1月9日、青柳啓子さんによる「大人のための絵本サロン・スペシャル」の第二弾を、小田急線新百合ヶ丘駅に近いウィーン菓子工房「リリエンベルグ」のティールームで行った。参加者はスタッフを含めて16名。リリエンベルグのオーナー横溝さんご夫妻も忙しい仕事の合間に参加してくださった。(参加者の報告が、ブログ「中学生と図書館」と「右腕をきたえたい」に掲載されている。)
午前中は「読書へのアニマシオン」の手法を用いて、バーバラ・クーニーの『ルピナスさん』を読んだ。2時間をめどにしたが2時間半が経ったところで昼食時間となった。青柳さんによると、優に3時間はかかるのが普通だという。6歳児以上を対象とした絵本、それも、これまでに一度は読んだことのあるおなじみの絵本だが、それを16人の大人が、ひたすら読み取っていく。だから正しく読めたという保証はまったくないが、予期せぬ展開があって楽しかった。自分一人では気づかなかったことに気づき、知らなかった知識も得られた・・・だけではない。そこから、さらに疑問がわいてきて、思考や想像を掻き立て、新たな発見にいたるという連鎖が、いまも続いている。
アニマドーラの青柳さんは、普段どおりのゆったりとした語り口で私たちを絵本の中に引き入れ、発言をうながし、受容していく。けっして急かさない間の取り方も絶妙だ。集中力が高まってきたところを、少し余韻を残して収束させていくのもアニマドーラの技量である。一連の過程はさりげないが、マニュアルに従ってできるものではない。意識的な体験を繰り返し、アニマシオンにたいする理解が深まるにつれて身についてゆくものだろう。
お昼は、ピタパンとお惣菜とカンパーニュサンドの組み合わせ。田園都市線の藤が丘駅に近いパンドコナ(PAIN de CONA)から取り寄せた。
午後のセッションは、コーヒーアロマの香り立つなかではじまった。まず『読書で遊ぼう アニマシオン 本が大好きになる25のゲーム』(モンセラット・サルト著/佐藤美智代・青柳啓子訳、柏書房、1997年)の共訳者でもある青柳さんに「大人のための絵本サロン」や手話による読み聞かせの会「まーの あ まーの」などご自身のやってこられた活動を語っていただき、そのあと、参加者一人一人の問題意識をもちこみながら学校や地域で子どもや大人の学びのためにアニマシオンをどのように活かしていくかを語り合った。
「読書へのアニマシオン」は、集団の遊びを通して一人一人の子どもが、その成長と発達に応じて読書の楽しみ方を知り、自分で好きな本を選んで、どんどん読んでいく力(=「読書力」)をつける活動である。そのために、参加者の多様性と自由意思、思考のための沈黙の時間、学校のカリキュラムの制約から自由であること、といった条件を整えておくことが大切である。この点で、PISAなどの「読解力」の成績を上げることを目標とする方法とは異なる。
まさに地域や図書館の活動として、うってつけではないか。学校でも課外の活動として図書館で行えるはずだ。「読書へのアニマシオン」が日本に紹介されてから14年がたつが、(学校)図書館関係者はどのように受けとめているのだろうか。司書のなかには「子どもに読後の感想を求めてはいけない」とか「指導をしてはいけない」(「読書へのアニマシオン」は指導するもの!?)といった観念にとらわれている人が多いという話があった。(なんというステレオタイプ!)図書館という場所があって、専門の司書いれば、その場所に魂(アニマ)を吹きこむ活動が多様に展開されているはずだ。たとえば、昨年翻訳出版された『フランスの公共図書館60のアニマシオン―子どもたちと拓く読書の世界』(ドミニク・アラミシェル著/辻由美訳、教育史料出版会、2010年)には、フランスの図書館における多彩な活動が紹介されている。そもそも「アニマシオン」とは、(学校におけるエデュカシオンを補完する)社会教育活動、生涯教育活動のことである。「読書へのアニマシオン」もフランスの公共図書館におけるアニマシオンも、その土壌の上に成り立っているのである。
日本にそのような社会的・文化的な基盤がないとすれば、それを作っていく活動も必要ではないか。子どもだけでなく青少年や大人のためのアニマシオンがあってもいいのではないか。文化的に多様なバックグラウンドをもつ人たちが自らの意志によって主体的に参加して、話し合い、ただ周りに同調するのではなく、それぞれが自分なりの思考活動を通してその場にかかわっていく。そのような場として、私は青柳さんの「大人のための絵本サロン」に共感し、応援したいと思っている。
フランスの公共図書館60のアニマシオン | |
ドミニク アラミシェル | |
教育史料出版会 |
<アニマシオン>とは何かを知りたい人には、下記の本をお勧めします。
『アニマシオンが子どもを育てる』(増山均著、旬報社、2000年)
『アニマトゥール フランスの社会教育・生涯学習の担い手たち』(ジュヌヴィエーヴ・ブジョル、ジャン=マリー・ミニヨン著/岩橋恵子監訳、明石書店、2007年)の第1章
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