様子を義男は黙って見ていた。
『多佳子さん子供達と離れてた分、話したい事沢山あるでしょ?食事の支度は私がしますから子供達とお話しでもしててくださいな』
『あら何を言ってるの義男さんと娘が私の手作り料理を食べたいって、ねぇ?葵ちゃんお父さんも言ってたわよね』
図々しくも、自分勝手な理由で家出して、捨てられて行くあてのなくなった多佳子の身勝手な振る舞いに義男が何故、好きなようにさせているのか静江には理解出来なかった。
結局、夕食は多佳子の手料理となった。
重々しい雰囲気の中、多佳子と娘の葵だけは違った・・・
普通の仲の良い親子だ、何年も離れてた事なんて一瞬で忘れたようだった。
『さっ、葵ちゃんも、悟ちゃんも寝る時間よ』
昨日までは普通の会話にも多佳子が口を挟む
『悟と葵の事は私が面倒みます』
とっさに何も言えなくなる静江だった。
『義男さん私はどうしたらいいの?』
『すまん、子供達の事は子供達の考えを尊重しようと思う、
多佳子が帰ってきて、俺も頭がパニックなんだよ』
義男は寝室に引っ込んでしまった。
静江はなすすべもなかった、義男の態度が情けない・・・・
少しも自分を労わってくれないもどかしさ・・・・・
多佳子はちゃっかり子供達の部屋に入って出てこない、
元とは言え子供達の母親だ子供は多佳子のものだが義男は?
そんな思いを胸に義男のいる寝室で休む勇気がなかった、今日は客間で寝よう、静江は客間のソファーに横になった。
ドタバタの1日が終わり眠りについた頃、多佳子の計算通り静江は客間で眠っている、元の妻の前で義男と一緒の寝室では寝ないだろうと踏んでいたのだ!
多佳子は義男の寝室に静かに入っていった。
.:*:・'゜★゜'・続く:*:.。.:*:・'゜: