桜の木をはるかに凌駕する高さだ。
2021年、私はこの辺一帯の雑木を10本ばかり伐採した。
その時、この木には手を出せなかった。
その頃すでに相当な高さで簡単には登ることができなかった。無理をしたら怪我しそうだった。
また、伐採できたとしても倒れ方によっては近くの家を壊す恐れもあった。
素人の手におえる木ではないと私はあきらめた。
翌年、後悔した。
桜の高さを超えてからというもの、その木は一気に巨大化したのだ。
太陽の光を独占した結果だ。
桜の木が日陰になる。
何より、お隣の独居のおばあちゃんが、家に日が差さなくなったと嘆かれる。
別に私に責任があるわけではない。
私はボランティアでツツジ園の雑木を切っていたのだから。
でも、そのことがずっと気になっていた。
2024年11月
私は強力な協力者を得た。
ツレの弟だ。
弟は消防士だ。
消防士は高所の作業のノウハウがあると思い、弟にその木を見せた。
彼は言った。
「1時間もあれば」
一瞬、トランプが脳裏によぎった。
ロシアとウクライナの戦争を1日で終わらせると発言したあのトランプのことが。
必要な道具を尋ねた。
「1本のロープとチェンソー」
あいにく、チェンソーは実家だった。
それでも、上の方の枝だけでも落としてもらえればとお願いした。
すぐに作業は始められた。
途中、つかまるところがないあの木にどうやって登るのだろうか?
これからは弟のことを挑戦者と呼ぶことにする。
挑戦者はロープを片手に、隣の桜に登りはじめた。
桜の木に立った彼は巨木に向かってロープを投げた。
ロープは見事に巨木の枝に掛かった。
挑戦者はそのロープを命綱にして巨木に移ることに成功した。
ロープにくくりつけた手鋸を受け取った彼は、あっという間に枝を切り落とした。
手鋸を片手に
バッサバッサと
とにかくあっという間だった。
任務を全うした。
あの高さから下りるのも容易ではなかろうと周囲は心配したが
それは杞憂だった。
あれよあれよという間に
桜に立っていた
遠巻きに見ていた隣のおばあちゃんが言った。
「サーカスのようだった」と。
この日の作業はここまでだったが、チェーンソーがあったら本当に1時間で終わっていたかも知れない。
彼はけっしてトランプのようなビッグマウスではなかった。
神様は居るものだ。
この日、たまたまわが家の屋根の修理に大工さんがきていた。
大工さんに聞いてみた。
「チェーンソーはお持ちじゃないですか」
「持っているよ」
次の朝、ピンポンが鳴らされることなくチェーンソーが置かれていた。
-続く-
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