きっかけはひょんなことだった。
民族音楽学者が集まる海外の学会で、ジャワの伝統武術シラットを研究しているドイツ人のおじさん音楽学者と友達になって、シラットの熱いマニアックな話をいろいろ聞かせてもらった。とくにジャワ西部ではシラットは舞踊とのつながりがとても濃くて、音楽伴奏で演武することもあるのは知っていたのだけど、それまでとくに意識したことはなかった。
それからしばらくたって、バリでググンタンガンを習っている師匠が、そういえば昔はシラットの達人だったというのを思い出した。300人ぐらい弟子がいて、生涯負けたことがないといっていたけど、年寄りの自慢話ぐらいに思っていた(ごめんなさい)。「ジャワでは音楽に合わせてシラットやるよね」というと「バリでも音楽やるよ」という返事。「えっどんな音楽?」ときくと、ググンタンガン編成にレヨン(小さいこぶつきゴング)2個を加えた編成だという。20年もバリに通っていながら全く知らなかった。しかも灯台もと暗し。
かくして、既に引退したからもうシラットはやらん、という師匠に粘り強くお願い、お願い、お願いし、また他の音楽家にもお手伝いをお願いしてかつての音楽を再現し、師匠のシラット実演付きでビデオを制作することになった。それが2年前のこと。リヴァイヴァルしたシラットの音楽と演武は予想以上のかっこよさ。10年のブランクがある師匠のシラットも、無駄のない動き、年齢ゆえのゆったりとしたテンポ感と余裕で当時のググンタンガン初期メンバー、全員、悩殺されてしまった。
そういうわけで是非これをやってみたいということになりました。今回は空手を習っていたというバリ人、コマンさんが空手ミックスシラット風というのか、シラット風空手というのか、演武を披露してくれます。バリでも今は、なかなか見られない武術とググンタンガンの組み合わせ。
シンプルでひょうひょうとしたググンタンガンの音楽と、意外なほどよくあう武術の動き。師匠いわく、「音楽が闘志をかきたてる」。そして武術の動きが本来的には優雅で美しいということを、音楽の力が再認識させてくれる。日本にはないけど、ブラジルのカポエイラやイランのズルハネのように武術と音楽、本来はよく合うのだと思う。授業で上記のビデオを紹介したところ、「音楽がいいですね」という学生がいて、「でしょでしょ~」という感じ。
みなさんのまわりに武術が得意で、音楽と一緒にやってみたい人はいませんか?コマンさんは相手役をほしがっております。空手でも、シラットでも、拳法でも可。かっこよく演武できる人、大絶賛募集中。