片桐ユズルさんと最初に出会ったのは、教職について4年ほどたった頃だった。転勤した中高一貫校で中学1年生も担当することになり、入門期の英語の教え方を学ぶために「GDM英語教授法研究会」のセミナーに参加した。ユズルさんは、そこに講師として来ておられた。意外だった。詩人、関西フォークの擁護者として名前は知っていた。そのユズルさんが英語を教える達人だと知って心強かった。しかも、その教授法を支える意味論(『意味論入門』思潮社、1965)の話がずばぬけて面白かった。研究会で何度かお会いするうちに一般意味論の話になった。アメリカのセミナーに参加したら、とてもよかったという。奇遇というべきか。一般意味論には、学生時代から関心をもっていた。大久保忠利の『言葉の魔術』(日本放送協会編、大日本雄弁会講談社ミリオン・ブックス、1957)やS.I.ハヤカワの『思考と行動における言語』(大久保忠利訳、岩波書店、1965)などを読んで、マスメディアをふくむ日常的な言語の使い方を批判的に見なおすよりどころにしてきた。「セミナーは毎年やっているから行ってみたら?」と言われて、1980年にカナダのトロント周辺で行われた2週間のセミナーと国際会議に参加した。それは、これまで本を通して抱いていたイメージとはまるで違っていた。言語のレベルだけでなく、感覚、感情、認識を統合して、有機体としての人間まるごとが環境とかかわりあう多様なセッションが用意されていて、そこで世界とつながって生きている自分を実感し、自らの生き方そのものを見なおすきっかけとなった。
ユズルさんは、その後、アレクサンダー・テクニークの普及と指導に力を注いでこられたが、その傘寿を祝う会が、詩人として関西フォークの擁護者としてともに活動してこられた人たちをゲストに招いて2月6日に行われる。
片桐ユズルさん、傘壽お祝いの詩の会
2月6日(日)14:00~17:00
ザ・パレスサイドホテル(地下鉄丸太町駅下車)
ゲスト:
秋山基夫さん(岡山在住の詩人)
中川五郎さん(東京在住の歌手)
矢口以文さん(札幌在住の詩人)
片桐ユズルさんの話:「戦争と意味論」(仮題)
途中、ティータイム・歓談の時間も設けます。
費用:一人5000円/+お祝い金
(関心のある方は、連絡をください。)
アルフレッド・コージブスキー(Alfred Korzybski)は、第一次世界大戦に従軍した経験を通して人類が狂気に陥らないで正気で生き延びる方法を開発することが必要だと考え、科学的認識の発達と人間性の成熟(“Manhood of Humanity”, 1921)を一致させる教育方法として一般意味論を考えたのだという。ユズルさんも軍国主義の中で少年時代を過ごしたことが、現在にいたる活動の原点になっているそうだ。第二次世界大戦がはじまった1941年に生まれた私は、大阪大空襲における被災体験がもっとも古い記憶として残っていて、敗戦後の10年間に幼少期を過ごしたことが原体験になっている。
そんなことを考え合わせると、私にとっては意味論の先達としてのユズルさんの原点に触れることができるのは意義深い。古希を迎える私自身の足元を見なおし、これからの生き方を考える機会としたい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます