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絵本『バスラの図書館員:イラクで本当にあった話』(絵と文ジャネット・ウィンター、長田弘訳、晶文社、2006年4月)は、2003年、米英軍によるイラク侵攻がバスラにまで及んだとき、中央図書館から蔵書のうち約30,000冊を運び出して戦火から救った司書アリア・ムハマンド・バクルさん(Alia Muhammad Baker)の話がニューヨークタイムズ紙に載ったのを絵本にしたもので、原書は中高生の英語の読み物としても使えます。
バスラの図書館員―イラクで本当にあった話晶文社このアイテムの詳細を見る |
Jeanette Winter “The Librarian of Basra: A True Story from Iraq” (Harcourt, 2005, ISBN 0152054456)
The Librarian of Basra: A True Story from Iraq | |
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HMH Books for Young Readers |
なお、収益の一部はアメリカ図書館協会の基金を通じてバスラの中央図書館の再建のために使われるそうです。
また、この絵本より少し前に同じテーマを扱った次の絵本も出版されているので読み比べてみるのもいいでしょう。
Mark Alan Stamaty “Alia's Mission : Saving the Books of Iraq” (Knopf Books for Young Readers, 2004, ISBN 0375832173)
Alia's Mission: Saving the Books of Iraq | |
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Knopf Books for Young Readers |
これらの絵本の元になったニューヨークタイムズの記事のタイトルは、AFTER THE WAR: THE LIBRARIAN; Books Spirited to Safety Before Iraq Library Fire(New York Times, July 27, 2003, Sunday By SHAILA K. DEWAN)です。有料で提供されています。
つい先日の5月6日にも、バスラで英軍のヘリコプターが墜落し、ミサイルかロケット弾で撃墜された可能性があると報じられていて、この絵本がフィクションではなく、現在も同時進行で実際に話が進んでいることをあらためて思い知らされました。家庭や学校で、子どもたちと一緒にこの絵本を読んで、アリアさんのとった行動、図書館の使命、戦火の中のバスラの人々の生活、宗教、戦争など、さまざまな切り口から問いかけながら一緒に考え、話し合っていただきたいと思います。子どもたちは、きっと、いろいろな発見をしてくれるでしょう。この絵本には、その手がかりとなるフレーズがちりばめられています。
「アリアさんはのぞみをすてず新しい自由のときがくると信じています。そのときがくるまで、図書館の本はまもられています。バスラの図書館員の手で。」
そして、もしも平和や自由のために私たちに何ができるかを考えたいと思う中高生たちがいたら、私は次の本も紹介してあげたいと思います。
伊藤哲司著『非暴力で世界に関わる方法:心理学者は問いかける』(北大路ブックレットNo.1、2006)
非暴力で世界に関わる方法北大路書房このアイテムの詳細を見る |
この冊子の著者は茨城大学の先生で社会心理学がご専門ですが、昨年の秋に兵庫県の白陵中学校・高等学校の文化祭で講演をされた記録と、その講演を聞いた3人の高校生たちが綴った文章で構成されています。私は、非暴力による問題解決の鍵は、他者とともに考え抜くことだと考えているのですが、それは他者と直接的に話し合うだけでなく、書籍や写真などさまざまな形で提供されている多様な資料や情報を吟味することも含まれます。本書では、そのような考えの展開の仕方が具体的に示されています。わずか61ページの小冊子ですが、さまざまな写真や本、資料や情報が紹介されているので、以下にそのいくつかを挙げておきます。これらの本を手にとって見れば、さらに発展的に考えを深めることもできるでしょう。
寺山修司著『書を捨てよ、町へ出よう』(角川文庫)
書を捨てよ、町へ出よう (角川文庫) | |
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角川書店 |
ダグラス・ラミス著『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』(平凡社)
経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか | |
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平凡社 |
R. J. Rummel “Death by Government”(政府による死)
Death by Government | |
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Transaction Pub |
高橋哲也著『国家と犠牲』(NHKブックス)
国家と犠牲 (NHKブックス) | |
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日本放送出版協会 |
藤原帰一著『戦争を記憶する―広島・ホロコーストと現在』(講談社現代新書)
戦争を記憶する 広島・ホロコーストと現在 (講談社現代新書) | |
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講談社 |
山本登志哉・伊藤哲司編『アジア映画をアジアの人と愉しむ―円卓シネマが紡ぎだす新しい対話の世界』(北大路書房)
伊藤哲司著常識を疑ってみる心理学―「世界」を変える知の冒険』(北樹出版)
常識を疑ってみる心理学―「世界」を変える知の冒険 | |
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北樹出版 |
寺山修司著『家出のすすめ』(角川文庫)
家出のすすめ (角川文庫) | |
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角川書店 |
世界からテロを大幅に減らすには一つの簡単な方法があります。それは「参加しない」ということです。(『ノーム・チョムスキー』(リトル・モア)
これは『非暴力で世界に関わる方法』の冒頭に引用されている言語学者ノーム・チョムスキーの言葉です。『ノーム・チョムスキー』(リトル・モア)は、2002年3月から5月に行われた、チョムスキー自身の講演、Q&A、インタビューを収録したパンフレットです(鶴見俊輔監修)。
Noam Chomskyノーム・チョムスキー | |
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リトルモア |
今、子どもたちの教育に最も必要なことは、考える力を育てることだと考えます。問題を把握し、解決に必要な情報を求め、吟味し、考え、他者と対話する。問題を把握するとは、問うこと、疑うこと、すなわち批判的な精神を育むことにつながります。基本は「地図と現地のたとえ」を忘れないことです。
「地図は現地ではない」
ことばや記号(が表す概念や思考)は、事実そのものではない。ことばや情報をむやみに信用するな。「~と思っていること」「~と言われていること」「~と見えること」にたいして、本当かどうか確かめてみようという姿勢が必要である。確かめられないことについては、判断を留保しておくこと。
「地図は現地のすべてを表すとはかぎらない」
ことばや記号(が表す概念や思考)は、事実のすべてを表すとはかぎらない。「~と思っていること」「~と言われていること」「~と見えること」にとらわれていると、細部や個々の違いや変化を見落としてしまうことがある。どんな考えも「いつも」「すべて」「ぜったい」正しいとはかぎらない。環境も自分自身も常に変化していることを忘れないでおこう。
「地図についての地図をつくることができる」
言葉や記号(が表す概念や思考)について考えることができる。自分や他者の考えの根拠を問い直して、そのときの状況に適合するように修正したり、考えを広げ深めることができる。「ちょっと待って! 状況を把握したうえで、よく考えてから行動しよう。」私たちは、自然や社会・文化の環境の中で何らかの形で機能している存在(有機体)であることを見据えて、そのつど物事の関係をしっかりと把握しながら行動しよう。あえて「乗らない」、自分の行動を抑制することも一つの選択肢である。
人類が生き残るために、私たちは、その時、その場で、既存のことばや記号(が表す概念や思考)を実際の「出来事」(What Is Going On)に照らして問い直し、正気を維持しながら活き活きと生きていけるように再構成することが必要なのです。
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