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古山明男著『変えよう!日本の学校システム 教育に競争はいらない』(平凡社)

2006年08月24日 | 知のアフォーダンス

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 このブログでも取り上げた2003年度のPISAの結果を受けて、最近、にわかにフィンランドの読書教育や国語教育が注目を集めているという。たしかに、フィンランド・メソッド、フィンランドの読書教育、フィンランドの国語教科書などの出版や講演会が相次いでいる。だが、たとえば北川達夫・フィンランド・メソッド普及会著『図解フィンランド・メソッド入門』(経済界)を読んでみても、そこで紹介されている手法がとくに目新しく画期的だという印象は受けない。それは、いわば世界各地で行われている授業のスタンダードの集大成というべきもので、わが国でも学校図書館を活用する課題探究や調べ学習などで実践されているものが多い。

 これまでの読書教育において、書かれた内容を読み取り、その内容を吟味し、それについて話し合う力を育てるという視点が、これまで日本の教育にまったく欠けていたわけではない。さまざまな創意工夫や実践が行なわれてきたにもかかわらず、多くの教師が目を向けず、それを継承発展させて、わが国の国語教育や読書教育のスタンダードにまで高めてこなかった。それは、教師一人ひとりの意識や技量が欠けていたからではなく、そのような教育環境をつくってこなかった戦後の教育政策に問題があったのではないか。わが国で生徒の学力と教師の指導力の低下が話題になるとき、教師個人の資質の向上だけがとりざたされるがことが多いが、教師や生徒の多様な発想や思考を引き出して育てることをしないで、ひとつのシステムに乗せて一定の方向に誘導することに重点をおいてきたわが国の教育のあり方が問題だったのではないか。フィンランドの教育が優れているのは、その教育政策によるところが大きいにちがいない。フィンランドの歴史によって培われてきた文化や社会の意識を反映した教育改革が、人々に支持されていることにも注目したい。そんなことを考えているときに、この本が目にとまった。

 まず、本書は、塾という、学校現場から少し距離をおいた立場から、「たてまえ」や「べき」をはずしたところでみえてくる生徒、教師、学校の現実を的確にとらえている。最近ようやく、同じように少し距離をおいて学校現場をみられるようになった私には、そう感じられる。だから、そのような状況を生み出してきたのは、入試制度を機軸とする単線の学力観と「中央集権無責任体制」すなわち日本の教育がお役所仕事でがんじがらめになっていることだ、という本書の主張に同意できる。

 問題は、多様な価値観に基づく多様な学校を創る自由を阻害してきた日本の学校システムにある。それを改善するには、儒教的な伝統の社会を背景にして国家統一カリキュラムと立身出世主義を組み合わせようとする東アジア型の教育を脱して、人々が受けたい教育の自由な選択肢を用意しようとする北欧型の教育を目指すべきだと本書は提言する。だが、北欧型の教育といっても、決して一様ではない。各国の教育システムの特徴を筆者は次のように要約してくれている。
多様な教育と学校選択のオランダ
自分たちの学校作りのデンマーク
生涯教育のスウェーデン
教師主導型のフィンランド
 実際に、それぞれの国の教室にどのような違いがみられるのか、知りたいところである。
 最近出版されているフィンランドの教科書を見ると、たしかによくできていて、参考になることも多いが、ここにも教師主導型の教育体制が読書教育にも反映されているのが読み取れる。この夏、北欧の教育を視察してこられた知人に聞くと、公共図書館が発達し家庭での読書習慣が根付いているフィンランドよりもデンマークやスェーデンのほうが、子どもたちが自主的に学ぶ場としての学校図書館の活用が進んでいるという。

 では、日本は今後どの道を選択するのがよいか。この他にもいろいろなモデルを選択肢として示したうえで、広く国民に問うべきだろう。

古山明男の教育論サイト

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