寂れた旅先に
故郷の名残を誘うものがある
そんな話を聞くたびに
私も旅したい
残り火が消えぬ間に
往く道に二人連れ
来た道に影二つ
そんなふたりの人生に
後先にふたつずつ
足跡が弾んでいた
無言で微笑み
さりげない会話
あ、うんの呼吸
自然と解け合って
弾んでいた
生きる力に萎える時
故郷が恋しいという
そんな話を聞くたびに
私も行きたい
そんな恋しい故郷に
故郷に想いを馳せて
故郷が枯れたという
そんな話が聞こえてきた
私は…もう帰れない
あの懐かしい故郷に
あの山も、川も
あの空も、海も
昔話になっていた
私の故郷は消えた
思いを果たせぬまま
故郷を訪ねては
安らぎが待っていた
そんな話を聞くたびに
私も欲しい
そんな故郷の安らぎを
私も知らぬ野辺の花
野辺の滴に咲き誇る
そんな話を聞くたびに
私も咲きたい
そんな花のように
故郷の山奥に
産声あげる湧き水がある
そんな話を聞くたびに
私も聞きたい
そんな産声を
この空も、海も
昔はもっと澄んでいた
そんな話を聞くたびに
私は見たい
そんな澄んだ空と海
この山も、川も
昔はもっと若かった
そんな話を聞くたびに
私は、見たい
そんな若い山と川
さりげなく美しく
四季を友に生きていた
そんな話を聞くたびに
私も生きたい
そんな時の流れに
その日が最後で
それから一年経っても
その老婆の姿を見ない
あの曲がった腰を支え
杖をついていた老婆が懐かしい
不意に思い出した
「毎日、拝んでるか」
あの突飛な言葉が
妙に思い出され
心に、手を合わせていた
見知らぬ老婆と出会い
言葉を交わし
拝む言葉を最後に
忘れていた何かを
思い出していた